都市経営とお金のこと(読書部)
人口をテーマにした、都市経営プロフェッショナルスクール読書部の今回の課題図書として自分が選んだのは、「人口減少時代の都市」(諸富徹・中公新書)。(5月の課題図書でした)
課題図書「人口減少時代の都市」
「人口」をテーマにした本を3冊読みましたが、今回の本は日本の都市開発の経緯や政策についても丁寧に説明されており、戦前・戦後の都市経営の歴史や振り返りがわかりやすく、3冊目として読むことで理解しやすかったです。戦前に市営事業の重要性を説いた大阪市の関一市長の話や、戦後の成長期に社会資本を充実させ、経済活動を後押ししようとした神戸市の宮崎市政など、数十年前のことなのに知らないことが多く、自ら近代を学ぶ重要性を感じました。歴史ではなかなか習わない、少し前の先輩たちのことをもっと自分で学ぶべきと反省…。
何に投資して、何を削るか
この本で終始書かれているのは、何のために都市経営をするのか、ということと、財政基盤の重要さでした。神戸市の1969年~1989年の市長であった宮崎氏は「最小の市民負担で最大の市民福祉」と述べ、経営努力で自治を充実させようとし、福祉や公共サービスなど社会資本を充実させてきました。当時は成長期であり、福祉に回すお金は開発事業で稼ぐというものでした。社会資本やインフラは既に充実し、また、人がモノではなくサービスや目に見えないものに価値を求めるようになった現在は、当時と状況は違えど、都市経営のなかで、何を目的にするか、何にお金をかけるかという考え方は今の私たちにも参考になります。
都市経営とお金の話
少子高齢化と人口減少の影響を財政の目線で見たときの課題のひとつは、福祉を必要とする人が増えて、義務的経費が予算の多くを占めることで、産業を支援したり、人や教育など、未来に投資できる余裕がなくなることです。そのために削れるとしたら、人口増加の時代には必要だった、公共施設やインフラなどの維持費を減らすことなどです。それをしないと、お金が足りなくなり今の福祉が維持できなくなるという、結構単純な話です。
ちなみに、本書でさいたま市の公共施設マネジメント計画のことも取り上げられていますが、実は策定後に総量規制の例外を認める修正が入っており、現在の財政状況を鑑み、これも見直す必要があると思います。
東京圏としてのさいたま市
さいたま市の市民への福祉の提供を考えるときには、近隣の自治体との関係からさいたま市の立ち位置について考えてみることも必要です。東京圏は1都3県をイメージしています。テレワークなども進んでいますが、東京の存在感は大きく、コロナ禍でも結局は交通の利便性が高い3県への移住が多かったことがわかりました。政令市以外では、東京の交通の便がよい千葉県が多かったようです。
埼玉・千葉・神奈川はもともと東京のベットタウンとして発展した側面もあり、東京23区から移住する人、近隣の県内市町村から移住する人も多く、県内でみた一人あたりの所得も高めです。RESASでみる地域経済循環でも、千葉・神奈川と同様に域外所得が多くなっています。
住宅が増えるということ
住宅政策など含めて、東京から近いという立地の恩恵も受けています。30代や40代が住宅購入と共に移住することも多く、昔は家が建たなかったような場所や畑なども開発されています。子育て世代が入ってくることはよいことなのですが、本書にもありますが、住宅が増えることは、公共サービス(ライフラインや学校、保育施設など)を市民へ提供するため、財政的には維持費が増えることにつながります。また、そこに住む人たちがそのまま高齢者になっていくことを考えると、病院や介護施設が必要になり、高齢者のライフラインでもある公共交通の整備の必要も出てきます。さらに、東京から流れてくる高齢者(要介護者)の受け皿にもなる地域です。そしてそれらにかかる費用を負担するのも、市民です。財政的にみると、なかなか厳しい未来が見えてきます。
コンパクトシティの考え方
縮退社会の解決策として、コンパクトシティという考え方があります。駅などを中心にして、都市基盤や病院・介護施設などのインフラを集約し、公共交通を充実させることで市民福祉を低下させないことを目指すもので、海外ではドイツのコンパクトシティ政策が有名です。
これを目指したいところですが、今までの日本の政策と積み重ねもあり、都市部へ民間の投資を誘導するためには、都市計画の変更なども必要で短期間では難しいのが現状です。将来を考えれば市街地に集約するべきとわかっていても、個人の単位ではなかなかできないもので、市街地への移住への補助をするなど、時間をかけて市街地への移住などを支援していく必要があります。そしてそれをできるのは、自治体や国が中心になりますし、それがその地域の人や教育という、未来にむけた投資になるのだと思います。
最後に
「最小の市民負担で最大の市民福祉」を考えると、今ある住宅ストックやこれから何十年後かに出てくる住宅ストックのことも考えながら、さいたま市も、東京も含めた東京圏全体で市民の福祉を提供できるよう考えていく必要があります。その為には、まずは、人口増加とともに経済発展していた時代には必要だったけれど、今過剰になっている住宅供給を見直したり、必要ない公共施設は複合したり、たたんでいくことが効果的です。市営事業で稼いで、それを福祉にまわすということも、市民への還元になります。自分なりに丁寧に考えていくと、やはりお金のことから目を背けてはいけないのだなと、再確認できました。
都市経営プロフェッショナルスクール
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