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クリスマスの次の日
尼崎の駅で開いた電車の扉から入ってくる空気、見える景色に思わず想いが溢れて泣きそうになった。
''思わず''の部分に詰め込まれている内容がなんなのか私自身この時点では分からないでいるのだけれど、この感情を持っている自分に気づいていながら本を読む時間に当てるのはなんだか勿体ないと思った。
クリスマスを昨日終えた今日。午後八ツ。''この空気''である。
彼はこの電車に乗っていたのか。こうして揺られている間、何を考えていたのだろうか。スマホを片手に何か調べものでもしていたのだろうか。
大きく切り取られた窓ガラスから入る、枠にハマった黄色い光が私の膝をゆっくりとあたためてくれる。
陽の光を眺めながらハッとした。なぜ泣きそうになったのかが分かった。やっぱり、原因は予想通り、紛れもなく「彼」だった。
彼が育った街。ここでこの空気を吸って過ごしたのか。西北に近づくにつれて、出かかった感情の引き出しが大きく前に飛び出してきたのだ。そんな、一瞬の空気を吸って湧き出た大きな感情が、私の涙を誘ったのだ。私の知らない彼が、私の知らない間にあんなに素敵な人になっていったのだ。彼を知らない時の私はというと鼻垂れながら努力の''ど''の字も掠らないような人生を送り続けていたのだ。改めて、何も残ってない私の軌跡を振り返ってみると、ひどく胸が苦しくなった。だが、その苦しさこそが彼の素晴らしさを立証できる。
素敵な彼を育てていったこの土地がすごく眩しく、私よりも彼のことを見てきたこの街が心底羨ましいと思った。
来世では西北の東改札口の真ん中に立つ「東改札口」と大きく貼られた柱になりたい。そして彼の毎日を見守りたい。
…彼がもし違う誰かと歩いていたら…と想像したら、心臓が変な音を立てて潰れそうになったから、やっぱり来世も私でいい。彼と出会う人生のままで。