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【連載】Fredの「あさがや人文知」〜テーマ①面接〜

悩むことを手放さない経営者、Fred(フレッド)。スタートアップ経営はそもそも迷うことの連続だが、Fredはその逡巡を歓迎しているように見える。悩むことは苦しいこと。であるなら、悩みは無くしたいと思うのが人間の本能のはずである。

しかし、苦しみに止まり続けるFred。なにが彼を突き動かし、どうしてそんなことが可能なのか。答えはきっとFredが学んできた「人文知」の中にあるに違いない。そう見立てを立てた同じく悩みがつきない人事担当・Cap(キャップ)が、どうせなら自分の悩みに付き合ってもらおうと、Fredと一緒に悩み合う連載企画をスタートします。

第一弾のテーマは「面接」。人事担当としていつも迷いながら行っている面接について、Fredの中で蓄積・発酵された人文知からヒントを得たいと思います。一緒に悩んだ先に何があるのか、それともなにもないのか。きっと答えは提示できませんが、ぜひ一緒に悩んでいってください。



あなたの人文知はどこから?


──まずは改めて本企画の趣旨を説明しますね。ぼくは普段人事の仕事を行っているんですが、人事の仕事って明確な答えがないことがほとんどだと思っています。答えがない状態ってストレスじゃないですか。けど、そこからは逃げられない。そんな状態の一助となるのが「人文知」だと思ってるんですね。

はい。

──僕にとって人文知はよく悩むための道具。悩みを単純化せず複雑なまま考え続けるためのツール、みたいなイメージなんですよね。だから人事の仕事と相性が良いと思っていて、だから人文知について造詣の深い──人文知という括りもだいぶ大きいですが、そんなFredと人事の仕事について一緒に悩んでいきたいと思っています。

いいですね。おもしろそう。

──まず1回目のテーマは「面接」なんですが、その前にそもそもFredの人文知がどこからきていて、どういうところに興味・関心があるのかをまず知りたいなと思ってます。まずはFredの人文知への入り口がどこだったのか教えてもらえますか?

人文知の入り口って何だろう。

──(笑)

間違いないのは、中学、高校ぐらいからすごく“生きがたさ”を感じてたんですね。何のために生きるんだろう、と。もちろん友達もいたんだけど、好きなものとかがずれてて。ずっと。田舎特有のものかもしれませんが。

──僕もFredとほぼ同郷(福岡の田舎)なので言わんとしていることはわかる気がします。

それで音楽をはじめたんだけど、むちゃくちゃイキイキできたんですよね。学生時代にストリートミュージシャンをやってたんだけど、周りはみんな『ゆず』を歌ってて僕だけ『高田渡』を歌ってましたね。うん、でもそうするとやっぱりすみっこに追いやられてたな。

──すみっコぐらしだったんですね

そう。何が言いたいかというと、音楽と人文知ってすごく近いとこにある気がするんですよ。

──あー、おもしろいですね。

人文知って「世界をどう捉えるか」を考えるような学問じゃないですか。同じように作曲してる人やパフォーマンスしてる人って、世界をどう捉えてるかを音楽で記述してるんだと思うんですよ。音楽をやってると「自分って何なんだろう?」とか「世界って何なんだろう?」とか、そういう苦しみに対して「これだ!」みたいな感覚を得られたんですよね。

それで僕は表現することにすごく興味が出てきた。それが人文知への入口といえば入口になるのかな。文化人類学を学んでいた学部でも文化研究をやっていた修士でも「表現と社会の接続」について考えていました。

──ははあ。

卒論は1年近くかけてストリートミュージシャン100組にインタビューしたな。お客さんの数と歌っている曲のオリジナリティ(他のミュージシャンと被ってないか)を数値化して、それをプロット化すると「このクラスターの人は人通りの多い場所から隅へおいやられて演奏している」みたいに場所取りの政治が働いていることがわかって。

──なるほど。

修論のときも修論のときで、インディーズバンドやレーベル担当者を中心に音楽関係者にたくさんインタビューさせてもらって。メジャーレーベルと契約せずインディペンデントで活動しているすごく先進的な人たちのインタビューをルポのようなかたちでまとめました。

表現が社会への一種の反論というか、そういうものになっていることにすごく希望を感じたんです。自分の“生きがたさ”をそこに投影してたんですよね。そこら辺が僕の人文知のルーツと言えると思います。……大丈夫かな、こんな話で。

──大丈夫です。悩みながら話していきましょう。

面接はつまづくことが大切?

──ここからぐいっと面接の話をしていきたいと思います。僕の最終面接はFredがやってくれましたが、その時Fredが「面接ってむずかしいな」って言ってたのを覚えてるんですよね。

最近はメンバーに任せられるようになってきたので僕が面接に出る機会も少なくなってきたんだけど、そもそも数時間で他者を理解するって不可能ですよね。自分が受けてきた面接を考えても、あたかも相手側が完璧な判断力をもって自分に決定的な判断を下すかのように感じてて。あんまりいいイメージはない。

けど面接はやらなきゃいけなくて、そこで僕が大事にしてるのは「素の人間を知りたい」っていうか、その人のキャラクターを知るってことなんです。結局、そこがうまく一緒にやっていけるどうかのむちゃくちゃ重要なポイントだと思ってて。

──はい。

その人が何をおもしろがる人なのか。知らない人とコミュニケーションするのが好きとかだったら、外向けのお仕事に向いてるかもしれないとか、その人の特性にあわせていろいろあるじゃないですか。そういう部分を見たいと思っています。

一方で、素の自分を見せるのって弱さをさらけ出すことにつながる可能性がある。だから面接する側が完璧でなにか判断を下すような役割になってはいけないと思うんです。

──たしかに。

だから種明かしになっちゃうけど、面接の場で「面接ってむずかしいな」とか「面接いつまでたってもうまくできないんですよね」とかあえて言うことによって、もちろん全部が作意じゃないけど、こちらの不完全性を表現してるんですよね。

──つまずくことによってこちらも完璧な存在じゃないと伝えているんですね。

そう。それでフラットな場を作っていく。こちらも下手くそなんだから、あなたも自由に好きなことや苦手なことを出してくださいっていう感じで。TimeTreeの面接は「お見合い」だと表現していますが、面接でその人のビジネスパーソンとしての優劣をこっちが決めてるわけじゃないんですよね。

うちの会社の状況や課題があって、それはフェーズによって変化していくものですが、そこに対してマッチしている方かどうか。すごい人だな、でも今のうちのフェーズで活躍していただくのはむずかしそうだな、とかあるわけです。2年後に会ったらすごく会社のフェーズにあってて、その時にご一緒できるとかもありえますよね。

──ありえますよね。とはいえ、僕も面接するときは本当にフラットで対等な立場であることを何度も確認し、そこを北極星として目指してはいますが、実際問題どうしても候補者様のほうが評価される側みたいなところがあるんじゃないかなと思っていて。つまりは非対称性があるのではないかと。

そうですね。面接する側の人数が多いのもその要因としてありそう。3対1とかになっちゃうっていう。だから非対称性とかは仕方ないかなと思ってて、偉そうにしなきゃいいのかなと思ってますけどね。あと、候補者の方もいくつも企業を受けてたりするから、そうなったときにはこちらが選ばれる側ですよね。

──ああ、そうですね。

こちらが断られることも多々あるわけで。そういった意味で本当にお見合いだと思うんですよ。

──以前軽く打ち合わせをした時に、面接の場にいらっしゃる候補者様と面接じゃない場の候補者様は違う人間である、という話がおもしろかったのですが改めてその話をしてもらえますか?

関係論の話ですね。どんな状況でも、誰と話してても、僕が僕らしくいられるわけでありません。いろんな人との関係性の中で僕っていう人間が形成されている。つまり僕らしさは僕単体で成立しているわけではなく、僕を知ってる誰かによって形作られている。そういった考えを関係論と言います。

その考えでいうと、1人で面接に来ていただいてお話しても、その人らしさはわからないのかもしれませんよね。非現実的だけど、友達と一緒に来てもらった方が相性を測ることができるのかもしれない。

──その話、すごくおもしろいと思ったんですよね。同席いただくのはご友人じゃなくご家族でもいいし、現職の同僚や上司でもいいですよね。

ね。

──来ていただけると。

最近リファレンスチェックが流行っているのも似たような流れだと思いますね。

──リファレンスチェックって大切ですけど、なんというか開かれたものではないのでむずかしさを感じる時もあって。面接の場にリファレンスチェックをする側の人がいるとオープンなコミュニケーションでいいなと思いました。

中学時代の野球部監督に来てもらうとかでもおもしろいですよね。

──僕はずっと剣道部だったので当時の顧問に来てもらったり。

とかね。今だったらZoomとかあるし、ビデオレターでもいいけどね。かく言う僕は6年間ずっと帰宅部だったんだけど。

──(笑)。Fredだったら誰を呼びますか?

学生のときバイトしてた掃除屋の社長さんとかかなあ。

社会的身体ってなに?

僕の弟は文化人類学者で『社会的身体』というアイデンティティの研究をしています。社会的身体っていうのは、弟が研究してるパプアニューギニアの山奥の村とかだと、“わたし”は自分の家以外に〇〇家のばあちゃんと△△家のばあちゃんにご飯食べさせてもらってきたから、“わたし”は自分の家の血と〇〇家と△△家のご飯でできている、という考えのことで、個人と社会の二項対立でなく、私という身体の上に社会があらわれるというイメージです。

自分という存在は単体で成立しているのではなく、様々な社会的な要素から連続的影響を受けてつくられている。西洋だと逆の考えが強いですよね。個人が絶対的な意思をもって、いかなるときも責任能力を持って、みたいな。その息苦しさもあるじゃないですか。

──ありますね。

だからなんというか、数回の面接でその人の連続したアイデンティティを表現してもらうのって無理だとも思うんですよ。その人を構築しているもの、その積み重ねを理解するには時間がかかります。

──『社会的身体』はじめて聞きましたがおもしろい概念ですね。う〜ん、やっぱり面接ってむずかしいですね。

むずかしいですよね。面接も調子の良し悪しとかあるじゃないですか。必要以上に緊張してしまう場合なんかもある。だから面接では「この人を測ってやろう」ではなく、いかに素で話してもらえるか、緊張をほぐすことができるか、そういったことに心を砕いています。

──いいですね。

そうしないと時間がお互いにもったいないから。

──緊張をほぐすための人文知的なノウハウはないですか?

むずかしいな。実は心理学にも興味があって、心理的安全性をいかに突き詰めるかっていう文脈だと、やっぱり先に失敗を見せるってのが大事なんじゃないですかね。だから面接の最初、わざと失敗してるわけじゃないけど油断してますね。

──油断している。

そうそう。油断して何かいい質問が出てくることを期待してる。あと、最初の面接っぽい質問って照れるんですね。「仕事の上でこだわっていることは?」とか聞くじゃないですか。

──聞きます(笑)。

そういう感じで入ると照れるし、個人的に不自然だと思うんですよね。だから正直に「面接って照れますよね」とか「面接の切り替えがいつもうまくできないんです」と伝えてます。

──僕、けっこうFredと同じことやってます(笑)。まじめな話をすると照れてしまって。

まあ同郷だしね。

散歩面接はあり?

──最後に聞きたいことがあって、面接後の評価のところなんですけど。TimeTreeでは面接の前後に面接官と人事が集まって候補者の方について話すMTGがありますよね。面接のあとの場ではその方がTimeTreeでご活躍いただけそうかをお話しする。ようは評価をするわけです。

はい。

──そのことについて『オープンダイアローグ』の視点で考えてみたくて。Fredはオープンダイアローグってご存知ですか?

聞いたことはあるけど詳しくは知りません。

──統合失調症を治すための治療法としてフィンランドで開発されたのがオープンダイアローグで、投薬せずに対話だけでアプローチするのが特徴的な治療法です。で、この治療法に大きな影響を与えているミハイル・バフチンっていう思想家がいて、こういうことをいってるんですね。

Aさんのことについて話す時、その場にAさんがいないのであるなら、Aさんのことを客体化している、と。ようはAさん不在でAさんについて語る時、Aさんをものとして扱ってると言ってるんです。

これを面接評価の話で適応すると、候補者様がいない場で候補者様のことを話すことは、その方をもの扱いしてるのでは? とモヤモヤした時期があったんです。とはいえやらなきゃいけないのでやるんですが。めっちゃ雑なパスですが、このことについてどう思われますか?

むずかしいね。それに倣えば理想は評価の場にその人も呼んでっていうことだと思うんです。けど、そもそも治療と面接は別物ですよね。治療だとその人のその後の人生にまで責任が発生しそうですが、面接はそこまでではない。そのやり方だと面接を受ける側もハードルが高いんじゃないかな。

だからまあ大事なのは面接でも面接後の評価の話し合いでも、候補者の方に敬意を持つってことだと思いますね。

──あ〜いいですね。評価の話し合いの場に候補者様が同席している気持ちで議論するの良さそう。

面接じゃないけど、ユーザーさんを客体化しないために会議室に『ユーザーさん人形』を置いてたな。椅子と机も用意して。

──めっちゃ良さそう。候補者様人形を用意するのもありだな。

とかね。僕が面接後の話し合いで考えているのは、その方がTimeTreeにきたとして、その人がハッピーになれるかどうか。

リモート主体のメンバーが増えたので考えることも少なくなったけど、昔はよく「誰とランチ行ってそう?」「メンバーとご飯に行ってるイメージ湧く?」とメンバーに聞いていました。それですぐに誰々とランチ行ってそう、と思い浮かんだらけっこう大丈夫。

──誰と関係性を結びそうかを見てたんですね。

コミュニケーションのトーンが合うかどうかは大事にしているポイントですね。面接で趣味や好きなものを必ず聞くんだけど、実は適当に聞いてるわけじゃないんですよ。

──どういうところを見ているんですか?

「好きの角度」っていうか、どういうのめり込み方をしてるかを知りたいんですよね。あとは単純にゲーム好きだったら「うちにもゲーム好きいっぱいいます」みたいな話もできるし、誰と気が合いそうかもわかる。

──なるほど。この流れにまったく関係ないことが頭に浮かんだので共有してもいいですか?

もちろん。

──うちの面接時間って、大体60分ぐらいじゃないですか。最終面接だと90分で、どれぐらいが適切なんですかね。面接時間って。

どれぐらいなんだろうね。今のところ過不足ない感じがするな。

──何かで読んだんですけど、昔の哲学者同士の対話がどこで終わってたのかというと、時間で区切ってたわけじゃなくて「疲れたら終わる」システムだったらしいんですね。時間の区切りではなく身体的に疲れたら終わるって書いてて、おもしろいなと思ったんですよね。

面接じゃないけど、うちもよく散歩しながらミーティングやってましたよ。結論は出ないんだけど、疲れたから一旦の結論を決めなきゃいけなかった。

──正解がなくて結論が出ない問いだからこそ、強制的に仮決めを行うシステムを作ってたんですね。

そうね。そこまで設計したわけじゃないんだけど。歩きながら考えるのもいいですよ。考えの煮詰まりと疲れとが合わさっていい感じになる。

──散歩面接、どうですかね?

ありだと思うけどね。

──季節の問題や歩くルートの選定など考慮すべき点はありそうですが、不可能ではなさそう。

歩き方とかでも相性がわかるかもしれない。今思い出したけどいろいろやったな。逆面接もやったことありますね。

──候補者様にTimeTreeのメンバーを面接してもらうってことですか?

そう。うちで初となるビジネス職の採用で、こちらとしてはその方とご一緒したいと思っていた。ただ、はじめての受け入れということでその点だけが不安で。1時間しっかりと面接してもらいました。

──良さそう。

あと、めちゃくちゃ『TimeTree』を好きでいてくれる方がいて、その方とはご縁がなかったんだけど面接後に飲みに行ったこともあったな。

──え〜それはすごい!

まあいい思い出ばかりじゃないけどね。うちもクセの強い会社だとは思うから、合う合わないがありますよね。

──それはそうですね。すごく主体性が求められるので、そこは相性があると思います。

そうそう。あらゆることに「何のためにこれやるのか」が求められるのでめんどくさいって人もいると思います。……こんな感じで大丈夫なのかな。いくらでも話せるけど。

──わかりません! ここまでこの記事を読んでくれた奇特な方いらっしゃいましたらぜひ感想いただけると。個人的にはとても楽しかったです。

僕もすごく楽しかったです。

──ではまたやりましょう! Fred今日はありがとうございました!

ありがとうございました!


「面接」について悩むための一冊


Cap推薦

日本におけるオープンダイアローグの第一人者、斎藤環さんによる入門書。オープンダイアローグへの入口としてうってつけの一冊です。精神療法ですが、ビジネスの世界でも普段の生活でも何かしらのヒントと驚きを与えてくれると思います。この本を読み、人は本来「孤独」になれない生き物なのではないか、と考えるようになりました。よろしければ。


Fred推薦

記事中でご紹介した、文化人類学者である僕の弟の書籍です。パプワニューギニア高地でのフィールドワークから、現地の贈与交換や紛争などを人格論、贈与交換論といった理論を交えて描いた民族誌。個人と社会のありようの可能性を広げてくれるような一冊だと思っています。僕は「他者を理解するとは、自分自身が変わってしまうことである」ということを弟から学びました。



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