見出し画像

[感想] ダークタワー V カーラの狼

これまでのあらすじ
ビームの道を辿り、ダークタワーを目指すローランド一行(カ・テット)。
彼らが野営をしている際、カーラ(・ブリン・スタージス)からガンスリンガーの助力を請う一団が接触してくる。
カーラでは「狼」という一団が数十年に一度のサイクルで町を襲う。よほどのことがない限り子どもが双子で生まれるカーラで「狼」は双子の片割れだけを攫い、知能が低下したルーントと呼ばれる巨人に変貌させて村へと戻す。
町の一団からそのサイクルが近づきつつあると聞き、ガンスリンガーとして助けを頼まれた彼らは「狼」と戦うことを承諾する。
果たして、彼らは謎に包まれた「狼」に勝てるのか?そして「狼」の正体と目的とは…?

感想
「狼」の正体が最後まで分からないミステリっぽさもありながら、ほぼ全編に渡って西部劇のアトモスフィアが漂っていて大変よろしいですね?
これまでも戦闘は何回かあったものの、カ・テットが誰かのためにガンスリンガーとして戦うのは初めて。少年ジェイクの成長が著しい。カ・テットに入りたてのころとは大違いだよ!

「狼」と対決するのは本当に一瞬で、何人かは命を落とした。作中でもその人たちが死ぬ瞬間はあっさりと描かれており、それが逆にリアルに感じる。
そしてその人たちの死体や遺された人の描写の方がずっと長くて、本当にその人はいなくなったんだと思い知らされる。遺体の描写がしっかりとしていてホラー作家としての手腕はさすがだ。

気に入った部分の引用をいくつか

「道からはずれた空き地だよ。そこにいっぱいなってたんだ。それと、みんな肉に飢えてるんだったら……ぼくはそうだけど……あそこにいろんな生き物の痕跡があったよ。尻からひり出されたものがたくさんあった」そこでローランドの顔をうかがった。「できたての……ほやほやの……クソが」かれはゆっくり言った。まるで、言葉を流暢に話せない相手に聞かせるように。  ローランドの口の端にかすかな笑みが踊った。

昼食を取る直前、一人離脱してマフィン・ボールという果実を摘みに行ったジェイク。ローランドの微笑む顔が目に浮かんでニヤニヤ。

マフィン・ボールを食べないというエディの不屈の決意は長く続かなかった。ローランド(非情な心を持った倹約家)が自分の頭陀袋に取っておいたシカの脂身でジュージュー音をたてて焼く、とてつもなく芳ばしい匂いが漂ってきたのである。

マフィン・ボールは遠慮しておくと断ったエディだが、非情な心を持った倹約家によってあっさりと決意は打ち砕かれる。非情な心を持った倹約家がめっちゃツボった。

 エディはふざけた調子で口笛を少し吹いてから言った。 
「葦毛の馬ね」
 ローランドはうなずいた。
「葦毛の馬だ」
 ふたりは一瞬、顔を見合わせると、声をあげて笑った。
エディはローランドの笑顔が好きだった。笑い声はかすれていて、ラスティーと呼ばれている大きな黒鳥の鳴き声のように耳障りだった……が、それでも好きだった。たぶんそれというのも、ローランドが声を立てて笑うことはほとんどないからである。

「狼」が乗っている馬について話し合っている時の1コマ。奴らは全員が同じ葦毛の馬に乗っており、それが何故なのかは終盤で判明する。
そして滅多に見せないローランドスマイル!一人で旅をしていた頃とはすっかり変わったローランド(いい意味で)。1巻から読んでいるとこういう関係性の変化を垣間見ることができて嬉しい。

エディはローランドのふたりの旧友のいずれとも似ていない。かれはときおり弱くて自己中心的だが、勇気の深い貯水池を持っている。ときにエディはその貯水池をこう称する。〝ハート〟。

普段はおちゃらけキャラで弱いところも見せるエディだが、やる時はちゃんとやる男。ローランドはちゃんと仲間を見ていることがよく分かる。カ・テットに入る際は真っ裸で堅気じゃない人と銃撃戦を繰り広げたりもした。詳しく知りたいなら2巻を読め。

「人は運がよかったからってバカになるもんじゃない」アイゼンハートが言った。「おれはその反対だと思う。冷静な目には物事がはっきり見える」 「そうかもね」マーガレットは言った。少年たちがまた納屋へ駆けてゆく。肩をぶつけ合い、笑いながら、はしごまで競争している。「たぶん、そうかもしれない。でも、心が訴えるときがあるわ。その叫びに耳を貸さない人は愚か者よ。そこに干草があるかないか暗くて見えなくても、ロープをつかんで飛ぶことが最善の場合もある

報復が怖くて「狼」と戦うのを反対しているアイゼンハートとその妻マーガレットの1コマ。ガンスリンガー達が「狼」に勝てる保証はどこにもないが、ともかく戦うことが大事だとローランドの代わりにアイゼンハートに話すマーガレット。先が見えなくてもやってみることが大事な時もあるということを改めて教えられた。

だが、いずれ真実を洗いざらい打ち明けられるまでにだれかを信じなければならない。だれを?スザンナはだめだ。スザンナはいままたふたりになっているし、もうひとりのスザンナは信用できない。エディもだめだ。エディは重大なことをスザンナにうっかり漏らすかもしれない。するとミーアに知られる。ジェイクもだめだ。ジェイクはベニー・スライトマンの親友になっている。またひとりになった。ローランドはこれまでにない寂しさを感じた。

「狼」を欺くため、嘘の情報を流すことを思いついたローランド。しかし「狼」に通じている者が誰か分からないため、他に信頼できる人は誰か考える。残念ながら彼のカ・テットには適任者がいない。これに気づいた彼は一人で旅をしていたころに戻ったような寂しさを感じた。一人でないことが普通になったローランドの人間らしさが表れていてすごく好き。

「スザンナはうまくやると思う。おれは新しい池を見つけて飛びこむ鳥のように新しい武器に飛びつかないガンスリンガーは見たことがない。それに一人は皿が投げられるかクロスボウを射られる人間が必要だ。おれたちには三丁の銃しかないのだから。おれは皿が気に入っている。とてもな

カーラには縁が刃になっている皿をフリスビーのように投擲する技が今も受け継がれており、その威力をまざまざと見せつけられたローランドの言葉。
諸事情によりスザンナには銃を持たせたくない彼だが「狼」と戦うにあたり戦力は必要なのだ。そして練習を積んだスザンナの皿投げは以下のように描かれる。

 スザンナは頭を上げた。納屋の壁に描かれた姿を眺めた。手は胸のあいだに置かれたままだ。そして、マーガレット・アイゼンハートがロッキング・Bの庭で叫んだように甲高く叫んだ。ローランドは自分の激しく鼓動する心臓がさらに高鳴るのを感じた。

(中略)

「リザ!」
 手が降りたと思うと、かすんで見えなくなった。ローランド、エディ、ジェイクだけに、その両手が腰のところで交差し、右手が左のポーチから、左の手が右のポーチから皿をつかみ出したのがわかった。アイゼンハートの妻は肩から投げて、威力と正確さを増すために時間を犠牲にしたが、スザンナの腕はあばら骨の下、車椅子の肘掛けの上で交差し、鎖骨の辺りで皿は傾いた弧を描き終わった。その皿が宙を飛び、それぞれが交錯して納屋の壁にドスドスと音をたてて突き刺さった。
 スザンナの腕は前面にまっすぐ投げ出された状態で投擲を終えた。一瞬、今日の出し物を紹介し終えた司会者のように見えた。腕がまた下がり、あらたに二枚の皿をつかんだ。そして腕を振って、すくい上げるように振り投げる。続けてまたもや素早く二枚の皿をつかみ、三度目の投擲を行なった。最後の二枚が上下に並んで納屋の壁に突き刺さったとき、最初の二枚はまだ震えていた。
 一瞬、ジャフォーズの家の庭を完璧な静寂が支配した。鳥もさえずっていない。八枚の皿がチョークで描かれた人型の首から腹の上の辺りまで一直線に並んで刺さっていた。すべて六センチから七センチほどの間隔をあけて並び、まるでシャツのボタンのようだ。スザンナはこの八枚の皿を三秒もかけずに投げ終えていた。

タツジン!ローランドの読み通りスザンナは見事に皿をマスターした。カーラの女性の誰よりも上手く皿を投げられるようになったスザンナ。そしてあまりの上手さにシーンとなる皿投げお披露目会場…。スザンナの技量がビンビン伝わってくるお気に入りのシーン。

「(前略) 町の人々は戦おうと思っている。またはおれたちに戦わせようと思っている。それは問題ではない。自分たちで戦えない者のために戦うのが我らの仕事だからな

ガンスリンガーとしての技術はカ・テットの仲間に教えたローランドだったが、その他のことはまだまだ教えきれていない様子。ジェイク、エディ、スザンナはカーラで過ごした日々の中でガンスリンガーはどうあるべきかを学んでいく。

ローランドは馬に拍車をあて、荒れ果てた細い道を北へ向かっていった。かれらはいつもローランドが一人で去り、自分たちだけになるときそうするように、ローランドが見えなくなるまで見送った。

ローランドを見送る3人。テットの指導者として慕われているローランドを描く。こういう細かいところもちゃんと描かれていてホントに悶える。

もしこの年老いた男がローランドを押すことに決めたら、あっというまにすべては一巻の終わりだ。しかも劇的な展開などまったくなしに。
 だが、そんなことにはならない。ローランドは思った。エディがおれの代わりに続けてくれる。そしてみな倒れるまで続けるだろう。

ダークタワーを目指す運命のもと集まったカ・テット。何が起ころうとも目的を果たしてくれると信じているローランド。ここまで読んできた思い入れもあるし誰も失いたくないとは思うけれど、これは誰かの死亡フラグなのか…?だとしたら…。

 そのときローランドが演説を始めたので、エディは全神経を集中した。尊敬のこもった全神経を。かれが育った環境にはいつも多くの噓があふれていた。自分でもたくさんの噓をついた。いくつかはまことしやかな噓だった。だがローランドが演説の聞かせどころに入ったとき、カーラ・ブリン・スタージスでの夕暮れ時前まで、自分は本当の虚言の天才と出会ったことはなかったのだと悟った。そして──
 エディはあたりを見回し、満足してうなずいた。
 だれもがローランドの一語一語を鵜吞みにしていた。

「狼」を欺くため民衆に嘘を話すローランド。エディもいい加減なことやバカなことをしょっちゅう言っているが、真打はローランドだった…!
この作戦がうまくいって、「狼」を出し抜くことに成功する。そして…。

「終わったんだ。やつはしばらくああやってわめきたてるだろうが、じきに終わる。やつを……そうだな……プランターかなんかにしていいぜ」
「床をはがしてそこに埋めようかと思うんだけど」ロザリータが便所のほうに顎をしゃくって言った。
 エディの微笑が大きくなり、歯を見せて笑った。アンディを糞の中に埋めるという考えが気に入った。とても気に入った。

おまえら本当にうんこ好きだな!!!

おわり


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集