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第一章 ライバルの秘密(吉本蓮)(3)

 僕が変なことを考えたから、お父さんにまで失礼なこと言ってしまった。僕は話題を変えようとして、今日宮田君に言われた話をしてみた。
「ねえ、お父さんってKT大学出身でしょ。宮田君のお父さんがお父さんのこと知ってるって言ってたんだけど、お父さんは心当たりないよね。中学から大学まで同じなんだって」
 僕がそう言った瞬間、お父さんが驚いて身を乗り出した。
「宮田君って、もしかして宮田俊樹か? KT大学医学部に行った」
「宮田君のお父さんの名前は知らないけど、KT大学医学部は間違いないと思う」
「そうかあ、宮田俊樹かあ……」
 お父さんは何度も何度も頷いたあと、少し眉をひそめた。
「なんだよ、宮田のやつ、水くせえな。子供同士が同じ塾なら、連絡してきてもいいのに」
 そう呟くと、お父さんは「ちょっと待ってろ」と言って、スマートフォンを取り出した。
「電話番号が変わってなきゃ、これで通じるはずなんだけど……」
 そう言いながら、電話をかけ始めた。
 大丈夫かな、お父さん。僕の目の前だからって、見栄を張ることはないのに。相手は偉いお医者さん、そんなに無理しなくてもいいのに。
 しばらくして電話がつながったみたいだった。
「もしもし、宮田? なんだよ気づいたんなら電話しろよな……うん、うん、ああ、そうか。水本も近くに住んでんだ。へえ……」
 そう言いながら、お父さんは隣の部屋に行ってしまった。
 宮田君のお父さんと、僕のお父さんが同級生だったのは間違いないようだけど、たぶん宮田君のお父さんは優等生、僕のお父さんは劣等生だったんだろうな。そんなことをぼんやりと考えていた。
 しばらくしてお父さんが戻ってきた。
「蓮、決まったぞ。今週の金曜日、宮田君の家に泊まってこい」
「は?」
「だから、いま宮田君のお父さんと話したんだよ。勇樹君も喜ぶから、金曜日に泊まりに来ないかって、宮田に言われてな。二つ返事でOKしちゃったよ。ははは」
 いくらなんでも僕の了解なしにそんな大切なことを決めるなんて、お父さんはひどい。
 僕の気持ちに気づいたのか、お父さんはご機嫌を取るように愛想笑いをした。
「そんなに怒るなって。いままで蓮は一人旅をしたことがあるか?」
 僕は首を振った。
「じゃあ、一人でうち以外に泊まったことは?」
「ないよ」
「だろ、だったらちょうどいい機会じゃないか」
「そりゃ、相手が宮田君なら断る理由はないけどさ……」
「だろだろ。それにこれはチャンスだぜ」
 そう言ってお父さんは片眉を上げた。
「チャンスってなんの?」
「決まってるじゃないか。いくら頑張っても、蓮は宮田君には勝てないんだろ。きっと宮田君は勉強ができるようになるための秘策を持ってるんだよ」
「秘策?」
「そうさ。宮田君は、蓮の知らない秘密の方法を知っていて、毎日それを実践してる。だから蓮は勝てない」
「そんな方法なんて、あるかなあ……」
 僕は疑いのまなざしでお父さんを見つめた。そんな都合のよい方法があるなら、だれでも実践しているに決まっている。
 それなのにお父さんは自信満々の表情で言った。
「保証する。間違いなく宮田君は、蓮の知らない秘策を使ってる」
 お父さんがここまで断言するのは初めてだった。もしかしたら、秘策とまではいかないまでも、効率のよい勉強方法を宮田君は知っているかもしれない。
「安心しろ。行く先は宮田の家だし、きっともてなしてくれるよ」
 お父さんったら、僕の前だからといってカッコつけちゃって。きっとペコペコしながら、宮田君のお父さんにお願いしたんじゃないのかなあ。
 だとしたら、僕もそこまでしてくれたお父さんのためにも、頑張ってみるとするか。
「わかった。できるかどうかわからないけど、その秘策ってやつを盗み出してみるよ」
「よし、決まりだ」
 お父さんのその声で、今週末僕は宮田君の家に泊まることが決まった。

(続く)


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