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【連載小説】扉 vol.8 「ノース」

 俺たちの希望もあって、出立は厳かに行われた。


 ラクダにはまた10日分の食料を乗せ、俺たちは出立した。

王女セレナもその様子を見守る。


 国王が、

「道中、気をつけて」

と声をかける。

「はい!」

俺たちは返事をすると旅立った。



 帰り道は行きに来た道をそのまま引き返すことにした。

行きに来た場所で一泊する。

まだ焚き火のあとが残っている。

そこで火を起こすと、俺たちは干し肉を食べた。

今日は先に俺とシンが寝ることにした。

シンは治ったとはいえ、完全とは言えない傷を負っていた。


 クリフがフィーナに話す。

「王子ってのは座ってりゃいいもんだと、俺はてっきり、そう思っていたぜ」

「私も、ここまで危険な旅を王子がするなんて思ってもみませんでした」

「無事で何よりだな……」

「そうね……こうして星空を眺められるのも、王子のおかげもあるのよね……」

二人は小さく乾杯をすると、水筒に入った酒を飲んだ。

「明日からまた敵がいるエリアだからね……今日くらいはゆっくり飲みたいもんだ」

クリフは人のいい笑顔をフィーナに向けた。

フィーナも

「そうね」

と笑顔で言いながら酒を飲んだ。



 翌日からは、またモンスターの出る砂漠だった。

竜を倒した残骸があった。

そこでクリフは剣をぬくと、竜の角の根元に刃を立てた。

「こいつで作る剣は最強だと聞いたことがある。持って帰るから手伝ってくれ」

俺たちはそれぞれ、フィーナは角を、俺とシンは牙を削り出すことに成功した。

手にするとかなり軽い。

こんなものが本当に武器になるのか?

半信半疑だったが、とりあえずラクダに積んでまた歩き出した。


 行きと違うのは、俺たちは竜を倒したという自信。

それだけでもずいぶん世界は違って見えた。


 俺は更に経験を得るため、モンスターは全て俺が倒すと決めていた。

もちろん魔法でしか倒せない相手はシンに任せた。


 ここいらで俺に敵う敵はいなくなったようだ。

俺は余裕の表情を浮かべた。


 今夜の火の番は俺とクリフだった。

クリフはいつも面白い旅の話をしてくれて、俺の旅の楽しみでもあった。

クリフが言う。

「この辺りのモンスターは、王子には敵わない。しかし、世の中は広いもんで、ただのオークでもオークキング並みに強いやつもいる。戦闘はいつ何時たりとも、油断したほうが負けだ」

「そんなものもいるんすね……最近はなんだか自分が最強になったかと錯覚することが多くて……」

「そういうときこそ油断大敵だ。事故ってのはそういうときに起こるからな」

そんな俺たちは、俺たちを見つめる影の存在に気づくことはできていない。

そのまま火の番を交代してもらい、眠りに着いた。



 そうこうしているうちに、あと一日で我が国へ帰還という位置まで来た。

火の番は俺とフィーナだった。

「なぁ、フィーナ、俺は少しは強くなれたのかな? 本音を聞きたい」

「王子、正直に、王子はお強くなられたと思います。早く国王陛下にそのことをお伝えしたいほどです」

そのとき、がさっ、ずりーっと、何者かが砂を滑る音がした。

「何奴!」

フィーナと俺は剣を構える。

モンスターであれば、基本的に火の側には近寄らないはずだ。

松明を持って音のした地点に近づくと、なにやら小さな人間と思わしきものが駆けて逃げてゆくところだった。

「ちっ、逃したか……」

フィーナが戻ってくる。

「今まで見たことのない……モンスター?人間?どちらかわからないものでした」

フィーナから報告を受ける。

俺は

「油断大敵……か……」

と呟いた。


 翌朝。

俺たちは人間ともモンスターともとれないものに、遠巻きに囲まれていた。

威嚇の声をあげる謎の生物。

しかし、それで我々と意志疎通ができることがわかってしまう。

つまりは、同じ言語で話す人間だということだ。

「俺たちは敵じゃない」

俺が声を張り上げるも、

「竜を殺したのはお前らだ!」

「極刑にすべきだ!」

「我々は戦うぞ!」

彼らの怒りは収まりそうにない。

しかし、すごい人数だ。

これは俺たちで相手出来る人数じゃない。

俺は合図をすると、俺たちは国の入り口まで駆けていく。

途中遅い来るやつらを蹴散らして走った。

門が見えた。

助かった。

門番が門を開く。

俺たちは国に帰ってきた。

俺たちに気づいた国民が、歓喜の声をあげる。

やがて、唸るように歓喜の声は広がっていった。



 王宮、謁見の間。

「よくぞ帰ってきた!さすが私の息子だ」

王様が言う。

「しかも、竜退治をしたとな!素晴らしい!そなたたちには後程勲章を与えて遣わす」

しかし、俺たちは焦っていた。


 それは先ほどの人間たちのことだ。

王様に報告すると、王様は言った。

「それは闇の使いの末裔ではないだろうか」

「闇の末裔?」

「うむ、20年も昔、その砂漠を作った一族の末裔ではなかろうか」

そして言った。

「我が国はこれより戦闘体制に入る。狙うは闇の末裔じゃ!」

俺は言う。

「話し合って解決という道はないのか?」

「昔、我が国は広い国土を誇るこの辺りでは一番の国じゃった。それを、あやつらは突然現れて、国土を砂漠にしたばかりか、モンスターまで連れてきおった。全滅させるべきじゃ」

「だから、その砂漠のことも話し合って……」

「だめじゃ」

「じゃあ俺が先頭部隊を率います」

「だめじゃ、いくらなんでも危険すぎる」

「国の命に関わることは、俺が守りたいんです!」

「う、うーむ」

「では、俺が先頭部隊を率いますね」

「決して無茶はしないと約束してくれるか?」

「はい、もちろんです」


 という訳で俺は先頭部隊を任された。

先頭部隊に命じたことは一つ、

『話し合いによる解決を望むこと』

兵士たちはざわめいたが、主旨を理解してくれた。



 編隊をくんで、門から飛び出していく。

俺は最も後方に位置した。

最初に着いた兵士たちが、砂漠に潜む者たちに説得を開始する。

それは、この砂漠を元に戻すこと、そしてモンスターどもを追い払うこと。

砂漠の民たちは、それは出来ない相談だとばかり、弓矢を放ってくる。

「あの者たちに説得はむだなようです」

「うむ、仕方ないな」



 「第一軍、前へ!!敵の弓矢隊にこちらの弓矢をたっぷりと浴びせろ!」

勢いと人数ならこちらの余裕勝ちだった。


 しかし、俺としては怪我人をあまり出したくはなかった。

相手の弓矢が滞ってきたタイミングで騎馬隊を出陣させる。



 そのときだ。

援軍のようにモンスターたちがやって来たのは。

第一軍の馬脚が乱れる。

「一時撤退!!」

撤退後の人数は3分の2になっていた。

「やつら、モンスターを操れるらしい」

第二軍を率いるクリフに言う。

クリフは、

「剣の腕に自信があるものは残れ」

と第二軍に呼び掛ける。

俺も同じように第一軍に呼び掛ける。

すると、第一軍には五人、第二軍には四人の兵士たちが残った。

「我々があのモンスター群を蹴散らす。その隙に騎馬隊が進むんだ!」

俺は雄叫びをあげてモンスターの巣窟へと飛び込んでいった。

後に残された剣に自信のある兵士も遅れて飛び込んだ。

フィーナとシンも、後から加わった。

負傷者を出しながらも、モンスターの数は激減していった。

騎馬隊が乱入してくる。

もはや敵は烏合の衆だった。

俺は戦いながら、指示塔である老人を見逃さなかった。

戦いながら、指示塔へ近づく。

「やめーっ!! このじいさん怪我させたくなければ、やめーっ!」

俺の叫びに、戦っていたものたちが次々と武器をすてた。

「じっさま……」

「じさま……」

じいさんが叫んだ。

「わしらの負けじゃ! 全面降伏する!」



 じいさんは、長老だった。

「まず、砂漠を元にもどしてください」

紫だった空が青くなっていく。

「これで呪いは解いた。あとは自力で戻るじゃろう」

「モンスターを追い出すのは?」

「それは不可能じゃ。これ以上増やさぬことと、人を襲わなくすることについては、やろう」

「しかし、なぜこんなことを……」

「わしらは元々北方うまれじゃ。だがしかし、ある国がわしらの国を滅ぼした。わしは助けれる民と、なついていたモンスターだけを連れてこの地に来た。侵略するつもりはなかったが、結局結果そうなってしまったことはお詫びする」

長老はしっかりした声で言った。

「我らノース一族、死に絶えるまでそなたに忠誠を尽くす」


 こうして戦いは終わったのだった。

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ちびひめ
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