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【連載小説】扉 vol.9 「婚約」

 国に戻ると、溢れんばかりの拍手喝采で迎え入れられる。

「ケイタ王子、万歳!」

皆が声を合わせる。

 窓という窓、通りという通りから祝福の拍手喝采が送られる。

隣国のときとは比べ物にならないほど、湧きに湧いた祝福だ。

フラワーシャワーを浴びせられる。

今後一生ないのではないかというほどの祝福だった。


 俺たちは手を振りながら王宮へと向かう。

ラクダの歩みは遅く、国民皆が俺の顔を認識するには充分な時間だった。


 王宮に入ってからも拍手喝采の渦だった。


 俺は頑張ってよかった、と、涙をこらえて謁見の間にのぞんだ。

先日帰った際は一瞬しか会えなかった王様とお妃様に、ようやく正式に調停書を渡すことができた。

調停書を見て、王様は涙を浮かべて喜んだ。

また、ノースとの戦いについてもお褒めの言葉をいただいた。

というか、褒めちぎられた。

俺たちから竜を滅ぼしたという話を聞き、たいそう驚いた。

「お前たちが無事でよかった」

そう、何度も繰り返した。


 その日の晩は疲れを癒すためにと、イベントはなにもないようにはかられた。

そんな王様の気遣いをありがたいと俺は思った。


 翌日からは宴三昧な日々だった。

宴の中心はもちろん俺。

宴、なにそれおいしいのー?なんて思っていた時期が俺にもありました……

宴には国の主要メンバーが勢揃いしている。

毎晩入れ替わり立ち替わり変わる面子をいちいち覚えていられるわけでもなく、毎日挨拶に明け暮れる。


 そんな中で忘れ去られている王子ケイタ。

処刑されないだけましだろうが、城の一番高い塔に幽閉されている。

かわいそうに思った俺は、宴の三日目、宴が始まる前に塔を訪れた。

ケイタ付きの召し使いが、慌てて俺を止める。

「塔にはいかなる人物であっても近づけないように」

と、王様の命がくだっているのだそう。

結局俺は王子ケイタに会うことは叶わなかった。


 俺の案もあり、ノースの長老も宴に呼んだ。

長老は嬉しかったらしく、何度となく俺に礼を言いに来た。

それなりに馴染んで話をしているようなので、よかったと俺は思う。


 外交官に捕まる。

長いこと国交について、自分の民族についての演説という名の自慢話をされる。

飽き飽きした俺は、

「これからの時代は多民族国家が当然になりますからね、多民族との交流がかなり重要になってくるんじゃないっすかね」

と締めくくってやった。

宴は政財界の思考がどよめいていて、好きにはなれない。

 しかし、いずれ国を継ぐとなると、彼らともうまく渡り歩かねばならないだろう。

 俺は頭痛がした。


 三日三晩の宴も終わり、ようやく俺に日常が戻ってきた。


 授業を再開する。

どの先生も、

「王子、ご立派でございました」

とテンプレートの様に言う。

帝王学の先生だけが、ノースとの戦いについて意見してくれた。

「第一軍に先陣きって戦うのは、今後お止めください。王子は部下を信用しなさすぎます。それでは付いてくる民は限られてしまいます。王子は指令塔として、後方支援をされるべきでした。」

その意見に、確かにそうかもしれない……と俺は思った。

剣の先生には、

「王子に教えることはもうなにもありません」

と、免許皆伝された。

それでも俺は満足いかず、今度は槍を習い始めた。

槍は思っているよりも重く、難しかった。



 王様から、呼び出しをくらった。なんだなんだ、と行ってみると、見合いの話だった。

先日いった隣国、カロライナの王女との見合いの話だった。

カロライナの王女……第一王女セレナとの結婚話だった。

俺は慌てた。

そもそも俺はまだ現役高校生のはずで、結婚などまだまだ先の話だ。

それを言うと、この国では基本的に16、7になると成人したとみなされ、結婚するのが当然のしきたりだと言う。

「相手に不足はないと思うのじゃが」

という王様に、返事を待ってもらうことにした。

それでも、できるだけ早く返事をしなければこちら側の失礼になってしまう。

 俺は三日三晩考えた。

シンにも相談した。

「結婚すればいいじゃないか」

シンは軽々と返事した。

「でも、一生に関わる話だから……」

と俺が言うと、

「好きな女性ができたら、後宮へあげればいいだけのことじゃないか。何を迷う必要がある?第一王女を寄越すということは、我が国に忠誠を立てることと同様なのだぞ。国交上も有効だ」

確かに、国交上の問題も解決する……

俺にはそこまで考える余裕はなかった。


 今まで16年間、女性というものを、からきし相手にしたことはなかった。

 というか相手にもされなかったのだ。

俺はいつも壁の花で……花というと語弊があるな、壁のカボチャで……みんなが仲良く話しているのを遠目で見ていることしかできなかった。


 俺は宴の晩の王女セレナを思い出す。

確かに可愛かったし、頭もよさそげだった。なにより、国民を愛することの出来る素晴らしい女性だ。

「俺なんかには、もったいない」

俺の口から、そう言葉がこぼれていた。

シンは

「そのようなことはないでしょう。竜も倒し、砂漠の呪いも解いた、立派な王子です!」

「でも、それはみんながいたからできたことであって……」

するとシンがピシャリと言った。

「王になろうという方がなんという考え違いをなさっているのですか!?私たちは、次期国王のあなた様だからこそ、力を合わせて戦ったのです。それは国民も同じ考えでしょう。それは、あなた自身の力なのです」

そういわれてハッとした。

そういえばこの国に来てから、初めて人に頼られるという経験をした。

仲間に頼りながらも、俺はその命に答えてきたじゃないか!

そう思うと、俄然やる気が起きてきた。


 王女と結婚しよう。

そして、2つの国をよりよくしていこう。


 俺の腹は決まった。


 謁見の間。

俺はセレナとの婚約を認めたことを王様に告げる。

王様は大変よろこんで、カロライナへ急便をだした。

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ちびひめ
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