【ネタバレ感想】映画『ラストマイル』
※この記事は映画『ラストマイル』のネタバレを含みます。未見の方はこれ以上読み進めないことを強くおすすめします。※
8/23(金)公開の映画『ラストマイル』を早速観賞しました。主演:満島ひかり×岡田将生、脚本:野木亜紀子、監督:塚原あゆ子、プロデューサー:新井順子、主題歌:米津玄師という鉄壁の布陣。観ない理由がありません。
そして、この映画は過去に同じ布陣で制作されたドラマ『アンナチュラル』『MIU404』と同じ世界線の話。事前情報で、2つのドラマのキャラクターが登場することが発表されていました。アンナチュラルもMIUも大好きなドラマなので、これは絶対に観なければならない。再び彼らの勇姿を眺められることに胸が高まったのが記憶に新しいです。
ここからは、内容のネタバレを含みながら、映画の感想について書きたいと思います。観たばかりですから、うまく理解できていない個所、まとまっていない個所があるかもしれませんが、それでも読んでいただけたら、私の感想を共有出来たら幸いです。
・前代未聞の凶悪事件の「恐怖」
序盤の、とあるアパートに荷物が届けられる場面。アパートの一室が真赤に染まり、爆音と爆風が轟く。前代未聞の事件のはじまりです。
劇中の日本は流通業界最大のイベント「ブラックフライデー」の真っ只中。多くの人のもとに多くの荷物が届けられていきます。そして次々と起こる爆発。多くの人がその犠牲となってしまいます。
会社、住宅地、アウトレット…場所を選ばず無差別に人を傷つける爆発は恐怖そのもの。普段から利用しているネットショッピングで爆弾が自分のもとに届いて、自分もそれに巻き込まれたらと思うとゾッとします。
後に荷物に仕掛けられた爆弾は全部で12個、という情報が判明しますが、それでも安心はできませんよね。爆発の規模や事件の全貌が見えない状況を考えると、爆弾はそれ以上あるかもしれない。それ以下の数であるとしても、爆弾への恐怖は完全には消えない。一体何個の爆弾がばら撒かれて、どこで爆発するのか。物語が終わるまで、見えない恐怖に心と体が震えてしまいました。
・映画ならではの主人公の「描き方」
本作の主人公は関東の4分の3を担う巨大物流倉庫のセンター長に着任したばかりの舟渡エレナ(満島ひかり)とチームマネージャーの梨本孔(岡田将生)。この2人が事件の収拾にあたります。
連続する爆発への恐怖があっても、今はブラックフライデー。上からは目標のため出荷を止めるなとのお達しが。会社のため、そして「お客様のため」にラインを止めるわけにはいかないと意気込むエレナ。彼女は厳しい言葉で輸送会社に仕事の要請をします。強いセリフ、強張った演技、キャラクターへの違和感の持たせ方、本当に上手…!
己の仕事にまい進する彼女の厳しい姿に戸惑う梨本。梨本は警察への通報を止めたエレナに、次第に疑いを募らせていきます(のちにエレナは犯人ではないことが判明するのですが…)。
最初は主人公も被害者の1人だと思わせる→この人あまりいい人じゃないのかな→やっぱり主人公が事件の犯人?と思わせるような描き方はなかなか斬新で面白いなと思いました。ドラマでこれをやってしまうと、主人公に共感ができない。悪い人を応援しようとはなかなか思えないですからね… しかし、映画は観客が限定されているからそれができる。一体犯人は誰なのか。主人公は何を考えていて、何を隠しているのか。こちらの考えを揺さぶるような展開の連続にハラハラしました。もちろん、いい意味でね。
・ありがたい演出①『MIU404』
ここからは、私のような『アンナチュラル』『MIU404』のファンに向けたありがたい演出について。
今回の事件の捜査にあたったのは警視庁捜査一課・西武蔵野署・第4機動捜査隊の面々。MIUに登場した面々が集結しました。
現場にいち早く向かい、事件の捜査を行う機動捜査隊。まずは陣馬さん(橋本じゅん)が現場に。的確な指示で捜査をすすめる陣馬さん、かっこよかった。その頼もしさは健在でした。
そんな陣馬さんとペアを組んでいたのは勝俣くん(前田旺志郎)。彼はMIUの3話にて警察相手に虚偽の通報を行った事件の犯人。当時高校生だった彼が更生して警察官の道を歩んでいる姿に感動。ドラマの中で桔梗さん(麻生久美子)が言っていた
というセリフを思い出しました。悪事に手を染めた子どもが、正しい大人と出会い救われ、罪を償い、自分と再び向き合う。そして、今度は自分が誰かを救う立場になる。機捜のメンバーの努力がちゃんと実を結んでいる様子が感じ取れました。勝俣くんが警察官を志した瞬間、そのために重ねた努力など、ラストマイルまでの「道のり」を観てみたくなりました。
西武蔵野署の署長として指揮をとる桔梗さん。強面の刑事が揃う組織を見事に束ねている強さを感じました。麻生さんはさすがのお美しさ。10月からの朝ドラ「おむすび」での活躍も楽しみ(関係ない話でスミマセン)。
そして何といっても4機捜のあの2人、伊吹藍(綾野剛)と志摩一未(星野源)!ドラマで聴いたことのある劇伴からの再登場、とても興奮しました。ゼロ地点からの4年の間に、2人の信頼関係がさらに強いものになっていることを感じさせるような2人のやりとりにほっこり。エンドロールで役者2人の名前が唯一横並びだったの、めっちゃよかった。
伊吹も志摩も相変わらず。志摩は相変わらず冷静で、伊吹のことをよく見ていた。語彙力に欠ける伊吹のフォローも流石。伊吹は、ちゃんと「フンイキ」と言ってたところや、桔梗さんのことを隊長ではなく「署長」と呼んでいたところなど、ドラマからの成長が感じられた。ドラマを観ていたから気づけた演出。ありがたいです。それにしても、志摩、伊吹の扱いが上手になってた(笑)?
・ありがたい演出②『アンナチュラル』
最初の爆発による遺体が運ばれたのは我らがUDIラボ。ミコト(石原さとみ)と東海林(市川実日子)のコンビが真相究明に挑みます。この2人のコンビネーションもあの頃のままで、観ていて懐かしい気持ちになりました。おちゃらけていても、仕事はきちんとこなす。最後には遺体にちゃんと寄り添う。2人のオンとオフのギャップ、最高です。
相変わらずの言葉遣いと態度の中堂系(井浦新)の登場も嬉しかった。坂本さん(飯尾和樹)とのパワーバランスも最高で、彼に対して「クソ」と言えないままの中堂さんに笑ってしまいました。2人の関係が今もちゃんと続いているようで安心。元通り、ではないですが(笑)。
久部くん(窪田正孝)は研修医として登場。彼もまた自分の役目をちゃんと果たしていました。UDIの面々との共演はなかったものの、志摩・伊吹との絡みが観れましたよ。予想していなかった組み合わせでした。彼が1人の医者として古巣に戻る日を楽しみにしたいですね。
遺体の身元特定に役立ったのは神倉さん(松重豊)の悲願であった「デンタルデータ」。あれから時間が経ってちゃんと実用化されてる!UDIが着実に進歩していることを感じさせる、嬉しいサプライズでした。
他と比べ出番は少なかったですが(出てくれるだけでもありがたい!)、木林さん(竜星涼)と夏代さん(薬師丸ひろ子)も再登場。そしてさらに嬉しかったのが7話「殺人遊戯」に登場した白井くん(望月歩)のサプライズ登場!これは事前情報になかったのでかなり驚いた!彼はバイク便のドライバーとして大事な場面で登場。ドラマにてある事件を起こしてしまった彼が、社会復帰して今度は人を助ける立場に。キャラクターのその後をちゃんと描いてくれること、彼らに救いを与えてくれること、本当にありがたいです。
・ありがたい演出③ 新たな組み合わせによる「化学反応」
忘れてはならないのが、毛利さん(大倉孝二)・と刈谷さん(酒向芳)のペア。それぞれ、ドラマとは異なる組み合わせで登場しました。これまでのペアとは異なるからこそ見られた新たな一面が沢山ありました。
暴走気味の刈谷さんを制することが多かった毛利さん。警察手帳でパスを通過しようとするのは流石に(笑)。毛利さん、立場上刈谷さんにあまり強く出られないんだろうなーという感じでしたね。そこはアンナチュラルでの向島さんへの態度とはとはちょっと違ってた。でも、刑事として決めるところはちゃんと決めるかっこよさは健在。エレナが一発で山崎を「ヤマサキ」と呼んだことを見抜いた。この人ちゃんと優秀なんだよね。
刈谷さんはMIUの時ほど憎たらしくなかった印象です。あれは志摩がいたからなのかな(笑)。エレナに対してもそこまで厳しく接している様子はなく、彼女の根性を認めるような発言も。横文字が苦手、という一面はなかなか可愛らしかったです。苦戦してた単語が言えるようになった瞬間の喜び方w
・ラストマイルが提示する「絶望」と「希望」
この作品で描かれているのは現代社会の「歪み」だと思います。私たちの身近にある、便利なネットショッピング。何でも売っていて、注文したものがすぐに届く。本当に便利です。
しかし、その便利な生活は多くの人の働きによって成り立っているもの。荷物を仕分ける人たち、そして、荷物を私たちのもとへ届ける「ラストマイル」を担うドライバーの人たち。彼らはその厳しい業務とは釣り合わない過酷な環境で日時働いている。長時間の配達、それでいて低賃金。これは私たちの生活にも大きく関わりのある重大な「社会問題」ではないでしょうか。
ショッピングサイトとドライバーとの間で板挟みとなっている運搬会社も辛い。届けなければならない荷物に対して、人が足りない。お金も足りない。なのに自分たちは無理難題を押し付けられてばかり。エレナからの指示に不満を抱き、社長からの電話でそれが爆発してしまう阿部サダヲの演技、素晴らしかったです。八木さんのような人、今の日本に沢山いるんだろうなぁ。
人が人を搾取する社会。便利な生活のために、会社の利益のために人が酷使され、果てていく。きっと山崎(中村倫也、このサプライズは聞いてない…!)はそんな状況に辟易して、ラインを止めるためにロッカーにあのサインを残し、あの行動をとった(あの速度に自身の体重が乗っけてラインを止める、という魂胆か?)のだと思います。しかし、彼の勇気ある行動は失敗に終わる。ラインの停止は一時的なもので、またすぐに作業は再開され、ラインは動き出してしまったのです。意識ある状態で見た最後の景色が、いつもの過酷な環境と何ら変わっていない風景であった山崎は、大いに「絶望」したと思います。「馬鹿なことをした」、と。
そして、彼の行動が恋人である筧まりか(仁村紗和、こちらもサプライズ登場)の人生を狂わせていくことに。どうして彼が傷つかなければならなかったのか、内なる歯がゆさをどうはらせばよいのか、きっと色々なことを考え、選択した結果が今回の事件なのだと思います。多くの犠牲を生んだ連続爆破事件は被疑者死亡(最初の爆発の遺体が筧であった)という最悪な形で終幕。筧を止めることはできず、伊吹の言葉を借りるならエレナたちは「間に合わなかった」と言えるでしょう。山崎は意識が戻らないながらも生きていて、筧は死んだ。もし、この先山崎が目を覚ますことがあれば、彼は何を思うだろう。事件が生んだ「絶望」はすさまじい大きさです。
しかし、絶望まみれの社会にも希望はある、としたのが今作の魅力だと思います。終盤、最後の爆弾の爆発をめぐるシーン。松本(安藤玉恵)のもとに届いた荷物が爆弾であることを知った佐野(宇野祥平、息子のほう)が爆弾を洗濯機に投げ込むシーン。なぜ外ではなく洗濯機を選んだのか、と思いましたが、松本宅の洗濯機は佐野が勤めていた会社のもので、耐熱性に優れていたから。だから爆発の被害を少なくすることができた。物語の前半くらいで軽く提示された情報が、実は物語のラストを決める重要な伏線だったという驚き。鮮やかな伏線回収、流石野木先生。お見事でした...!
「希望」の話に戻ります。「ラストマイル」を担うドライバーがちゃんと「お客様のために」動いたこと。厳しい環境の中でも、ちゃんと前を向いて働いている人がいる。現存する問題に向き合おうとする人がいる。人のために怒れる人がいる。そして、その人たちが声を上げて現状を、社会を変えようとしている。私たちは変わろうとすることができる。変わることができる。ラストマイルには社会への「希望」も感じました。だって、エレナは最後、みんなの力で山崎が果たせなかったラインを止めることに成功して、ちゃんと「眠れた」のですから(パトカーの中だけどw)。
・ラストマイルで「終わり」じゃない
この物語ですべてが解決した、わけではありません。まだまだ、社会には考えなければならない、変えなければならない問題は沢山ある。物流の問題に関しても、配送料がわずかに値上げされただけ。問題の根本的な解決には至っていません。
エレナが最後に言った「爆弾はまだ残ってる」というセリフ。これは今後も同じような事件が起こるかもしれないことを示唆しているのではないでしょうか。私たちが問題に目を向けない限り、変えようとしない限り、第2、第3の山崎や筧が現れる。エレナから次のセンター長を託された梨本の浮かない顔もそれを暗示させるかのようでした(エレナが赴任するまでの間にセンター長がめっちゃ交代してる描写もありましたし...)。
ラストマイルで「終わり」ではありません。社会の在り方が、人の働きかたが変わらないかぎり、きっとまた同じことが起こる。だからこそ、私たちは想像力を働かせて考えなければならない。動かなければならない。変えなければならない。私たちが生きる社会を、正しい方向へ導くために。1人1人が尊重されて、豊かな生活を送るために。ラストマイルはそれを伝えるための「はじまり」の物語のような気がします。
「What do you want?」デイリーファストの音声案内がリフレインしてエンドロールへ。事件は終わっても日常は続きます。この先、人々の欲望と、私たちの生活と、日々の労働とどう向き合うか。5年後、10年後の未来は私たちにかかっているのではないでしょうか?
・おわりに
ここまでラストマイルの感想をどどっと書いてみました。書きたいことがありすぎて、盛り沢山になってしまいました。この映画を観た方々はどんなことを思ったのかな。どんなことを考えたのかな。色々知りたくなりました。あなたの感想、ぜひ聞かせてください。
せっかくなので、『アンナチュラル』『MIU404』の感想も書いてみようかな。好きなシーン、好きなセリフ、いっぱいあります。書きたい魅力沢山。内なるスキの思いを形にしてみますね。
それでは今回はこのへんで。最後まで読んでいただき、ありがとうございました!また別の記事でお会いしましょう。
※追記:米津さんの主題歌「がらくた」も良かった!映画の後に聴くとこれはあの2人にむけた歌なのかな、という気持ちに。いつでもリスナーに寄り添ってくれる米津さんの曲、大好きです。最大級の賛辞を送ります。