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読書録『共鳴する未来 データ革命で生み出すこれからの世界』

本日は最近読んだ本をご紹介します。

『共鳴する未来 データ革命で生み出すこれからの世界』
著者 宮田 裕章

著者はヘルスケア分野におけるデータサイエンス・科学方法論の教授で、最近ではコロナ感染症対策で厚生労働省によるLINEを使ったアンケート調査とその分析の実施で中心的に活動された方です。

また、NHKの「クローズアップ現代+」等の番組でコメンテーターとしても出演されている方です。

手に取ったきっかけ

私の最近の関心事の一つとして、データの利活用が社会にどのような影響を与えているのかということを考えています。

データ活用によって、各個人の興味・関心に沿った内容を提示できるというパーソナルマーケティングが実現しつつある一方、データの収集や分析の場面で個人の特定や個人情報の保護に課題が生じ、各国でも様々なルール整備が進められています。

データの利活用は社会にとってプラスの面もマイナスの面もあるわけです。

そういったデータの取り扱いを調べる中で、個人情報と特に紐付きやすいヘルスケア分野のデータサイエンスの専門家によって書かれた本ということで、この本を手にとりました。

本書の概要

本書は著者の専門であるヘルスケア分野のデータサイエンスを入り口にして、データの活用による個人・社会のゆくえをテーマとしています。

本書は人と人、人と世界がデータを通じて共鳴することで生まれる新たな文明、そこにある希望を描くものです(「まえがき」より引用)

本書では、ヘルスケア分野でのデータ活用によって社会をどう変えていこうとしているのかについての紹介の後、データに価値をおくデータ駆動型社会によって社会経済がどのように変化していくのかを記載しています。

第一章:データ駆動型社会はヘルスケアから始まる

ヘルスケア分野でのデータ活用の事例について昨今の、コロナ感染症対策の事例も踏まえて紹介されています。

全国の病院からのデータを収集し、活用している事例として、外科手術のデータベースである「NCD」や日本病理学会主導の「JP-AID」が取り上げられています。

第二章:これからのデータ・ガバナンス

アメリカ、中国、EUにおけるデータの取り扱いについて各国の政策の違いについての紹介したのち、日本ではそれらをバランスよく取り入れるべきであり、そのための信頼されるデータ・ガバナンスのあり方として、データを共有財として捉えるということが提言されています。

またそのためのアプローチとして新しいプラットフォーム思想である「PeOPLe」と公共の利益のためのデータ活用を目的とした「社会的合意に基づく公益目的のデータベース(APPA)」の2つが紹介されています。

第三章:多元化するデータ・エコノミー

データ駆動型社会では、経済学における労働によってモノを生み出し、モノを売買することよって利益が生まれるという労働価値説とお金を前提とした価値の捉え方(例えばGDP)が難しくなっています。

データが価値の源泉になることから、お金で測定する価値に加えてデータに基づいた多元的な価値も共有されるようになるのではないかということが説かれています。

第四章:「生きる」を再発明する

お金だけではなくデータによって価値を共有できるようになったことで、社会のあり方も変わってくのではないかということが説かれています。

データ活用によって、国や行政に任せきりになることなく、社会の様々なコミュニティの中でアイデアが出され、取り組みが行われる。それによって一人ひとりの「生きるということ」を原点にしながら、一人ひとりが輝くという社会像につながるのではないかということが描かれています。

対談

2章から4章は各章ごとにそれぞれ分野の専門家との対談が収録されています。各章でキーワードになった言葉について、深く掘り下げて議論されています。

読んだ感想

手に取ったきっかけの通り、個人の特定や個人情報の保護の仕方等のデータの取り扱いについて関心がある中で読んだ感想としては、特に第2章のデータは誰のものかの議論について参考になる部分がありました。

私自身、GDPR等の各国の政策やデータ駆動型社会については他の書籍等でも情報は集めていて、知っている部分もありました。

例えば、データ駆動型社会に関する日本政府内の情報については以下にまとめています。

しかし、「PeOPLe」や「APPA」といった日本国内における共有財としてのデータを扱うアプローチの議論については把握していませんでした。

その意味で、データを共有財として捉えることについて対談を含めて深く触れられていたところは、新しい知識の習得になりました。

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