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読書レビュー「ジョブ型雇用社会とは何なのか」
本書を読む目的・きっかけ
いきつけの本屋で新書本を物色していたところ、気になった本として「ジョブ型雇用社会とは何か」という本が目に留まり、ちょうど話題になっているジョブ型雇用とはどのような雇用体系なのか知りたかったこともあり、購入してみることにした。
そもそもジョブ型雇用について気になった経緯として、実は、私が勤務している会社でも「〇〇社流ジョブ型」と人事が大々的にジョブ型を明記しており、そもそもジョブ型ってなんやねん?と以前から疑問に思っていた。
また、メンバーシップ型とジョブ型の違いもよくわかっておらず、これからの日本社会にとっても自分にとっても、この違いをよく理解しておくことは重要だろうと思ったことも、本書を買うきっかけになっている。
因みに本書を読んで、私が知りたいと思っていた主な内容は以下の通り。
・ジョブ型雇用の特徴とは?
・日本のメンバーシップ型雇用とどう違うのか?
・ジョブ型はすぐクビになると言われているが本当か?
・ジョブ型の評価制度は成果主義と言われるのが本当か?
本の細かい内容は読んでもらうとして、自分が知りたかった内容について、それぞれシェアしていくことにする。
ジョブ型雇用の特徴とは?
まず欧米のようなジョブ型の最大の特徴は2点ある。
1点目は、職種を特定して採用を行うことだ。
日本のように総合職というざっくりとした採用の仕方をしないのが特徴で、職務を特定して採用する。その際にジョブディスクリプションという職務内容を明記した文書があり、求められる役割や成果が記載されている。
そのため、人事異動で他の部署に異動して違う職務の仕事をやらせるということはない。
因みに、会社の構造改革(リストラ)でその職務が必要なくなったら解雇となる。日本人からすると異動などで他の仕事を割り当てればいいのに、、、という人がいるが、そもそも職務別に採用しているため、異動で他の職務を与えるという考え方がジョブ型社会にはないと言える。
日本のメンバーシップ型雇用とどう違うのか?
ジョブ型雇用については上記に記載した内容となるが、では日本のメンバーシップ型雇用とはどのように違うのか?
個人的に感じる両者の違いとしては、大きく3点になると思う。具体的には採用、職種、賃金の3つに違いがある。
一つ目は採用の仕方による違いで、日本のようなメンバーシップ型雇用は学校を卒業する若者を新卒採用という個別の採用枠を作り、毎年同じ時期に一括採用という形で採用する。一方で欧米のようなジョブ型雇用では、欠員が発生した時のみ募集をかけ、採用を行う。
つまり、日本のような新卒一括採用は行われていない。調べてみたところ、日本のような新卒一括採用を行っている国は私が調べた範囲では見つからなかったので、この採用方式は世界の中で見てもかなり異質に思われると思う。また、新卒専用の採用枠がない欧米では、わずかな採用枠に学生だけでなく、既に働いている経験者も応募してくるため、未経験の学生たちは同世代だけなく、既に経験豊富なベテランとも採用枠を争わなくてはならない。ここがジョブ型雇用の負の側面であり、若者の失業率が欧米で高い理由になっている。
次に2つ目は職種による違いで、日本では新卒採用では「総合職」「一般職」といった何をやるのかよくわからない職種で採用するが、ジョブ型社会では職務別(職種別)採用となるため、最初から専門性を問われることになる。そのため、欧米の若者は長期のインターンに応募して経験を積むと同時に、大学でその職務に必要な学位を取得して、ジョブディスクリプションの職務をこなせるということを証明しなくてはならない。よく日本の大学は卒業するのは簡単、欧米は難しいと言われるが、このような背景も影響しているのかもしれない。
3つ目は賃金だ。
まず日本の場合、人に賃金が張り付いている。例えば、日本では入社してから、どこかの部署に異動となり、慣れない仕事をすることになるが、その際に「この職務は未経験なので給料が下げるね」とはならない。給料は変わらず、今まで通りの賃金となる。
一方で欧米社会の場合は職務に賃金が張り付いている。つまり、「この仕事はいくらです」と職務と賃金がリンクしている。職務と賃金がセットになっているので、異動で他の仕事をそのままスライドしてやらせるとはならない。おそらく、その場合は契約を結びなおすことになるが、未経験なので賃金は下がるだろうし、労働者側もそんな契約は結ばないだろう。
ジョブ型はすぐクビになるというのは本当か?
おそらく、ほとんどの日本人が欧米はすぐクビになると思っている人が多い(私の親も昔、同じことを言っていた)が、これは半分当たっているのかなぁと思う。先にも書いたが、欧米は職種別採用なので、その職務が不要になれば解雇になる。仮にその企業が、今後の計画として営業を200人減らし、技術者を300人増やすと決めれば、当然、営業はその分不要となるのでその会社の営業社員は解雇される。日本人からすると「不当解雇だ!」と騒ぐが、このような会社の方針は本当の意味でもリストラ(構造改革)なので不当でもなんでもない。
ただ、日本で度々発生する人種・思想・性別による解雇は発生しない。
日本の場合は過去、学生運動に参加していた人がそれを理由に解雇されたり、内部告発を行った人が解雇されたりと違う意味で不当な解雇がおこなれている。
また、日本では表立った解雇は余りないものの、早期退職という形で似たようなことが行われており、一部の企業では「追い出し部屋」なる所で嫌がらせに近いことが行われるのを考えると、何をもって不当解雇とするのかは一度、よく考えないといけないと思う。
ジョブ型の評価制度は成果主義と言われるが本当か?
次に評価制度について書いていきたい。
日本人の中には、「欧米は成果主義だ」という人がいるがこれも少し違うようだ。
メンバーシップ型となる日本の場合、多くの企業が新卒1年目から部長まで皆、評価の対象になることが多い。しかし、実際、平社員の多くは評価が適正でないと感じている人が多い。この理由として、評価する管理職も四六時中、張り付いて仕事ぶりを見ているわけではないため、評価するのが難しいのが原因の1つだ。
一方のジョブ型の欧米では、管理職は厳しく成果が問われるが、それ以外の社員はそもそも評価の対象とならない。つまり、日本でいう平社員(課長補佐ぐらいまで)は査定が存在しないことなる。ここで疑問となるのが、「じゃあ、どうやって給与や昇進を決めるのか?」となるが、ここで思い出す必要があるのは、先に記載したジョブ型雇用の賃金についてだ。ジョブ型の賃金は日本と違い、職務に賃金が張り付いているので、そもそも賃金は固定となる。つまり、給料は増えない。
日本人は「えーー!!」と思うかもしれないが、これがジョブ型雇用社会の特徴の1つとなる。昇進する人は全体の1割程度で、すでに入社する段階で明らかになっており、多くの人は給料が変わらないシステムになっている。そのため、多くの人は給料を上げるために転職を繰り返すことになる。
実際、転職すると基本的に10%は給料が上がるのが普通らしい。
ちなみに同じ会社で昇進すると求められる役割や職務が変わるため、再度契約し直すらしく、これも日本社会の感覚と異なる点かもしれない。尚、日本では近年、みなし残業代による働かせ放題や役員からのプレッシャーと部下からの突き上げもあり、「管理職は罰ゲーム」と言われているが、欧米では管理職になると年俸はかなり上がるらしい。それどころか、タイなどの東南アジアでも管理職の給料は日本企業より高いことが多く、日本企業に勤務している現地の日本人がタイ企業から高い給料でヘッドハントされ、引き抜かれていくケースが徐々に問題になりつつあるようで、今後の日本社会の大きな問題になるかもしれない。ちなみに私の会社の場合、課長職になると750万円〜850万円ほどになるが、昇進のハードルが高い上に、仕事量や責任を考慮すると割に合わないなぁと思う。
日本のジョブ型雇用の中身はバリバリのメンバーシップ型雇用
ここまでジョブ型社会の特徴を見てきたが、ここ近年は日本企業もジョブ型を謳い、人事制度にジョブディスクリプションを取り入れている。私の会社も「〇〇流ジョブ型」を謳い、流行りに乗っているが、新卒採用は依然として行なっているし、評価制度も昇進も年功序列型をベースとしている。ジョブ型雇用について本書を読んだ限りでは、日本企業のジョブ型は本来のものとはかなり異なると感じている。
海外の制度や考え方を日本に取り込もうとする時に、度々、本来のあるべき姿を歪めて取り込んでしまい、うまくいかないと嘆くことが多いが、このジョブ型雇用も同じような末路を辿るような気がしてならない。
少なくとも、ジョブ型を採用する企業は、新卒採用や評価制度のあり方について、自分たちの都合のいい勝手な解釈に基づいた仕組みを作るのではなく、もっと根本に根付いている考え方を学び、自分達のマインドをそこに合わせて変えていく必要があると感じているがいかがだろうか。
いずれにしろ、ジョブ型雇用について知りたい人は本書を一度、読まれることをお勧めしたい。日本企業のジョブ型が勝手な解釈により、歪められたものであることがよくわかるはずだ。