第四章 コンプレックス?(宮田勇樹)(1)
最近宮田勇樹君はライバルの蓮君のことが気になります。
以前は自分の点数を気にして勝った負けたと言っていたのに、最近はあまり宮田君の点数が気にならない様子。
なんだか相手にされていないようで、余裕を見せられているようで、面白くありません。
吉本蓮君は絶対に変わった。間違いなくそう思う。
以前は点数のことをやたらと気にしていた。僕にも「宮田君は何点だった?」って、テストの結果が出るたびに聞いてきた。
ところがある時期を境に、蓮君は点数のことをいっさい気にしなくなった。テストが終わった後も、テスト結果が出た日にも、僕になにも聞かなくなった。
このあいだの公開模試もそうだった。
「蓮君どうだった?」
僕に聞かれた蓮君は、給食のメニューを聞かれたときのように、軽い感じで答えた。
「あっ、そうだね。僕は442点だったよ」
このあいだまでなら、そのあとに「宮田君は何点だった?」って必ず聞いていた。そして僕に負けたことがわかると、実に悔しそうな顔をした。ところが、このときも自分の点数だけ言って、僕に点数を聞こうとしない。
「僕の点数は気にならないの?」
「気になるよ。宮田君はどうだった?」
「僕は460点だったよ」
僕が答えると、蓮君は僕を尊敬のまなざしで見つめた。
「すごーい。さすが宮田君だね。また負けちゃったよ」
その瞳には一点の曇りもない。おかしい。絶対におかしい。以前だったら、蓮君は僕の点数を聞いて、「何点足りなかったぁ」とか呟いて、もっと悔しがっていたはずだ。それがライバルの僕に負けても、平気な顔をしている。
「全然悔しくなさそうだね」
「そんなことはないよ。悔しがってるよ」
「本当に?」
「本当だよ。今回も宮田君に負けちゃったね。でも、これが今の僕の精一杯の実力だからね。宮田君のほうが僕なんかよりずっとすごいってことだよ」
ライバルの蓮君にそう言ってもらえるのは嬉しい。でも蓮君は負けても余裕しゃくしゃくのように見える。蓮君は僕のことなんて、本当はなんとも思っていないのかなあ……。
「宮田君、どうした?」
気づくと目の前に担任の土屋先生が立っていた。
しまった。いまは道徳の授業中だった。蓮君のことを考えたら、先生の声がまったく耳に入らなくなっていた。
僕が「すみません」と謝ると、土屋先生は微笑んだ。
「いやあ、宮田君でもボーっとすることがあるんだね。少しびっくりしたけど、先生は逆に安心したよ」
土屋先生はいつも僕に優しい。
同じ日進研に通っている三輪さんが口をはさんだ。
「先生、宮田君は昨日塾で遅くまで問題をやってたから、きっと疲れたんだと思います」
もう、三輪さん。悪い人じゃないけど、口が軽すぎるよ。そんなこと、わざわざ学校の先生に言うことないじゃないか。中学受験に反対している先生だったら、気を悪くするに違いない。
土屋先生は三輪さんの言葉に気分を害したふうでもなく、何度も頷いた。
「そうか。宮田君もあと一年で中学受験だもんな。あまり無理はしないようにね」
土屋先生が中学受験に理解のある先生でよかった。
「あっ、先生。私も日進研に通ってるんですからねー」
三輪さんの声で、教室に笑い声が起こった。
(続く)
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