塊
ふとした拍子に身体の関係を持ってしまった人が居る。
本当にどこもタイプじゃなくて、なんならあんまり好きじゃない人。
男の人はみんな寂しいと女を抱きたくなるのかな。寂しくなくても抱きたいのか。解決してしまったな。
私は幼少期からずっと不安定で、それは友人関係にも表れていた。同じ友達とずっと友達でいることが出来なかった。その子の一番じゃなくなったら、もう、自分は要らないと思っていた。
今考えたらとんだ思い上がりというか、傲慢にも程があるとつくづく思うけれど、当時は要不要のゼロサム思考で基本自分は不要に該当すると思っていたから、私を必要としてくれなくなったらもうそれで関係はおしまいだった。
私にとって、その人が必要かそうじゃないかは判定に考慮されていなかった。そんなものは一番無駄で何にもならないものだと思っていた。
だって、私が必要としていたって相手が要らなかったらただ私が悲しいだけだもの。
誰かが欲しがっていて私が何かをあげられるのなら、あげればその人は喜ぶもの。私の意思なんか無い方がよっぽど世界が平和じゃないか。
無駄な悲しさなんて無い方がまだやり過ごせる。
私は平和主義者なんだ、みんなが幸せな方が良いに決まっている。ラブアンドピース。
話は戻るけれど、そいつは唯一、こんな不安定な私を見ておきながら逃げなかった人達のうちの一人だった。
最初はびっくりした。こんなことを言ってこんなことをして、許されないと思って全力で反省して恥を感じていながら、でも関係を手放せなくてまたその人たちのところへ向かうと、まるで何も無かったかのように迎え入れてくれたのだ。
不思議だった。もっと嫌われると思っていた。こんな奴、こんなロクでもない酒癖の悪いどうしようもない捻くれた奴、可愛くも痩せても目が大きくも無い奴、少しマイナス点が増えればすぐ不要に天秤が傾くだろうと思っていた。
なんで今日も話しかけてくれるの?
どうしてまた笑顔を向けてくれるの?
わからなかった。それで許されているということが、よくわからなかった。なんで許されているのか理由もわからなかったし、意図も汲み取れなかった。利用する価値も見出せなかった。
どういうことなの、なんでなの、私はすぐ要らない側に回るんだから、早く見捨てれば良いのに。要る人達だけで仲良くなって、こっそり遊びに行って仲間はずれにすれば良いのに。どうして私にも連絡がくるの?どうして知らないところで集まらないの?
戸惑った。何回暴れても何回泣き喚いても何回吐いても、絶対に次に会った時は普通だった。誰も私を見る目が変わっていなかった。
客観的に見れば、最初からそうだったからそういう奴として受け取られて居たんだけれど、当時の私はそういう奴として受け入れられることの意味が、利用価値が、全くわからなかった。
だって迷惑かけてるのに?
誰かにいつも助けてもらっているのに?
なんで?居ない方が楽じゃない。
居ない方がメリットが大きいじゃない…。
この疑問は私が、ここに居たいと思って居続けたんだと気付いた時に、ここに居たいと思う理由はメリットがあるからというわけじゃないと気付いた時に解決するのだけど、本気で、心から、3〜4年くらいは戸惑いながら接していたように思う。
笑えるかもしれないけど、暫くは
次行った時にとんでもなく悪印象の色んな噂が飛び交ってるんじゃないか、とか、
実はこんなに仲良くしてくれるのは最後に裏切って傷つける為なんじゃないだろうか、とか
考えられるだけ悪い方向に考えて、後々「こんなはずじゃなかった」と傷付かないよう準備していた。万端だった。
結局(当たり前だけど)その最悪パターンはどれも使わなくて、いい加減疑っていた私もようやく安心することが出来た。
大丈夫なんだ、と思った。
私、不要のままでもここに居て良いんだ、と思った。
冷静に考えれば、自分のことを不要だと思ってしまうかもしれない人なんてたくさん居た。酷い話だけど、私はそういう人たちと一緒に居ると楽しかったし、好きだったから、そういうことなのかもな、と少し思えた。
あぁ、良かった。
これで安心してここに居られる…。
やっとそう思えた。
気が緩んでいた時に、そいつは、私を「要」側へ引きずり戻した。油断していた。
私には必ず、でも当然に、必要な理由があった。
私はどうしようもなく、女だった。
ああ、そういうことか。
だからだったんだ。
そりゃあ、要るよね。
あった方が良いに決まってる。
そうだよね、そうだよ。そうだ…
ああ、こんなにも裏切られた気持ちになったのは初めてだ。
どうして、どうして今更。なんで今なの。
どうせならもっと早く、私が安心する前にして欲しかった。大丈夫だと思う前に気付きたかった。あぁやっぱり、私は…
ダメだった。もう駄目だった。何もかも終わってしまった。好きだったのに。居心地が良かったのに。違った。決して無くすことの出来ない利用価値に気付けなかった。
顔は笑っていても、心は泣いていた。
表情が感情に追い付かなくて、それは何分とか何秒の話じゃなくて、何日、何ヶ月の話で、磨り減っていく形で何かが無くなっていった。
あっという間に、崩れる、とかじゃなかった。一枚いちまい皮をめくるように、刃物を研ぐ様に、少しづつ少しづつ、何かが無くなっていった。
「女として生きていかなきゃいけない。」
人生で初めて、その覚悟を決めた。
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