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第六章 ムカつくやつ(村上葵)(8)

 自分が落としたものをすべて拾って、二人にペコペコ謝った蓮が近づいてきたので、私は机の上の者を落とされないよう、素早く手でカバーした。
「あっ、このあいだの新入りの子だね」
 なに、その「新入り」って言葉。人を馬鹿にしてんの。
「僕はね。吉本蓮って言うんだよ。隣に座ってるのは宮田君」
 私はなるべく関わりたくないので、無言で頷いた。
「この宮田君はね。なんとね、このあいだの公開模試で表彰されたんだよ。すごくない?」
「で、あんたは?」
「あっ、僕? 僕は駄目だったねえ」
 その割には全然悔しくなさそうな顔をして、へらへらと笑いながら蓮が言った。
「宮田君とはさっき話したから知ってる。1番の席に座ってるから、すごいのも知ってる。だからあんたに説明してもらわなくてもいい」
 後ろに座っていた江藤がおどけたように「どうやらお嬢様のご機嫌は斜めのようで」と言った。私は後ろを振り返って、江藤を睨みつけてやった。
「おー、こわ」
 江藤が肩をすくめた。
 私は蓮の顔を見やった。
「で、もう用事は終わり?」
「あ、うん」
 蓮は少しがっかりした表情をして、次にしょんぼりした顔になった。こういうウジウジしたところも嫌い。なんで私がこんなやつに負けなきゃならないの。
「美人だけど、性格はちょっと……」
 江藤が小さな声で呟いたけど、私にはしっかり聞こえていた。もう本当にウザい。
「もう、江藤君。男子は変なことばかり言わないでよ」
 後ろから声がしたので、振り返ると、いかにも人の好さそうな感じの女子が江藤を睨みつけていた。シグマの美咲と違って、すごくいい人そう。男子は駄目だけど、女子とは仲良くなれるかもしれないと思った。
 私の隣も同じ女子だった。彼女は私に気づくと笑みを浮かべた。
「こんにちは、白石真央って言います。よろしくね」
 なんだかおとなしそうな子だ。席順からすると4番目の位置なので、そんなに悪くないと思うけど、覇気がないって言うか、元気がない感じ。でも悪い人じゃなさそうだ。私も挨拶を返すと、座席に座った。
 ほどなく寺内先生が教室に入ってきて、算数の授業が始まった。

(続く)




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