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【連載小説】扉 vol.11 「アルビス」
ハイルストンから一名、馬を走らせてきた。
あの若者だ。
若者は大声で叫ぶ。
「先日の若者と勝負がしたい!よろしければ出ておいでください!!」
俺は動揺した。
先日の若者といえば俺のことに違いない。
思わず前に出かかった。
そんな俺をハリスが制す。
動揺したのは俺だけではなかった。
カロライナ側全員が動揺していた。
特に動揺がひどかったのは王女セレナだった。
俺はセレナに聞いた。
「あの若者は何者っすか?」
「あ……あれは以前カロライナにいた勇者アルビスです」
「勇者……なぜハイルストンに?」
「それが……」
王女が言葉に詰まる。
「アルビスは王女セレナ様との婚姻を望んでおられた」
側近が言う。
「それが叶わぬとわかって国を飛び出したのです」
「なんと……」
シンが口からもらした。
「しかし、どこへ行ったかは我々にはわかりませんでした……まさかハイルストンにいるとは……」
「ってことは国内の情報がアルビスから漏れていた……」
「そういうことになりますね」
王女セレナは頷いた。
「だからこそ、守りの薄い北方から攻めてきたのでしょう」
アルビスは尚も叫ぶ。
「先日の若者を出すのだ!!早く!」
俺は腹を決めた。
「俺が行く」
ハリスとシンは反対した。
「行ったからといってもこちらにはなんの利もないのです!」
しかし俺は言った。
「俺は裏切り者は許せない」
「しかし……」
「しかしもくそもあるか!結婚を断られたくらいで国をまるごと潰そうとする、その根性が気に入らねえ!」
俺はもう止まらなかった。
「こっちだ!アルビス!」
「お前を倒すにあたって、まず名前を聞いておこう」
「俺はミストリアの王子、ケイタだ!」
「なに?!ミストリアの王子だと?それはちょうどいい……カロライナの次にお前の国を侵略してやろうと思っていたところだ」
「来い!卑怯もの!!」
「うぉぉぉお」
剣がぶつかりあう度に火花が散る。
「お前のような卑怯ものはこの地に必要ない!」
アルビスの速い攻撃をかわしつつこちらも攻撃をする。
さすが勇者だ。攻撃の速さも重さもとてつもない。
先日よりも速さが増している気がするのは、今日は完全に一対一だからだろうか?
今日は俺の剣を恐れてか、大振りをしてこない。
手の内を読まれたか……
しかし、大振りしてこない分攻撃も易いものが多い。
これはこれでこちらが有利とも言える。
小手先勝負のようになるアルビス。
しかし、その剣は重たい。
受けるので精一杯になりそうだ。
俺は攻撃を受けながらタイミングを待った。
必ずなにかあるはずだ……!
ふと気づく。
アルビスの攻撃にはリズムがあった。
ということは、そのリズムをこちらがずらしてしまえばいい。
いち、に、さん……
俺はリズムを数えた。
いち、に、さん……
まだまだ……
火花が散る。
いち、に……今だ!
俺の攻撃を受けたアルビスがリズムを崩す。
その瞬間を待っていた。腹に切り込む。
胴鎧の音が鳴り響く。
まだまだだ!!
体制を崩したアルビスの手を狙う。
しかし、決まらなかった。
決まらなかったまでも、攻防は一気に俺が優位に立った。
俺の剣をかわしていくアルビス。
とうとう大振りの剣を使い出す。
もう、やけになったかのような剣使いだ。
アルビスの防御は下がった。
アルビスが大振りに手をあげる。
俺はまた手首めがけて切り込む。
今度は決まった!
利き手を攻撃されたアルビスにもはや勝利はなかった。
「ぐっ……王子ごときに俺が負けるとは……」
「俺には守るべきものがあるからな」
俺は合図をすると、アルビスを連行した。
ハイルストンもアルビスなしでは戦はできぬと、国境の兵を引いた。
アルビスの処刑は大々的に行われた。
俺はそういうのは嫌だと言ったのだが、聞き入れてもらえず、張り付けになった。
張り付けになったアルビスに、俺は問う。
「なぜこんなことをしたんだ?」
アルビスは言った。
「ハイルストンはカロライナを以前から侵略したがっていた……侵略が完了した際には俺は報酬として、王女セレナをもらえることになっていた……」
「だからといって、真に受けて侵略などするべきではなかっただろう?」
「俺は姫が手に入るなら、なんでも、どうなってもよかった……」涙をこぼして言った。
「どうなってもよかったんだ……ただ、一目でも姫にお会いできれば……」
そこまで言ったときに、周りがざわついた。
王女セレナがやって来たのだ。
「アルビス……お前にはすまないことをした」
「ひ、姫……」
「しかし、自らがした罪の重さはわかっていような?」
「はい……」
「今から断首刑を執行する。」
アルビスは、俺に言った。
「最期に姫に会えたんだ、もう悔いはない……」
「姫様は、断首刑などご覧になられてはなりませぬ、ささ、こちらへ」
兵士がいうが、王女は聞かなかった。
「此度の件には私も大きく関わっています。私は最期を見届ける義務があります」
セレナが俺の隣に来る。
手が微かに震えているのがわかる。
俺はその手をぎゅっと握りしめた。
処刑は行われた。
宴はまだ続いていた。
馬鹿馬鹿しい。
俺はいつもテラスにいた。
セレナがやってくる。
またお決まりの会話か……
「こんばんは。またこちらにいらっしゃるんですのね」
「あぁ、俺には宴は向いていないらしい」
「……アルビスのこと、私は決して忘れないようにします」
「そう……か、そうだな」
俺は星空を見上げて言った。
「あれが彼なりの愛しかただったんだな」
星が一つ、流れた。
俺と我が兵士が引き上げる日になった。
俺たちはまた祝福を受けながら帰国した。
帰国先でも歓迎を受けた。
小さな娘が花束を持ってやって来た。
それを制止する兵士に、よいのだと合図をすると、花束を受け取った。
小さな娘は満足そうに、両親のところへ帰っていった。
「王子ケイタ、万歳!」
その声はいつまでも鳴り響いたのだった。
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