【MODE Japan5周年】基調講演「リアル世界におけるビジネスのデジタル化 -DX/IoTの乗り越え方-」
MODE, Inc. CEO 上田 学とCTO Ethan Kanによる基調講演「リアル世界におけるビジネスのデジタル化 -DX/IoTの乗り越え方-」では、シリコンバレーの大手テックカンパニーでエンジニアとして活躍した両者に、IoTデータを活用してビジネスを成功させるポイントを解説してもらいました。
テック企業が実践しているビジネスのデジタル化
2022年のキーワード、どれが大事?
上田:今日はお集まりいただきありがとうございます。まずは私の自己紹介をさせていただきます。MODEでCEOを務めております上田学です。シリコンバレーに21年暮らしております。
大学を卒業した後、ソフトウェアエンジニアとしてアメリカに渡りまして、Yahoo!、Google、Twitterといったテック企業でエンジニアやエンジニアリングマネージャーを務めてまいりました。その後2014年に、IoTスタートアップMODEをEthan Kanと設立しました。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
渡邊:皆様、本日はMODE Japan5周年記念イベントにお越しいただきありがとうございます。こちらのセッションの司会を務めさせていただきます、MODE プロダクトマネージャーの渡邊飛雄馬と申します。よろしくお願いします。
さっそくですが、ガクさんに質問です。2022年のキーワードには色々ありましたが、企業人として何が大切でしょうか?
上田:バズワードは毎年よく出てきますけど、今年は特に花ざかりだったのではないでしょうか。
企業で勤められている方にとって「どのキーワードが大事なの?」というと、私自身はDXだけでいいんじゃないかな、と思ってます。
暗号通貨やメタバースは、この技術で何か面白いことができるかもっていう段階だと思います。一方で、DXっていう言葉は、実は20年くらい前から始まっています。
テック企業では20年前からビジネスがデジタル化されている
DXって幅の広い言葉で、大きく分けると二つに分けることができます。一つは事務の効率化のDX。もう一つはビジネスにデータを活用するDXです。IoTはデータを活用する方です。
私、20年以上シリコンバレーに住んでいますが、振り返ってみると、テック企業ってDXを20年前からやってたんですよね。大きなディスプレイに、会社で大事なKPIとかがずっと出てて、毎日オフィスで見てたんです。なぜテック企業がそれができたかっていうと、元々ビジネスをインターネットの上でやってるんで、データが全部、手元にあります。
エンジニアも会社にいるので、ダッシュボードをすぐに作れちゃう。どの会社に行っても、エントランスにダッシュボードがバーンとあって、情報が可視化されているのが当たり前だったんですね。
データ活用のDXで何が大事かっていうと、ビジネスのやり方のカルチャーを変えましょうというのがポイントだと思います。ビジネスのフィードバックサイクルをとにかく早くして、そのサイクルをちょっとずつ調整しながらビジネスを作っていくようなものです。
「A/Bテスト」というのがあって、何か新しい機能を出すとき、今のバージョンと新しいものを同時に、少しずつ提供して比べて、良かった方を1週間後とかに採用して、次に進みますっていうような。複数を同時にテストすることで、どんどん良くしていきます。
つまりDXは、データを見ながら短いサイクルで、プロダクトあるいはビジネスのプロセスを改善し、それを継続することです。
データを活用した継続的改善
私、10年ぐらい前にTwitterで働いていました。その頃の画面と今の画面、比べると全然違いますよね。
これってあるタイミングでいきなり変わったわけではなくて、ちょっとずつ変わっていったんです。
ここで見えるだけで9個の大きな変化があります。この9個の大きな変更の裏には、失敗したものがたぶん10倍ぐらいありまして、ほとんど上手くいかないんですけども、こうして数を打っていった中で当たったものが採用されて。それが積み重なると、同じTwitterと言っても、こんなにプロダクトが違ってきます。これが、先ほどのデータを見ながらビジネスをどんどん改善していくっていう例です。
リアル世界でもビジネスのデジタル化が進んでいる
データを見ながら短いサイクルでビジネスを改善
渡邊:でも、これってテック企業の話だと思うのですが、この話とMODEとどう関係があるのでしょうか?
上田:実はこれ、インターネットから我々が住んでる、このリアルな世界に出てきているところに関連があります。
スペースXってご存知ですか?民間の打ち上げロケットの会社なんですが、2014年頃、再利用のロケットを作らないといけないということで、バンバン打ち上げて、打ち上げるたびに失敗してたんですね。10回ぐらい失敗してるんですけども。
スペースXに関するニュースって、最近あまり出てこないと思うんですけど、実は今年42回打ち上げをして、42回全部成功してるんですね。ほんの数年前は打ち上げるたびに失敗してたんですけど、それがこの短い期間でここまで来た。データを見ながら失敗してもいいよと、失敗しながら学んでいって、そのサイクルが恐ろしく速い。それが一つの例です。
もう1個。テスラも、さっきのソフトウェア会社がやっている手法を、ハードウェアに取り入れている大きな例です。
実はテスラの車って全部クラウドに繋がっていまして、車のOSにあたるソフトウェアは、今年47回アップデートされてるんですよ。ほぼ毎週アップデートされてる。
これって今までなかったことだと思うんですね。とにかくプロダクトが進化するスピードが何倍速になっている。ここが非常に大きな違いだと思っています。いま挙げたようなハードウェアビジネスの新興企業もデータ活用して素早い改善をしてます。
リアル世界のビジネスでもできるようにする
それなら、他のビジネスでもできるんじゃないかと思うんです。
例えば、建設現場を繋いで、継続的に毎日改善をすることもできますよね。ロボットもテスラの自動車と一緒で、どんどんプロダクト改善していくことができる。オフィスビルとかスマートオフィスも建てておしまいではなくて、その後どうやって使ってるかに対して、そのサービスとかユーザー体験を改善していくことができるはず…なんですけど、これが非常に難しい。
それを解決したいということで、設立したのがMODEです。現場を繋いで集めてきたデータを整理して活用する。この全てを1社で実現するパートナーがMODEです。
目標は4倍速。高速で改善サイクルを回す
改善サイクルは、目標は4倍速の高速で回すのが理想です。データを集めてKPIを算出して、それをもとにオペレーションを改善していく。これを4倍のスピードで動かせるといいですね。
例えば、1年に1回、何か新しい取り組みをやられているのであれば、四半期で結果を出しましょう。1ヶ月に1回データを見る。例えば、データを手で集計していれば、それを自動化して1週間に1回。あるいは1週間に1回のものであれば毎日。こうして4倍速くやるということが大事です。
速くすると4倍仕事ができるので、生産性が上がるんですよ。もう一つは、同じことでも、速くやった人が勝つわけですよね、速く着いてるんで。だからスピードを速くするって単純なようで、これだけで大きな変革、ルネッサンスを起こせると考えています。
渡邊:ありがとうございます。 実際に私たちがいるのはリアルの世界じゃないですか。どうやって4倍速を実現するのでしょうか?
どうやって4倍速でビジネスを回すか
上田:4倍速は簡単ではないと思います。ただ、できるかできないかっていったら全然できる範囲だと考えています。まず、とにかく時間をかけないことにフォーカスをしたらいいと思います。
一つ目は繋げることに時間をかけない。多くのIoTのプロジェクトで見かけることですけども、現実の世界をデータの世界に繋げないといけないのですが、ここで時間を費やさないこと。
二つ目。クラウド構築も時間をかけない。今、IoTのプロジェクトって6割強がカスタム開発なんですね。例えばAWSのソリューションを使って、システムを構築するっていうのが主流なんですけども、これもなかなかうまくいかないですし時間も1年以上かかってしまう。
良いSaaSシステムが出てくると、自社でソフトを開発する会社はなくなっちゃうと思うんですよね。これと同じことが、IoTの空間でも起こるというふうに考えてます。自前で作らず、あるものを活用するというのが二つ目のポイントです。
三つ目は、システム運用をアウトソースすることです。システムって、動いて当たり前なんですね。
しかし、安定した運用には、やらないといけないことは非常にたくさんあります。セキュリティだったり、24時間365日の運用監視、増えていくデータに対応するためのメンテナンスも必要になってしまう。コストもかかるし時間もかかる。システムを作れないんであれば、外部の力を借りてしまったらいいと考えています。
最後に、面白いセンサーがたくさん世の中に出てきています。AIの技術も非常にたくさん出てます。これらの面白い技術を素早く取り込んで、自分たちのビジネスに使ってみて、短いサイクルでテストをしていくと。こういったことができると4倍速というのが実現できると考えています。
MODEとならできる技術的な裏付けは?
渡邊:なるほど。ありがとうございます。つまりMODEでこれをやっていきましょうってことだと思うんですけど「MODEとならできる」っていう技術的な裏付けはあるんですか?
上田:私CEOなので「できます!」と自信を持って皆さんにお伝えしてるんですけども、本当にそうかは、技術的な裏付けがあってこだと思います。なので、CTOのEthan Kanからこの辺を話してもらいたいと思います。
ではEthan、ステージ上に上がって来てください。
上田:Ethan、自己紹介をお願いします。
Ethan:みなさん、こんにちは。MODEのCo-Founder兼CTOのEthan Kanです。
上田:私とEthanは20年前にYahoo!で一緒に働いておりました。Ethanはミシガン大学とスタンフォードの大学院でコンピュータサイエンスを学んだあと、サン・マイクロシステムズでエンジニアとして活躍しました。その後Yahoo!で一緒に働いて、またMODEで一緒にタッグを組んでやっている仲間です。
ということでEthanに技術的な裏付けについてちょっと聞いていきたいと思います。
IoTの実装が難しい理由
一つ目の質問です。なぜIoTの実装は難しいのでしょうか?
Ethan:IoTデータをインターネットに上げるまでと、上げてからの両方に課題があります。
いまの時代、IoT(モノのインターネット)って言ってる割に、実は直接インターネットとは通信できないモノがほとんどです。モノとインターネットを繋げるためにゲートウェイという中継機器が必要です。
しかし、IoTに適したゲートウェイはそもそも売っていないし、じゃあ、誰がソフトウェアを作るのか?という問題があります。さらに、データをクラウドに届ける時に、確実に届けるっていうところが難しい。
もう一つの課題は、データが上がってきたときに、どうやってデータをクラウド上に整理するのかという点です。費用対効果が良くなるようにやらないといけないですし、使いやすい形でやらないといけない。今までのWebの世界のデータとIoTのデータってだいぶ違うんですね。なのでうまく整理をしないといけない。
困難をどのように解決しているか?
上田:今話してもらった、IoTの難しい部分について、どうやって解決しているのでしょうか。
Ethan:一つめは自社でソフトウェア開発をしているIoTゲートウェイです。これを使って、インターネットに繋がってない、様々なデバイスや既存の機器からデータを吸い上げることができます。
さらに、MODEがクラウドとゲートウェイの両方を持ってることで、データ到達保障の仕組みが実現できます。山奥のような通信エラーも多いようなところでも、ちょっとずつデータを送ることで、確実にデータを100%集めることができます。
二つ目は、データを集めてきた後、どう整理するかという部分です。データベース設計の話ですね。MODE BizStackでは、Entity Systemシステムっていう仕組みを作りまして、実際のビジネスで行われているデータを、データベース上で同じような形に再現できる仕組みを、自社で開発をしました。
三つ目は、データを取り出して活用するためのUIが、フレキシブルに作れるようなレイヤーをMODE BizStackで用意してます。
以上の三つが揃うことで、先ほどお話させていただいたIoTの難しさっていうところを解決しています。
MODE BizStackを使う強み
上田:MODEのソリューションは確かに良さそうですが、これら全てをAWSや既存のテクノロジーで実現できますよね?MODE BizStackを使う強みは何ですか?
Ethan:AWSを使ったシステム構築は、レゴを使って組み立てるようなものです。レゴをいっぱい渡されて「これで作れますよ」と言われても、確かに作れますが、うまく作るのってすごく難しいと思うんですね。
MODE BizStackは、技術の部品を揃えてフレームワーク化しています。全体構造がすでにできているので、それぞれのコンポーネントでも使えますし、解決したい課題にフォーカスできるので、技術的な設計や詳細は心配しなくていいのです。
半分完成したレゴみたいなものです。
MODEと他のソリューションベンダーとの違い
上田:はい。では最後の質問です。シリコンバレー発スタートアップとしてMODEはどういう点が、日本の他のソリューションベンダーと異なりますか?というところを、アメリカのメンバーからの視点で聞いてみたいと思います。
Ethan:お客様の持たれている問題に対して解決策を直接聞くのではなくて、一歩引いて、お客様が何がしたいのか、どういう価値を得たいのかをまず把握します。ユーザーストーリーマッピングやペルソナ定義を行なって、お客様にMODEがフィットするのかとか、MODEが提供する価値は何かを考えた上で、お客様の問題を解決してる点がすごく違うところなんじゃないかなと感じています。
最後にひとこと
渡邊:引き続き伺いたいことがあるんですけど、次のセッションもございますので、一旦ここで締めさせていただきたいと思います。
最後におふたりから、会場にいらっしゃるIoTを進めたい企業様、またはIoTの機器やセンサーのパートナーの皆様に、ひとことをお願いしたいと思います。
Ethan: 皆さんに、IoTあるいはDXのニーズがあると思います。私たちは単なるベンダーというより、お客様と一緒に実現するためのパートナーだと考えてますんで、私たち、そしてのエンジニアチームが一緒にデジタル化の旅に出させていただきたいと思っています。
上田:我々、IoT・DXというコンテキストで長年やってきまして、本当にやってて面白いというか、ビジネスが大きく変わる転機だと思うんですね。デジタル技術をどんどん使って、ビジネスを変えていく。こんな面白いことはなかなかないチャンスだと思いますんで、ぜひ私達と一緒にやらせていただければ、と思っております!
渡邊:ガクさん、Ethanさんありがとうございます。皆さま、最後にお2人に拍手をお願いいたします。
(会場:拍手)