反緊縮派の政府が緊縮をしている論はどこから来たか
反緊縮派はその名の通り、政府が緊縮をしているという前提からすべての理論を組み立てています。
そして、この一派は日本において保守層と極左を取り込み、10数年をかけてかなり巨大な勢力(政党さえも)と経済圏を作り上げてきました。
※私も政府が緊縮をしていると考えていた時期がありました。しかし今は金融行政を起因とする緊縮(異次元の緊縮)を行っているのは企業の方だと思っています。
↓ 私が見つけた2009年前後の最古に近いと思われる緊縮論です。そして今でもこのテンプレを使った反緊縮派の方々の一貫した主張は何も変わっていないのです。
しかし、いろいろな統計を見ているとどうも本当に政府は緊縮なのか?彼らが何を基準に緊縮と言っているのか怪しくなってきます。
緊縮の定義とは、財政赤字の解消を目的とする政策の実施の事であり、確かにPB黒字化は毎年叫ばれるものの、結果論的には政府が緊縮をしているとはとても思えないからです。
国債発行額は一貫して高度経済成長期より爆発的に多く、、、
政府の公共投資もほぼ一貫してバブル期より多い、、、
政府の債務も誰もが知っているように右肩上がりに増えている、、、
何を根拠に反緊縮派が政府が緊縮であると言い出したのか興味がわいてきたので調べてみました。
だれがいつ何を根拠に緊縮と言い出したのか?
反緊縮派のもっとも著名な三橋貴明氏の上記のテンプレ
は、どうも元祖は、廣宮孝信氏という方のようです。
※この方の古いエントリーを読んでいると著名な反緊縮派の主張のほぼすべてが詰まっていることに驚きました。ご本人は(失礼ですが)それほど有名ではないですよね、、、
廣宮孝信のブログサイトから、まずいつのことを緊縮と言っているのかを見ると1998年の橋本政権の時期を言っているようです。これは三橋氏のブログでも度々言及されている時期と一致します。
私の上記グラフは財投債も含むため、国債発行額だけのグラフを見てみましょう。97年は確かに(たった)4兆円ぐらい減っていますが、国債発行額だけでも、80年代より全然多く、98年は倍化するぐらい国債発行額は増えています。
廣宮氏のブログのグラフでも緊縮と言っている割には、政府の負債が増えている図が使われています。
廣宮氏は一体何のことを緊縮と言っているのでしょうか?廣宮孝信氏のブログから政府が緊縮であるという主張の根拠が書かれているエントリーをさがしてみましたが、驚くべきことに、何をもって緊縮と言っているのかという明確な根拠が示されているエントリーはありませんでした。(ブログを緊縮で検索して探したんですけど)
強いて言えばリチャードクー氏の著書に橋本首相が緊縮を行ったと記載があると書いてはありました。(これが根拠なのでしょうか?)
三橋貴明氏のブログでは?
三橋氏のブログのごく初期のエントリーでも同様にリチャードクー氏の書籍を引用しており、橋本首相が緊縮を行ったと記載があるので1998年以降日本が緊縮になったというのはリチャードクー氏の著作からの受け売りっぽい感じはします。
リチャードクー氏は日本が長期的に緊縮を行っているとは言っていない
それではリチャードクー氏は日本の緊縮についてどのように言っているのでしょうか?探すと下記のような記事を見つけました。
リチャードクー氏の言う緊縮財政とは、1996年度に比べて歳出を削減したという事のようです。これは事実です。前述の図でも1996年度に比べ1997年は確かに4兆円前後国債発行額が減っています。
※ちなみにクー氏の言う1997年に緊縮をしたから日本経済に大惨事を起こしたというのは誤りです。この時期はBIS規制の強化、不良債権処理の加速を始めた金融ビッグバン元年でこの政策が巨額の信用収縮を巻き起こしたのです。
更に下記のような記事を見つけました。
クー氏は、1997年は橋本政権が前年度に比べて、歳出を削減する誤った緊縮財政を行ったが、その後は、政府が財政出動をちゃんとしたよね、と言っているのです。
つまり、反緊縮派の言う、日本がずっと緊縮財政だからデフレであるという主張は独自主張(かつ定義が曖昧なまま)である可能性が高いと考えられます。
反緊縮派の2転3転する緊縮の定義を探してみると大体下記のようにまとめられるかと思います。
・PB黒字化目標があるから緊縮
・98年のピークより国債発行額が下がっているから緊縮
・政府支出が増え続けないから緊縮
・98年より公共投資が減っているから緊縮
・補正予算が前年度より減れば緊縮
・消費税増税したら緊縮
・名目GDPが増えないから緊縮
これらの定義の基本原理とは何か?おそらく彼らの言う緊縮とは、
「政府が俺たちに金を出さないからデフレになる、つまり俺らの金が増えないから俺らにとっての緊縮なのだー!」
という事に思えます。
しかし、日本においては90年代以降政府こそが突出した赤字主体であること、税収と支出が乖離し続けている事、GDPが伸びないのに国債発行額が積みあがり続けている(高度経済背長期はGDPも国債発行額も同期して伸びている)という実質的に日本政府が緊縮ではない証拠は無視されるのです。
政府の赤字と国民の預貯金の増加率=貨幣(購買力)を98年前後から突然、吸い取りはじめた(内部留保を増やし、借金を増やさない)のは、上図から企業であることは明らかです。
反緊縮派の方々は政府が緊縮であるという思い込みにとらわれて、それを拡散することにエネルギーのほぼ全部を費やしていますが、
企業こそが緊縮であるというこの事実を深堀していないように思えます。そこにこそ真の経済停滞の原因が隠れているかもしれないと思うのです。