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短編小説

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#小説

小説「精霊」

「私が死んだらさ、どうしてもらいたいと思っていると思う?」
 ややこしい言い回しで彼女は聞いた。
「どうして、って何を」
「死んだ後の私を、ってこと」
「そうだね・・・毎月お墓に行くし、家にもちゃんと仏壇を作って毎日話しかけたり、死んだら退屈とかそういうのがあるか分からないけど、飽きないようにするよ、きっと」
「ありがとう、そのお墓のことなんだよ」
 彼女は、特に死ぬ予定があるわけではないのだけれ

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小説「ポータブル宇宙」

 ある時、プレゼントに、宇宙をもらった。
 「まだ大人とは言えないけれど、子どもというほどでもないから」とお母さんが言っていた。
 最近特に大流行りのやつで、皆持っているものだ。ただ、全く同じものはなくて、皆新しい漫画を読むように夢中になっている。電車の中でも、家の中でも、公園でも、誰もがいつでもどこでも触っている。お父さんが言うには、大人は夜の酒場でも触っていて、グラスを傾けながら、お互いの宇宙

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小説「日々」

 電車に乗っていたはずだった。
 そんな言葉が頭の中に浮かんだ時、ちょうど車両の窓から光が、不躾になだれ込んだ。なぜこうなったのだろう。あまりの眩しさに目を細め、意識は真っ白な視界に飛び込んでいく。この明るさに慣れるまで手間取る、瞬間の白昼夢。眩暈。

 今日はいつも通りに、何の淀みもない休日を過ごすつもりだった。ごく簡単な買い物でもしようと、街に出るため地下鉄に乗った。昼過ぎの電車は人もまばらで

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