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イザベラ・バード「日本奥地紀行(1)」

1878年(明治11年)4月、日本にやって来た一人の英国人女性がいる。

名前は、イザベラ・バード。(以下、バード)

日本に来た目的は、奥地(日本北部)への旅である。

明治政府が成立して10年ほど経っているとはいえ、日本は激動の時代だ。(前年は西南戦争が勃発)

このバードによって、当時の日本人の暮らしぶりが書き綴られた一冊の本が「日本奥地紀行(完訳)」だ。

原題では「Unbeaten Tracks in Japan」(日本の未踏の地)。(1880年、ロンドン・ジョンマレー社より出版)

日本の奥地を初めて旅した外国人女性

バードは中流階級の家庭で育ったが、生まれつき身体が弱かった。40代後半だったこの頃、医者から効果的な療養のためと遠地への旅行を勧められた。

旅先に選んだのが日本。さらに言えば、まだ欧米人が足を踏み入れたことがない日本の奥地(蝦夷を含めた日本北部)を旅する目的だった。

バードは日本に来る以前からアメリカやカナダを旅しており、すでに旅の魅力に憑りつかれていた。

「日本奥地紀行(1)横浜~日光~会津~越後」では、バードが最初に上陸した横浜をはじめ、東京の浅草寺などを見て回った後、日光や会津を抜けて越後(新潟県)まで旅する。

バードは、当時すでに日本の旅行経験がある知人の情報や駐日英国公使ハリー・パークスらによる援助もあって、周到にその準備を整えた。

イザベラバードと旅した男

僕が本を読み進めながら見過ごせなかったの人物が、バードの従者(通訳兼ガイド)として共に旅をした伊藤鶴吉(本書では伊藤と表記)だ。

この当時、若干18歳。この伊藤の存在を抜きにしては、バードもこの旅は決して成し得なかったはずだ。それはバード自身による記述からも、伝わってくる。

旅における伊藤の手際のよさと伊藤が類い稀な知性の持ち主であることに私は日々驚いている。 — この男は非常に器用で、今では従者兼通訳の仕事をこなすだけでなく、料理・洗濯・その他すべての雑事もこなす。もしもこんなに若くなかったら、私にとってこれほどには気楽ではないと思う。

じつはこの従者という職を求め、事前に多くの日本人がバードと面談をしている。

バードにとって、通訳として自分と意思疎通ができる英語力はもちろん、蝦夷地を含めた日本北部への案内に詳しいかどうかも重要だった。

バードがある一人の従者を決めかけていた時、最後の最後にやって来た男が伊藤だった。

伊藤は、本州北部から要人を連れて蝦夷へ行った経験があること、料理も少しできることなどを猛アピールした。そして何より、英語力があった。

自分が話す英語を伊藤は理解してくれ、伊藤が話す英語を私は理解できたとバードは本の中で記している。

明治初期の日本人の暮らしぶり

僕も旅をすることは好きだ。特に海外を旅したことがきっかけで、本を読む時間が増えた気がする。(それまでほとんど読んでなかった!)

特に、世界中の先人たちはどんな旅をしていたのだろう、という疑問や興味が沸々と湧いてくるようになった。

「日本奥地紀行」は、バードの鋭い観察眼によってこと細やかに書き綴られた日本の風景や人々の姿、時には自身の描いたスケッチをもとにした銅版画から知ることができる。(トップ画像は、バードが旅の移動に使った駄馬)

当時の日本人の姿が良くも悪くも実直に描かれている。例えば、こんな具合だ。

私が乗った馬の馬子(駄馬の使い手)は、労苦の刻まれた実に人のよさそうな顔立ちながら、お歯黒のためにひどく醜く見える。

また、当時すでに欧米人も訪れにやってくるほどの観光地だった日光の美しい自然、淑やかな日本人の態度に触れているのとは対照的に、日光から北部の奥地へ入っていくに従って、集落に住む人たちの描写が変わっていく。

裸同然で汚い身なり、不衛生による病気、おびただしい量の蚤、悪臭、週一回のお風呂、食べ物の多くは刺身か半生な塩魚...というような描写だ。

しかしながら、バードの目はそうした貧しい日本人の姿だけを捉えてはいない。

日本では怠惰など及びもつかないし、農民にあっては酒浸りの者などほとんどいない。彼らはどこまでも勤勉である。
子供たちは顔つきにも振る舞いにもとても好感が持てる。実に素直で従順であり、自ら進んで両親を手助けし弟や妹をおもいやる。
私は、世界中で日本ほど女性が危険にも無礼な目にもあわず安全に旅のできる国はないと信じる

こうしたバードの文章から、我々日本人たちのおもてなしの心、礼儀、勤勉、思いやりといった特質が今も引き継がれていることを証明してくれる。

じつはこの「日本奥地紀行」は、全4巻ある。

2巻では新潟から青森まで、3巻では北海道でアイヌ先住民と触れ合い、4巻では関西方面に足を運んでいる。

ちなみに、僕もまだ読んでいない。(バードの旅は先が長い!)

2巻以降のことについてはまたいずれ。

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