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第三章 おまえ生きる価値なし(清原孝輔)(1)

学校ではいじめられっ子の清原孝輔君。
足が遅くて勉強もできないけれど、お母さんに言われて、日進館に通っています。
そんなある日、浜名君という子が新しく塾に入ってきます。清原君は堂々とした浜名君の態度に憧れて、浜名君のようになりたいと思うようになります。

「ええーっ? デブの清原と同じチームかよ」
 休み時間、同級生の久保亜斗夢君が不満そうに声を上げた。
 久保君は公立青葉小学校五年三組の同級生だ。背は低いけど、すばしっこくて運動神経抜群の子だ。
「清原と同じチームなんて、絶対勝てるわけないじゃん。なんで、こんな罰ゲームみたいになってんだよ」
 そう吐き捨てると、久保君は僕を憎々しげに睨んだ。
 いま校内リレーのチーム編成が決まったところで、僕と同じチームになった久保君が文句を言っているのだ。
「だいたいさあ、清原がいるチームが負けるに決まってんじゃん。全然面白くないよ。なあ、みんな、こいつ外してやんない?」
「そんなことやったら、先生に叱られるに決まってるじゃない」
 同級生の安部さんが言った。
「だからあ、清原には風邪ひいたとか、腹壊したとか、なんとかテキトーなこと言わせりゃいいわけじゃん。な、清原、いいよな?」
 突然聞かれて、僕はどぎまぎした。
「う、うん。そうだね」
 クラスのみんなは、僕と久保君との会話に聞き耳を立てていた。中には面白そうに見ている子もいた。僕に味方してくれる子なんて、安部さんしかいなかった。ただ、安部さんも学級委員の手前、先生に叱られるから言っているだけだ。
 久保君はクラスのみんなを見渡して、大きな声で言った。
「な、みんな。こいつもこう言ってるから、どうだ? もう一回チーム決め直さないか?」
「それ、いいねえ」
 町田君が言った。彼は久保グループのメンバーだ。彼も運動神経がよくて、久保君と同じサッカーチームに入っている。
 町田君は立ち上がってみんなに言った。
「みんなもそうだろ? 清原がチームに入ったら全然つまらないだろ。だって、このデブが走ったら、明日になっても走り終わらないからさあ」
 だれかが声を立てて笑った。僕は針のむしろに座っているような気分だった。
「でも先生が……」
 安部さんが不安そうに呟いたとき、担任の臼木先生が教室に入ってきた。
「なにをやっているんだ?」
「クラスのリレーで、清原君を外そうって話になってるんです」
 安部さんが言うと、久保君が舌打ちをした。
「こいつ、すぐチクりやがる」
 臼木先生が僕を一瞥してから、久保君に顔を向けた。
「どうして清原君を外すんだい?」
「清原が入ったチームは確実に負けるからでーす。だってこいつ走るの、幼稚園児より遅いでしょ。いや、大袈裟じゃなくて、マジで」
 町田君がおちゃらけたような口調で言った。クラスのみんながくすくす笑った。
 臼木先生は眉間にしわを寄せ、腕組みをして首をかしげた。まだ三十歳にはなっていない男の先生で、細い目と広いおでこが神経質そうに見える。
「うーん、そういうことはさすがに認められないな。だって清原君だってクラスのメンバーじゃないか」
「ちぇっ、先生にばれたら、この作戦は終わりじゃねーか」
 久保君が残念そうに呟いた。
「来週のリレーは全員参加でやるからね。それがこのリレーの目的だから」
 それから臼木先生は僕に目を向けた。
「清原君、君もみんなにあれこれ言われないように、早く走る練習をしないといけないよ。あんまり遅いとみんなに迷惑がかかってしまうから」
 そんなことはわかっています。でも僕は走るのが苦手だから、どうしても早く走れないんです。先生にそう言いたい気持ちでいっぱいだったけど、僕にはなにも言えなかった。
 先生が去ったあと、だれかが僕の頭を後ろから平手で強く叩いた。驚いて振り向くと、久保君が怒った顔で睨んでいた。
「こら、デブ清、おまえなんで、おれたちに話を合わせないんだよ。おまえさえ、『僕は走りません』って言ったら、みんな喜ぶだろうがよ。ちったあ空気読めよ。バーカ」
 町田君が僕の座っている椅子を足で蹴った。
「そうだぞ、デブ。おまえが空気読んでたら、丸く収まってただろーがよ。ったく、どうしようもねえな、おまえは。生きてる価値、なーし」
 みんなが声を立てて笑った。

(続く)




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