![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/168555996/rectangle_large_type_2_32139b60cbf53ff49f19b0e56afe8dde.png?width=1200)
【連載小説】扉 vol.7 「隣国」
隣国へ着くと、まず門番への説明からせねばならなかった。
隣国とは砂漠に隔てられ、ほとんど連絡は取れていなかったので、当然のことだった。
門番は事情を聞くと、まず門の入り口にある部屋へ通した。
上官に話が通るまでここにいろということらしい。
俺は、怪我人がいるので出来るだけ早く入れてくれと頼み込んだ。
すぐに上官がやってきて言った。
「これは、王子ケイタ殿、お久しゅうございます」
こいつら、前の王子を知っているのか……やっかいだな。
俺はそう思った。
国交が全くないわけではない。
しかし、昔の王子の知り合いなど、俺が知るよしもない。
「ただいま国王に報告が行っていますゆえ、あとしばらくお待ちいただくかと……怪我人がおいでとのことですが、その方の手当てをしたいと存じます。どちらの方でしょうか?」
俺はシンを指し示した。
「では、まず怪我人の方だけお先に介抱させていただきます」
上官はシンをラクダに乗せると、病院へと去っていった。
俺たちはかなり長いこと待たされた。
クリフが門番に怒鳴り散らすのもわかる気がした。
怒鳴り散らすクリフをなだめながら、俺たちは待ち続けた。
フィーナもさすがに不安になってきたのか、辺りをキョロキョロし始めた。
クリフがもう一度門番に食って掛かろうかというときに、やっと使いの者がやって来た。
「誠にお待たせいたしました。王宮へご案内いたします。さ、さ、どうぞ」
俺たちはまたラクダに股がると、ゆっくり王宮への道を歩んだ。
まるで凱旋パレードだ。
国民たちの歓迎のすごさと言ったら!
まるで自分の国に帰ってきたような気分になる。
「このせいで案内に時間がかかったのだな」
クリフは言う。
フィーナも、
「これほどの歓迎で迎えられるとは思ってもみませんでした」
俺はただただ、圧倒されるばかりだった。
王宮へ着くと、まずボディチェックをされた。
剣は
「大切にお預かりしますから、大丈夫でございますよ」
と言われ、しぶしぶ手放した。
謁見の間に通される。
母国よりも地味で、広さもさほどではない。
しかし、そこに現れた国王には貫禄があり、お妃にも威厳があった。
「此度の来国、嬉しく思います」
王が話始めた。
「聞けば、あの竜を倒して来られたとのこと。お互いの国交上非常に大切なお役目、ご苦労であった。調印式は明日執り行う故、今日は旅の疲れを癒してくだされ。別室に宴の用意をさせていただきました。存分に楽しまれるがよい」
宴と聞いてクリフがにやっとした。
宴は素晴らしいものだった。
踊り子が舞い、音楽が奏でられ、食べきれないほどの食べ物がでてきた。
お酒を注ごうとされ、俺は断った。
まだ未成年だからね!
しかし、この国には成人制度がないらしく、結局飲まされた俺。
案外うまいことに気づいた俺は何杯でもおかわりした。
なんだ、お酒強いんじゃん、俺!
−−気がつくと、てんがいつきベッドに横になっていた。
大きな葉っぱをうちわに、俺をあおいでいる侍女に尋ねた。
「俺はいつの間にここに?」
侍女は答えた。
「あまりお飲みになるので、最後は兵士たちがかかえてお戻りになったんですわ」
くすくすと彼女は笑う。
俺はばつが悪くなって、テラスへと出た。
テラスには涼しい風が吹いていた。
翌日。
調印式が始まる。
王子として、王の代理人としての初めての仕事だ。
先に国王がサインすると、俺は慣れない羽ペンで不格好なサインをした。
こんなことならサイン練習しておけばよかった……
実は、中学二年生の頃に、サインの練習をしたことがあった。
うまく書けずすぐにやめてしまったのだが。
調停書を議長がたかだかと掲げる。
あとはこの調停書を我が国に届けるのが俺の仕事だ。
俺は荷物の一番下に調停書をいれた。
そうして今日も宴が設けられた。
皆が口々にする。
「あの竜を倒したってさ!」
「本当に?! すごい!」
「あの若さで……」
「次期国王だからな」
何人もの人から話しかけられる。
「竜を倒したそうですね!」
「はい……一応……」
「手応えはいかがでしたか?」
「かなり手強かったです」
同じ会話を何回も繰り返すうちに嫌気がさしてきた。
お酒もそこそこに酔いが回ってきた。
俺はテラスに出た。
するとそこには少女の姿があった。
「隣……失礼してもいいっすか?」
「よくってよ、どうぞ」
俺は少女をまじまじと見直した。
俺より一回り小さなその少女は、白を基調としたドレスにピンクのリボンをつけた、かわいらしい子だ。
年齢は俺より少し下かな?という感じ。
「あなたね、隣国の王子ケイタというのは」
意外に積極的に話しかけてくる。
「竜を倒したんですって?」
またその話か……
「私もご一緒したかったですわ」
「え?」
「私、剣の道はまだまだですけれど、いつかあなたのように人に役立つ剣をふるいたいものです」
「剣……訓練中なのですか?」
少女は、ふふ、と笑うと
「まだまだ駆け出しですけどもね」
と答えた。
「なぜ剣の練習など……そんなに小さいのに」
俺の口から本音がついて出た。
「一国の王女ですもの、当然ですわ」
「え……ということは、あなたはこの国の……?」
「そう、この国の第一王女セレナです。」
王女様ーー?!
「こ、これは失礼しました!」
横に立っていたが、少し身を引く。
「失礼だなんて、そんなことないですわ。あなただって王子なんですもの」
そ、そうだった……俺は王子なんだった……
「でも、姫様のような方が竜退治など、するようなことではないっすよ」
「そうかもしれない。けれど民を守るのが王家の務め。ならば、守るために戦うのが私の務め」
王女は真っ直ぐな眼差しで言った。
俺はその眼差しに圧倒されていると、王女は
「では、ごゆっくり、王子」
と言い残して立ち去った。
「務め……か……」
俺は一人で呟いた。
宴は三日間続いた。
三日目、俺はなにをするでもなくテラスにいた。
その方が人から話しかけづらいからだ。
元々俺は話上手な方ではなく、むしろ話下手だった。
いつもクラスでは誰と友達にもなれず、たいていは一人でいた。
体育のときも、誰かと組まねばならないときはいつもあぶれた。
教師が答えを尋ねるときも、俺はいつもすぐには答えられずに黙っていた。
その俺が、今ではこの輪の中心にいる。
なんとも言い難い、不思議な気持ちだった。
テラスにいると、退院したシンがやって来た。
「英雄様がこんなところで何をなさっているのですか?」
すこし挑発するように言ってくるシン。
俺は小声で、
「別に……」
と返事をする。
「シンこそ身体はもう大丈夫なのか?」
「おかげさまで、私はもう大丈夫です。しかし、なぜこんなところにいるのですか?あなたと話したいという相手はいくらでもいるというのに」
「だからここにいるんだよ」
「王子ともあろう方が国交を無視されるなんて、いけません」
「……」
「さ、お戻りください」
俺は結局シンの言葉通りにするほかなかった。
翌日。
俺たちは出立することにした。
いいなと思ったら応援しよう!
![ちびひめ](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/90725068/profile_2ef51c688649827a204c33fd7dc03811.jpg?width=600&crop=1:1,smart)