書評『HR Standard 2020-組織と人事をつくる人材マネジメントの起点』
年末年始休暇を利用して、2020年11月発売の『HR Standard 2020』を読みましたので、簡単にまとめておきたいと思います。
■1.作者と本書が執筆された背景
本書の編者は、株式会社アクティブアンドカンパニーという人事組織コンサルティング会社の代表・大野順也氏です。大手人材会社の営業・営業企画の後、コンサルティング会社にて組織・人事コンサルティングに従事。2006年に同社を設立しています。
同社は、人事制度設計プロセスに関してISO9001を業界初で取得しています。「組織・人事に関する問題の解決策を体系立てて整理・可視化」している点において、国際認証を取得していることは非常に興味深いポイントです。本書は、同社に勤めるコンサルタントの皆さんでの共同執筆です。
人事領域において、ティール組織、アジャイル型制度、OKRなど新しい概念が数多く登場しています。著者はこれらの新しい潮流について、「単体で存在しているというよりも、バブル経済の崩壊以降の四半世紀の間に培われた、『組織・人事の起点』に成り立っている」と指摘しています。そして、本書の執筆意義を、バブル経済の崩壊以降、試行錯誤を繰り返し確立された現在の組織・人事マネジメントのあり方(=「HRスタンダード」)を手引書としてまとめること、としています。
■2. あるべき人材像を起点とした人事制度設計
<前半部目次>
Ch.1. 人材マネジメントの全体像/概念編
Ch.2. 企業理念・ビジョン/組織風土・文化
Ch.3. 人材マネジメント全体像/設計編
Ch.4. 人材育成
本書では繰り返し、あらゆる人材マネジメントは「人材マネジメントポリシー」あるいは「あるべき人材像」を起点として検討されるべきであり、あるべき人材像は、企業理念や企業戦略からブレイクダウンされるものであることを主張しています。言い換えると、あるべき人材像や企業戦略と整合が取れていない施策は、どんなに見かけが良かったり、目新しかったりしても、失敗に終わってしまうということです。
「他社に後れを取らない人事制度」、「トレンドに乗る」ことも、人事の要諦の一つです。しかし、過度にそれらに踊らされず、自社の経営戦略やあるべき人材像としっかり整合性を取ること、人事施策の検討においてブレを作らないように経営層や同僚の人事スタッフと妥協のない議論を行うことの大切さを、改めて感じることができました。
3章「設計編」では、等級・評価・報酬の各基盤制度の設計ステップについて解説をしています。各制度の各論(たとえば、職務等級と職能等級といった主要なフレームの整理)に関する深掘りは避けて他の専門書に譲っております。一方で、設計や改定の「段取り」について、社内での泥臭いプロセスの必要性なども含めて詳しく言及されており、いざこれから制度設計をやるぞという局面にいる人にとって心強い記述となっています。
■3. 新しい人事の潮流―Payroll, Recruiting, HR Tech
<後半部目次>
Ch.5. 人事が担う業務とあるべき人材像
Ch.6. 戦略的給与計算アウトソーシングの活用
Ch.7. インターネットによる採用マーケティング
Ch.8. 人事情報を活用した人材マネジメント
後半4章は、本書ならではの構成・内容になっています。「給与計算」の重要性、あるいは担当することの難しさについて他書よりもはるかに強調されており、中小企業にありがちな「ワンオペ人事」への警鐘と、戦略的業務へのリソースシフトを促す内容になっております。
また、採用活動に関して、日清戦争前後から始まる「新卒一括採用」、就職協定のいたちごっこの歴史についてまとめられております。協定は最近作られたものと思い込んでいたため、新たな発見でした。一方で、現在の採用マーケティングについて、インターネット・ツールをいかに有効的に活用するか、求職者側の目線で論じられています。
■4. まとめ
前述したように、「あるべき人材像」を起点とした人事施策がなぜ重要か、を再認識できる点において本書を一読する価値は非常に大きいと思います。一方で、多くの日本企業が1960年代以降の能力主義人事を源流とする制度を(形を変えつつも)現在も維持している中、それに関する言及は他書に譲っています。若手・新任担当者については、『人事の青本』などのロングセラーもセットで読むことで、理解が深まると思います。
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