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第六章 ムカつくやつ(村上葵)(4)

 このやり取りを陰から聞いて、私はおばあちゃん、というより、地方の人の考え方が大嫌いになった。
 地方では国立大学が絶対、そして医学部はその頂点。私立大学なんて、国立大学に行けなかった人間が進学するものだって信じて疑わない。ママはいつもそう言って嘆く。
 偏差値だってそう。パパの高校受験の偏差値と、私のシグマの偏差値は全然違っている。
 そもそも中学受験するってだけで、小学生全体の約10%未満。その中で偏差値50ってのは、すでに5%の上位層。シグマだと偏差値がもっと厳しく出てくるので、シグマ偏差値59ならパパの中学時の偏差値65よりもずっと上だと思う。それなのにおばあちゃんは、私ができない子のように言う。本当にうんざりした。
「本当ならね、あなたたちが熊本に帰ってきて、隆が父さんのあとを継げばいいだけなの。そうしたら葵も専門の家庭教師をつけてKF中学を目指せばいいのよ。ほらあそこは福岡にあるし、共学校になったでしょ。福岡と言っても熊本に近いから、新幹線通学すれば十分に通えるわよ」
「はあ」
「でも、いまのままの成績じゃ、KF中学なんて夢のまた夢でしょうけど」
 本当に失礼しちゃう。たしかにKF中学はLS中学と並んで九州の超進学校だけど、KF中学なら、いまの私の偏差値でも、十分に合格80%ラインには到達している。
 おばあちゃんは最後にくぎを刺した。
「いまは仕方がないのかもしれないけど、隆は長男ですからね。いつかは熊本に戻ってきてもらわないと」
 こういうやりとりそのものが、私が日進研に転塾する二つ目の理由だ。
 日進研の偏差値はシグマに比べて10くらい偏差値が高く出ると言う。このままシグマに通わせて、偏差値を聞かれるたびに、小言を言われるのがママはいやなのだ。日進研なら偏差値59は偏差値69になる。そうすれば少なくとも中学受験に無理解なおばあちゃんを黙らせることができる。
 転塾するのは気が進まないけど、ママの考えは痛いほどわかる。私だって、不当に「できない子」のレッテルを貼られるのはうんざりするし、これ以上おばあちゃんのことを嫌いになりたくない。
 だからママは私になんとしてでも中高一貫の私立中学に通わせたいんだと思う。しかもだれもが知っているような女子御三家とか新女子御三家とかに通えば、私の中学通学を盾に、熊本に戻らなくても済む。
 私が全落ちなんてしちゃったら、絶対に熊本に帰って来いって言われるに決まっている。だから私の受験でもあり、ママの受験でもあるのだ。

(続く)




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