【映画感想文】観了『余命10年』(ネタバレあり)
ありきたりな設定だと感じていました。
難病モノの恋愛作品は、どれもどこか似ていて、お涙頂戴を目的とした美談化された印象が強いものが多いと感じていました。
美談化された話はどこか創り手の意図が透けて見えるようで、時には嫌な感情を抱くこともあります。
しかし、この作品にはそのいやらしさがありませんでした。
✄- – – – – – ネタバレあり – – – – – ✄
難病を演じる時、その人物を主人公にする時、通常はその人をまっさらで純真な人物に描きがちです。しかし、生と死の間に立った時、人はそんなに真っ白なままでいられるでしょうか?
「なぜ私が」
「なぜ今なのか」
そんな葛藤を繰り返すのが本来の姿ではないでしょうか。本作はそうした患者の心模様をよく描いていたと思います。
映画を見終えてから知ったのですが、本作の原作は、大学を卒業後、難病と闘いながら書き上げられたものであり、作者はその後に亡くなられたのだそうです。これは、死にゆく者のリアルなのです。
そのリアルを、どこか透明水彩のような美しさで表現できたのは、やはり小松菜奈さんが主人公だったからかもしれません。決して暗く沈んだ世界ではなく、希望を持ちながらもどこか投げやりになる気持ちを、彼女はとても美しく表現されていました。
作品中、主人公が泣くシーンは少ないです。それ故に、涙がこぼれるシーンはとても儚く美しく表現されていました。
「生きたい」
「あなたと生きたい」
相手を大切に思うあまり突き放すシーンすら美しかったです。ネガティブな感情も描ききった作品だと思いました。
難病の恋愛モノという設定から、美談にしがちで忘れられがちなネガティブな感情。揺れ動く心。
花吹雪のように、しとしとと降る雨のように、この作品を見終えたあとにはどこか悲しいけれど爽やかな風が舞うような気がしました。丁寧に描かれた感情は、見終えたあとも心にしっかりと刻まれたのです。