趣味は死ぬ妄想をすることです!
これはある妄想のお話…
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「なぁ……俺は、間違ってたかなぁ、、?」
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■月■日。
私は1/fゆらぎに揺られて、久しぶりの通ってた学校へ向かう。
コード付きイヤホンからワイヤレスイヤホンへ。
黒髪ショートから茶髪ロングへ。
服装も体つきもスタイリッシュになった私は、あの頃とは違う気分で堂々とホームに降り立つ。
もう周りの目は気にしない。
「総合運動公園駅」
妙な高揚感を覚えながら、足は軽快な音楽とともにステップを踏む。
今日、私は死ぬのだ。
そう思うことが私をどれだけ強くしただろうか。
歩くこと10分強、いつもは引きこもっているお陰で、途中の坂がかつてよりもキツく感じた。
腕時計の針が、もう18時半をまわっていることを教えてくれた。
暮れゆく紫がかった空の中に、大きくそびえ立つ二つの棟。
「神戸工業高等専門学校」
おお、と思わず息が漏れた。
口は開き、口角が少し上がっていることを自覚していた。
このときの感慨を味わうために下見はしてこなかったのだ。
この時間になると大半の学生はもう帰っている。
部活動の片付けをしている者たちがちらほら見受けられる。
研究室前の電気が点き始める頃、私は本科棟の最上階、6階まで上る。
薄暗い階段を上ってく中、心臓のリズムは少し早くなる。
それがシチュエーションによるものなのか、それとも運動不足の弊害なのかは私にはわからない。
階段をゆっくり上り終えて、死角となりそうな一角に背負ってきたリュックを下ろす。
あとはもう、ゆっくりと待つだけだ。
19時を過ぎている。
遅くまで研究室に質問してた学生も帰され、同時に鍵を閉めて帰る先生も出だした。
私はというと、じっと身を潜めて、ただ時が過ぎるのを待ってた訳ではなかった。
この時が至福なのだ、そう思いながらリュックの中から一冊の本を取り出す。
最期を締め括るに相応しい一冊、「────」だ。
ふふという気持ちでページをめくっていく。
しかし案の定、気持ちが昂って全く頭に入ってこない。
それどころではないのだ。
まあいい。どうせ見せかけ、お守り程度に持ってきたものだ。
パタム、と本を閉じてリュックにしまい、私はスマホを見た。
前回の反省を生かして今はほぼフル充電にしている。
モバイルバッテリーも持ってきたから完璧だろう。
ツイッターを一通り見終えてから、私は自身のnoteを見返そうと思った。
最期に投稿するものが残っているからだ。
タイトルは「最期の夜」
安直だが、退院前夜に書いた「最後の夜」とかけてある。
この1年間、様々な気持ちを書いてきた。
ずっと、死にたかった。
「死にたくないがために書いてきた」なんて歌うアーティストには心底裏切られた気分になったが、私は違う。
私は死にたいから書いてきた。
あの小説も、あの詩も全部全部、死にたいから書いてきたんだ。
死を肯定するために。
死にたい人の味方になれるように頑張ってきた。
死にたい人が死ねる権利が欲しかった。
でも結局、1年じゃ何も変わらないな。
相変わらず推考しない最期の文章を投下して、懐かしみながら自分の記事達を見返した。
そうこうしていると研究室の電気がついてるのはもうあと2部屋になっていて、警備員が見回りを始めていた。
もう21時頃になっていた。
私はリュックを背負って逃げる準備をした。
大丈夫、前回と同じようにやればバレない。
そう思いながら慎重に行動した。
常に警備員の位置を把握して、階数を移動しながら渡り廊下を巧みに使い1号館と2号館を行き来する。
やがて全ての教室を巡回し終えた警備員は下へ降り、階段の入り口を塞ぐのだ。これで私の帰る道はなくなった。
さて、とうとう邪魔も入ることはなくなり、本番が近づいてきた。
激しく動き回ったあとの今は、軽い息切れと動悸を感じていた。
いよいよだ。
そう思うだけで動悸が早くなったように感じた。
鼓動が少しだけ大きく聞こえた。
さあ最後にすることは、とスマホの画面を見る。
そこには33への音声通話の画面が写っていた。
33は私の友達だ。
33が電話に出る。
「もしもし37?どうしたん?」
「あーもしもし33?久しぶり」
「久しぶりやな、なんかあったん?」
「や、33明日■■■やろ?元気かなー思て」
ここ数ヵ月、怪しいところはみせないように振る舞ってきた。
だから勘のいい33でもこの電話の意味を理解するのには時間が必要だろう。
軽くお互いの話を笑い混じりに話していると、自分の気持ちが暗くなっていることに気付く。
笑えなくなってくる。頭がぐるぐるしてきた。ああ。
そして33もそれに気付いてるようだった。
「おい37大丈夫か?やっぱなんかあったんちゃうん?」
仕切りに声をかけてくれる33に私は口を開いてしまった。
「なあ……俺は、間違ってたかなぁ、、?」
「間違ってた?どういうことや?待て37、お前今どこにおる!?」
「俺はさ、こうするしかなかったんやと思っとんや…ホントに、、ゴメンな」
「おい37!?今どこ??それだけ教えてくれ!今なにしとんや!?」
頭の中は、何故か申し訳ないという感情でいっぱいになっていた。
「ごめん…ほんまにごめんな……マジでもう」
言ってる途中から涙が出てきて、頭の中はパニックになった。
もう何も考えられなかった。
「37!話はなんぼでも聞くから、そこから動くなよ!なんでも聞いたるからな!」
そう言ってくれたのが嬉しかった。ありがたかった。途端に感情があふれでた。
「俺はさ、多分かまってちゃんなんだと思う。」
「でも人に注目されるようなスキルなんて持ってないから、」
「こんな方法でしか、承認欲求を満たせない。」
「ただその方法が、ちょっと最悪だっただけなんだよ」
掠れる声で少しずつ吐き出すように言葉を繋いでいく。
「ごめん、ほんまにごめんなぁ、、33らにとって、明日は最悪な日になるかもしれんけど、もう無理なんよ、俺はほんまに、もう、無理なんよ」
「わかった、37、わかったから落ち着こ、37今学校やろ?」
「……」
あまりの勘のよさに言葉もでなかった。
「とりあえずそこから動かんといて、一緒に話そう、少しだけ待っててくれ」
「来んでいいよ……どうせ来ても変わらん。むしろ来たらショッキングな映像が見られるだけやで」
冗談めかして言ってみたものの、抑止力にはなりそうにない。
ああ、私はなんて良い友達をもってしまったのだろうか。
驚くべきことに、彼33は家を出てからも電車に乗ってもずっと電話を切ることなく私と話しててくれた。
私が少し静かになる度に「おーい生きとるか」と声をかけてくるのでたまったもんじゃない。
やがて学校の6階まで辿り着かれてしまった。
よほど全力で来てくれたのか息をゼェゼェ言わせてたので持参したコーヒーを飲ませてあげた。
一息ついたところで私は33にコーヒーをリュックの中に入れるように指示した。
その隙に私は渡り廊下の手すりに腰掛け、背中には20m弱下の地面が待っている、そんな状況を作った。
彼は一瞬硬直し私の目を見据えた。
「頼むから一回話そうや」
「もうどんな説得も無駄やって、俺自身何がしたいかわからんもん」
そう、本心だった。
「勉強についていけなかった腹いせに学校に迷惑がかかるようにした」
そんなもの新聞記者用の見出しでしかない。
私は…もう死ぬ理由が分からなかった。
それなりに裕福な家庭で何不自由なく育ち、良好な環境に包まれてきた。
悲しい、寂しい、助けて、
そんな感情もなかった。
ただ1つ学校で死ぬ理由としていえるのは、
「おもしろいから」
それだけだった。
「俺は、俺が望むものがわからん」
「人肌恋しいわけでもないし世の中に不満があるわけでもない、ただ死にたいだけなんよ」
腰かけた私は彼を見下ろす形で言う。
「言ったやろ?来てもなんも変わらんって」
手に力を込める。
「最期に、来てくれてありがとうな、嬉しかったで」
「」
「」
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気付いた場所は、病院だった。
首の骨と左手、その他全身に渡って数ヵ所を骨折しているらしく、まともに動ける状態ではなかった。
気を取り戻した俺は、泣いた。
「妄想の中でくらい、死なせてくれよ」