
【連載小説】扉 vol.14 「ルキフェル」
「ここで逃げるやつは漢じゃねぇってことかよ……」
「し、しかし王子……相手が悪すぎでございます」
「ハリス、怪我をしたくないなら今のうちに逃げろ」
「しかし、王子を置いて逃げることなど……」
「これは緊急事態だ!お前がいては足手まといだ。行け!」
ハリスは心配そうにしながら振り返りつつ逃げ出した。
人の気配がして後ろを振り向くと、クリフ、フィーナ、シンの三人がいた。
「お前ら……」
「戦わずしてなんとやらだ!」
とクリフ。
「一人で勝てる相手じゃないわね」
とフィーナ。
「私の聖魔法がひつようでしょう」
とシン。
「ありがとう、お前ら。でも、俺はここで死ぬんだな」
「死ぬなんて言うな、生きるために戦うんだろ?」
「こうなるくらいだったら、迷わずDT捨てとくんだった」
「今さらそんなことを言っても無駄ですわよ」
「そうだよ!私たちはルキフェルを倒して凱旋するのですから」
どこの国に神殺しが成功したやつがいると言うんだ?
それを今から殺るんだよ!!
俺たちが殺るんだよ!!
俺は少しだけ勇気が湧いてきた。
シンが全員に聖魔法と速度超過の魔法をかける。
まずはその羽へ向かって弓矢を打ち込む。
しかし、何かの力によって弾かれてしまう。
仕方がないので接近する。
ルキフェルは感情がないかのように見える。
高さは約2.5メートル程もある。
今のところ、炎を吹き掛ける以外なんの攻撃もない。
俺たちは足元まで寄ると、まず足元の蛇たちを何とかしようと思い、切りかかる。
蛇の鱗は固く、なかなか歯が立たない。
俺の竜剣でならばなんとか歯が立つ。
クリフとフィーナの盾に守られつつ、少しずつ蛇を退治していく。
蛇は一匹ずつ大きく鳴き声をあげて消えて行く。
その鳴き声は雷のようでもあり、とても大きく、地響きがした。
蛇を一通りやっつけると、俺たちはルキフェルの足に切りかかった。
聖属性でならば効果があるようだ。
俺たちは口々に呪文を唱えると、一斉にルキフェルの足に切りかかった。
ルキフェルの表情は変わらない。
シンも離れた場所から聖魔法を使ってダメージを与える。
俺たちはようやく右足を切った、と思ったら、ルキフェルが何かを詠唱し、足は元に戻ってしまった。
ルキフェルは初めて俺たちに触れようと手を伸ばしてきた。
聖魔法で包まれていてなんとか助かる。
速度超過魔法が聞いているため、ルキフェルの攻撃は俺たちよりワンテンポ遅い。
シンがクリフの破られた聖魔法を掛けなおす。
俺はルキフェルを見上げて、まるで俺たちは蟻のようだなと思う。
もう一度足に攻撃をするも、またしても復活してしまう。
シンが
「魔法詠唱ができなくなる魔法をかけます。物理的攻撃が増えると思いますが、お気をつけて!」と言い、呪文の詠唱を始める。
ルキフェルはそれを阻止せんと、シンに魔法攻撃をはかる。
俺はそれを盾で止める。
ものすごい衝撃波だ。
俺の身体は吹っ飛んだ。
その中でもシンは詠唱を止めない。
炎を吹き掛けてくるが、シンはそれでも詠唱をやめなかった。
「よし、行けぇ!」
シンが叫ぶ。
どうやらルキフェルは魔法詠唱が出来なくなったらしい。
炎と手による攻撃をシンの魔法でなんとか防ぎつつ、片足をきることに成功した。
片足はキラキラ光って羽を撒き散らしながら消えてゆく。
もう片足にかかる。
度重なる炎の攻撃に盾がもうダメになりかかっていた。
そのとき、隙を狙って飛び込んできた者がいた。
ハリスだった。
「王子、これをお使いください」
それは各軍につけていた魔導師の盾だった。
「ハリス、さすがだ!」
俺たちは隙を見て盾を付け替えた。
ハリスもタイミングを見て再び逃げていった。
盾には水の属性がかけられていた。
これなら充分持ちそうだ。
シンの聖魔法攻撃がずいぶん効いてきたらしい。
あれだけ無表情だったルキフェルが苦痛の表情を浮かべている。
俺たちは次に腹を目掛けて切り込んだ。
ルキフェルは浮いていることが出来なくなったらしい。
そんなルキフェルをじわじわと蟻のように攻め続ける俺たち。
体力は限界を過ぎていた。
集中力だけでなんとかもたせている状態だ。
シンも魔力の限界に近かった。
クリフが右手、フィーナが左手、俺は心臓目掛けて攻撃した。
最期の攻撃といわんばかりに、目から光線をだすルキフェル。
もう炎を吐く気力もないらしい。
呼吸する分だけ炎を吐き出す。
遂に俺は心臓を破壊することに成功した。
ルキフェルは光と羽となって消えてゆく。
俺たちは互いに支えあいながら軍へ戻った。
四人とも傷や火傷だらけになっていた。
意識を取り戻したセレナが駆け寄る。
「王子……よくご無事で……」
「セレナか……よかった……」
その後のことは覚えていない。
起きたら見慣れた天井を見上げていた。
一週間の長きに渡って俺は気を失っていたらしい。
意識が戻ったことを知ると、真っ先にセレナがやって来た。
涙をたくさん浮かべて、
「よかった、本当によかった!もう意識がお戻りにならないかと思って心配しておりました……!!」
次に王様がやって来て、同じように涙を流しながら俺の無事を喜んだ。
「クリフ……フィーナ、シンは?」
「皆様ご無事でございます」
俺は、小さくガッツポーズをした。
いいなと思ったら応援しよう!
