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第六章 ムカつくやつ(村上葵)(1)

御三家を目指す子は必ずここに通うと言われる、都内随一の進学塾「シグマ」から転塾してきた村上葵。元シグマのプライドとして日進研生ごときには負けたくないと内心思っています。
ところがいかにも幼そうな吉本蓮という塾生が、自分より成績が良いと知り、ショックを受けます。
以来葵は蓮のことが鼻について仕方がなくなるのですが……。

「じゃあ、村上さんは来週からこの教室で勉強することになるからね」
 塾長の寺内先生が私の顔を見て優しく微笑んだ。
 雑然とした教務室、清潔そうで白を基調とした教室、いたるところにプリントが貼られている廊下。シグマとさほど変わらないけど、狭い。
 私は黙ったまま頷いた。
「今ちょうど春期講習をやっているから、教室の中を見てみる?」
「はい、ぜひ」
 隣にいるママが私の代わりに返事をした。
 広い教室の中では、こちらに背を向けて二十人くらいの塾生が授業を受けていた。
「あと一人増えたらクラスを分けるつもりなんです。シグマのSPクラスで授業を受けていた村上さんにはちょっと物足りないかもしれないけど、きちんとフォローしますので」
 寺内先生が言い訳のように言うと、ママが小刻みに手を振った。
「いえ、全然問題ありません。葵はいま算数が苦手になりかけてますから、基本に立ち戻ってしっかりやりたいと思っています。ですから、いまのままで構いません」
 ママはそう言うけど、私はシグマから転塾したくはなかった。ママが「ママも日進研生だったのよ。あなたにはきっと日進研が向いていると思うわよ」と説得されて転塾を決意したのだ。
 たしかに五年生のときは偏差値で60を超えていたけど、最近では60を切ることも多くなっていた。私自身、なんとなく先の見えない感じになっていたから、ママの提案は仕方ないとは思うけど、どこかに釈然としない思いが残っているのもたしかだった。
 いずれにしろ、シグマ出身者のプライドとして日進研生になんか、負けたくない。

(続く)





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