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第八章 学力は四年生で決まる?(山浦駿)(16)

 翌日ネットに成績がアップされていた。
 合計点は300点ちょうど。自己採点との誤差は30点以上もあったけど、偏差値は52だった。偏差値50クリアだ。
「すごーい、駿。あと少しで第一志望校の80%偏差値じゃない」
 一緒に結果を見ていたママが喜びの声を上げた。
 僕は浜名君や清原君の友情に感謝した。彼らがいなければ、今回の奇跡は起きなかったのかもしれない。塾の友達って、ライバルでもあるけど、一緒の目標を目指す心強い仲間なんだなとつくづく思った。
 仕事から帰ってきたお父さんが、僕からの報告を聞くと、僕の頭をくしゃくしゃにした。
「今回はパパの完敗だ。もう駿に塾をやめろなんて二度と言わない。パパもこれからは応援する」
「どうしたのパパ? なんか気持ち悪いけど」
 パパは照れくさそうに頭をかいた。
「いやな、駿の志望校のひとつのC大附属、偏差値が50程度って聞いて馬鹿にしてたんだけど、偶然パパの同僚に高校受験する息子さんがいてな。その子はC大附属高校を目指してるんだって。それで偏差値聞いたら、68って聞いてさ。駿がC大附属中学目指してることを言ったら、『優秀なお子さんなんですね』なんて言われてさー。そんなこと生まれて初めて言われちゃったよ」
 ママが横から口をはさんできた。
「だからあなたには何度も言ったじゃない。高校受験の偏差値と中学受験の偏差値は違うって」
「いやあ、たしかに聞いたけど、なんとなく実感がなくてさ」
 パパはバツが悪そうに頭に手を当てた。
「だいたい駿はあなたが思っているより、ずっと優秀なんですからね」
「もう十分にわかったさ……」
 それから僕のほうに向きなおって、パパは頭を下げた。
「すまん、駿。パパが悪かった。学力は四年生で決まるなんて言って。まだまだ駿はこれからだよな。それに中学受験なんて、人生の単なる通過点に過ぎないし」
「そうよ、それにあなたが言っていた塾の先生のSNSを見たけど、そこには中学受験が無駄だなんて全然書いてないし、その子その子に合ったやり方で勉強するのがいいって、書いてあったわよ。その先生は、小学生の学力は遺伝によるものも多いから、なにがなんでも御三家とかじゃなくて、その子にあったやり方で中学受験すればいい。だから意味のない課金ゲームの誘いに騙されちゃダメだ、って善意で書いてただけじゃない。そもそも、うちの場合はC大付属中学だからそんなに無茶な目標でもないわよ」
「えっ? そういう意味だったの?」
 ママは首を振って、大きく溜め息をついた。
「あなた国語の読解問題は苦手だったでしょ?」
「うん、国語はだいたい5段階評価の3か2だったな。一番の苦手科目は国語だ」
「えーっ? 2? パパ、僕よりひどいじゃん」
 僕が驚いて声を上げると、ママがくすりと笑った。
「やれやれ、駿にまで馬鹿にされて、我が家で一番勉強ができないのは俺確定になりそうだな」
 パパが息をついた。
「なによ、あなた。今日はいつもと違ってずいぶんと殊勝な態度してるじゃない」
「態度だけじゃなくて、駿を不当に低く評価してしまって、反省してるんだよ。もうパチンコもできるだけ控えるようにする。飲みにもあまり行かないようにする」
「じゃあ、今日はお祝いにおいしいワイン買ってきたけど、それも飲まないの?」
 パパがあわてて言った。
「なに言ってんだよ。家でなら飲んでもいいだろ?」
 ママが僕のほうを向いた。
「どうする。パパがあんなこと言ってるけど?」
「ほどほどなら許してもいいんじゃない」
「おいおい、そんなに俺をいじめないでくれよ」
 パパの弱ったような声で、僕もママも声を出して笑った。

(了)





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