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第七章 中受地獄(白石真央)(6)

 次の問題も、次の問題も、次の問題も全然わからなかった。
「おまえはいったいなにをやっているんだ?」
 お父さんが不機嫌さを隠そうともせず、尖った声で言った。
「すみません」
 私の返事が気に入らなかったようで、お父さんは両目を剥いた。
「馬鹿か。私はなんでこんなにできないんだって聞いているんだ。理由を言いなさい」
 そんなこと言われても、ただわからなかっただけとしか答えようがない。私は答えに窮した。
「おい、なんで黙ってる?」
「すみません」
 お父さんの足元が見てわかるくらい揺れている。激怒する直前の仕草だ。
「だれが謝れと言った。理由を聞いているだけだろうが」
 まずい。なにか言わなきゃ。そう思えば思うほど、なにも言葉が出てこない。
 お父さんが「ふう」と大きな溜め息をついた。
「答えないならいい。とりあえず、さっき解法を覚えた一番初めの問題をやってみろ」
 お父さんが問題集を一番初めのページに戻し、バンバンと叩いて言った。
「さっき覚えた問題だ。やってみろ」
 あれ? まずい。覚えたはずだったのに忘れている。このままじゃ絶対に叱られる。私は必死で記憶の糸を辿ろうとした。ところが思い出そうとすればするほど、思い出せない。
 お父さんがテーブルをドンと叩いたので、私の心臓がきゅっと縮み上がった。お父さんは私がやっていた問題集を乱暴にひったくると、壁に投げつけた。
「おまえはもう死ね。さっき解答を見たばかりだろうが。なんでできねえんだよ!」
 お父さんはドスを利かせた声で怒鳴った。
「この能無しのカスが! おまえ、頭どこについてんだ」
 そう言ってお父さんは私の頭を激しく平手で叩いた。
 くらくらする頭で私は「ごめんなさい」と言った。
「さっき見たばかりの問題だろうがよ。おまえ、さっきなにしてたんだ?」
「一所懸命、覚えようと……」
「覚えてねえじゃねえかよ」
 私の言葉を遮って、お父さんが怒鳴った。
「さっきはなにをしてたんだ? は? は? は?」
 こうなったらお父さんになにを言っても聞いてはくれない。私はお父さんの顔を見ながら、「すみません」と言って神妙な顔をした。
 お父さんはそれから十分くらい私を罵倒した。「馬鹿」、「死ね」、「能無し」、「クズ」、「受験なんてやめろ」、「生きていても仕方がない」。いろいろなことを言われた。
 お父さんの顔を見ているうちに、急に胸がむかむかしてきた。やばい。吐きそう。

(続く)





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