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【連載小説】扉 vol.13 「魔族」
「全軍、前へ!」
軍が動き始める。
第一軍はクリフ、第二軍は俺、第三軍はフィーナが率いる。
総勢三百名の軍隊だ。
軍を進めること四日。
軍は途中、カロライナの兵二百名と合流した。
カロライナ兵は俺の第二軍の直属兵として受け入れた。
これで総勢五百名の兵士を動かすことになる。
軍はハイルストンに沿って北上する。
ハイルストン周辺はものものしい雰囲気に包まれた。
先にハイルストンへは目的地について書いた文を持った使者を出しており、戦闘になる恐れは全くなかった。
それでも雰囲気はものものしく、ハイルストンにはわずかながら緊張が走るように見えた。
目的地は、斥候が伝えてきた情報によると、かなり北上するらしい。
本当はハイルストンで食糧などを補給できたらよかったのだが、今はそんなことが出来る状況ではない。
まだ戦闘が終了して、わずかしか経っていないのだ。
しかたなくカロライナで食糧や馬を追加する。
目的地はハイルストンの東北だ。
ハイルストンを越えてやく三日ほど馬を走らせたところにあるようだ。
そこにはかつて栄えた王国バンフがあったらしい。
歴史の授業で習った覚えがある。
今は廃墟と化したその城に魔族は居座っているらしい。
俺の率いる第二軍は総勢三百人となり、一番後方からの出陣となる。
第一軍がハイルストンを過ぎた頃、俺はまだハイルストンの入り口辺りににいた。
早く走っていきたいのはやまやまだが、総勢三百名を抱えている今、それは出来ない相談という訳だ。
先に目的地へ着いた最前線から報告が入る。
王女セレナはまだ生存している様子だという。
俺は最前線へ、そのまま待機の命令を出す。
それと同時に自分たちの歩みも早めた。
三泊くらいした後、いよいよ目的地に着いた。
セレナは敵地の前方に見せ物のように繋がれていた。
充分な食糧もないのだろう、痩せほそっている。
斥候軍を出す。
やはり相手は魔族のようだ。
黒い身体に羽を四枚ずつつけて飛び回っている。
無惨にも斥候軍は魔族の餌食となってしまう。
しかし、このおかげで、魔族の人数が少ない様子であることがわかった。
俺は懸命に考えた。
敵の数が少ないならば……
ハリスにも相談し、一対多勢攻撃をすることになった。
各軍につけた魔導師も一緒に攻撃を仕掛ける。
第一軍の魔導師が雷を落として戦は始まった。
魔族は不意討ちをかけられた状態となり、巣穴から出てくる蜂のように、約二十名ほど出てきた。
空を飛ばれるとやっかいなので、弓矢などで羽を狙い撃ちさせる。
羽をもがれた魔族は地を這う。
そこへ魔導師の魔法を使い、身動きさせないようにしてしまう。
あとは多勢に無勢とはこのことだ。
滅多うちしてしまう。
呆気ないやられ方をする。
見ているこちらが可哀想になる位だ。
セレナを繋いだ鎖がなかなか切れないらしい。
しびれを切らした俺が駆けつける。
後でまたハリスに叱られそうだと思いつつ、駆け寄る。
セレナは俺に気づいたらしく、何かを言おうとするも、気を失ってしまう。
俺はセレナを繋いでいた鎖を断ち切った。
実はこの剣、前に行った竜退治の時の竜の角から作られた特別な剣で、軽く、しかし鎧くらいなら平気で断ち切ってしまうほど強かった。
セレナを救出すると、すぐに後方の衛生部へと運ぶ。
これまでは順調だった。
が、しかし、俺たちはとんでもない化け物に遭遇することとなった。
セレナを救出した後のことだ。
突然大地は揺れだし、轟音と共にそれは現れた。
『それ』は美しい人の姿をしており、その背中には12枚の羽があった。
その口からは炎が出て、足元には蛇を連れていた。
「る……ルキフェル……」
俺の口からその名がこぼれでる。
兵たちは一気に逃げ始める。
まるで蜘蛛の子を散らすようだ。
ルキフェルは何も言わなかった。
ただ、炎を俺たちに吹き掛けてくるだけ。
あとは微動にもしなかった。
俺は、
「逃げたほうが勝ちだ……そうだよな」
と言って、急ぎ司令塔に戻って叫んだ!
「全軍、後退!」
ハリスが真っ青な顔で言う。
「王子、あれは……」
「言うな、今は逃げることだけ考えろ」
全軍が撤退したことを確認すると、俺たちも逃げようと、そう考えた。
「逃がしてくれないようだな」
俺は苦笑いをして言った。
俺は、ここで死んじゃうの?ゲームオーバーなの?
そんなことを呑気に考えつつ、ルキフェルの方へ向きなおした。
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