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【連載小説】扉 vol.6 「竜」
「竜というからには空を飛べるんですよね?」
「あぁ、生き残った人の話によるとそうらしい」
地対空の戦い、不利なのは目に見えている。
俺たちは再び焚き火を囲んでいた。
「あと三日……あと三日で着かなければならない」
「もし、竜に遭わなければ余裕ですか?」
俺は尋ねた。
「そうだな、二日間で着くだろう」
「もし竜にあったら……」
「たとえ倒したとしても、誰かが負傷すれば遅れをとる」
クリフはため息まじりに笑った。
「運がいいのを願うばかりだな。」
今日の焚き火の番は、シンとだった。
普段寡黙なシンが珍しく話しかけてきた。
「俺の師匠は、竜に負けて死んだ」
「そうなのか?」
「命からがら逃げ出して、街に着いたときには虫の息だった」
シンは枯れ枝を放り込みながら続けた。
「それでも師匠は俺に竜退治のヒントを与えた。そして亡くなった。」
「ヒントって……」
「それで倒せるかはわからない。それでも我が師匠の意思を俺は継ぎたいと思っている」
「そうか……そんな事情があるんだな……」
俺は俯いて答えた。
「ところで、ヒントとは?」
「竜の目を塞ぐ」
「え……?」
「竜は目が見えなくなると飛べなくなるらしいんだ。私の魔法で目を塞ぐから、その隙に攻撃をする」
「なるほど、飛ぶ能力を防げば少しは攻撃もできるな」
「それか、私が目を塞いでいる間に逃げるか」
「そんな!?そんなことは出来ない!置いていくなんて、そんなことは……」
「でも、それが一番の近道です。私も覚悟は決めています」
「そんなことは絶対にさせない!!」
「王子もそろそろ覚悟を決めてください。私か国か、どちらかを選ばねばならぬならば……お分かりですね?」
「どちらか選ぶなんてことは俺には出来ない!絶対に竜を倒す!」
俺は火の番を代わってもらってからも、なかなか眠ることが出来なかった。
翌日。
ついに竜のいるエリアに入る。
出来るだけ竜に接触しないように、音や声を立てずに進行する。
竜は光にも敏感なため、今日は寝ずに走り続けることにした。
慎重に駆けていく。
遠くに竜の姿を発見した。
とても巨大な竜だった。
見回りをしているらしく、キョロキョロと見渡しながら飛んでいる。
俺たちは見つからないように行路を急いだ。
が、急いだ故にラクダを急かしすぎて、ラクダが鳴き声を出してしまった。
竜にその姿を見つけられてしまう。
竜はゆったりと空を走り抜けてくる。
しかし、その速さは尋常ではない。
あっという間に追い付かれ、対峙することとなる俺たち。
威嚇し吠えつつ近づいてくる竜。
対峙距離が近い。
竜の吐く炎が熱い。
シンが呪文を詠唱する。
竜の目の前に霧がかかり、竜は空から降りてきた。
俺たちは剣を構えると立ち向かった。
しかし、竜のうろこは固く、歯が立たない。
クリフの剛剣をもってしても、跳ね返されてしまう。
フィーナも攻撃するが、全く歯が立たない。
シンが
「今のうちに逃げてください!早く!」
と叫んだ。
俺は
「そんなことはできない!」
と叫ぶ。
クリフが叫ぶ
「王子!シンの力を無駄にしないためにも早くお逃げください!」
俺は言った。
「仲間を見捨てるやつに国が治められるか!!」
「しかし……」
フィーナも逃げる方を選んでいた。
「今ここで戦わなければ、帰り道も同じ目に遭う!そのときにシンがいなければ!」
「!!」
クリフもフィーナも理解したようで、竜に対峙し直す。
「腹がわの柔らかいところに集中攻撃だ!」
「御意!」
「シン、あとどのくらい持つ?」
「まだまだいけます!」
シンが竜の吐く炎を氷に変える。
竜の腹がわはうろこがなく、比較的柔らかい。
俺たちは三人同じところを狙って攻撃した。
やがて、竜の腹に傷が入り、竜は痛みで蠢(うごめ)いた。
さらにその傷を広げていく。
シンが、
「そろそろ限界です!」
と叫んだ時には、竜の腹にぽっかり穴があいていた。
飛ぼうとするが、飛ぶ力を失っているようだ。
シンが新たに詠唱を始める。
雷属性の詠唱だ。
俺の剣にそれを託すと、
「王子、お願いします!」
と叫んだ。
俺は傷口から、一気に腹まで剣でぶった切った。
力なく倒れ込む竜。
吐き出す息も炎ではなくなっていた。
倒れた竜を後に、俺たちは行路を急いだ。
幸いなことに、負傷者はシン一人だった。
道を急ぎながら俺は
「シン、ごめんよ……」
と涙をこぼした。
シンは
「王子のお役に立てて光栄です」
と言った。
「ここを抜けたので、あと一日程度で隣国へつくかと思います」
いつの間にかすでに砂漠を出ていた。
「今日は疲れた! この辺で休んでから行こう。シンの傷にも響く」
シンの傷はほとんどが火傷だった。
致命傷になるほどの火傷ではなかったが、第一線で戦った、男の証だった。
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