オペレーションの現場でも「心理的安全性」は大事
このところ注目度の高まっている「心理的安全性」。
元々は、Googleの「プロジェクト・アリストテレス」における「生産性の高いチームとは?」の分析の結果から着目された概念ではありますが、それがオペレーション実務を担う「事務現場」でもとても大切、という話です。
心理的安全性とは
「心理的安全性(psychological safety)」は心理学の専門用語だそうですが、
自分の言動への、他者からの反応に怯えたり羞恥心を感じることなく、あるいは他者に与える影響を強く意識することなく、感じたままの想いを素直に伝えることのできる、自然体の自分をさらけ出すことのできる環境や雰囲気
といったことを指します。
こんなことを言ったらチームメイトから馬鹿にされないだろうか」、「リーダーから叱られないだろうか」、「無知だ(Ignorant)」「無能だ(Incompetent)」「邪魔をしている(Intrusive)」「ネガティブな(人間)だ(Negative)」などと思われないだろうか、といった不安を、チームのメンバーから払拭することです。
このような環境・雰囲気を実現することにより、チームメンバーが自分自身をさらけ出し、忌憚なく自由に、過度に周囲に遠慮をすることなく発言したり、リスクを冒して挑戦することにより、各自が個性を発揮して最高のパフォーマンスを実現できるようになり、結果として強いチームができます。
確かにそうだよな、と思い当たる方も多いかと思いますが、
この「心理的安全性」は、Googleのような企画・開発系プロジェクトを担うチームの多い組織、企画・開発系の部署だけでなく、
オペレーション実務を担う組織、運営・運用系の部署でも重要です。
オペレーション現場での心理的安全性
では、オペレーション実務を担う組織、運営・運用系の部署において、心理的安全性はどんなメリットがあるのでしょうか。
実務に集中できる
安定してミスの少ない、また迅速な事務処理・オペレーション運営のできる組織とするためには、手元の事務作業、入力している元資料とPC画面に集中し、過度に緊張することなく、気が散ることもなく、適切なレベルの注意力をもって処理できる、
そういう環境を構築すること、これが一番重要です。
そのためには、
物理的に静かで快適な(騒音のない、適切な温度・湿度、きれいな空気など)環境も不可欠ですが、加えて、心理的にも安定的に仕事に向かえる環境も大事です。
「隣の人が私のことを嫌がっているのではないか、怒っているのではないか」
「後で、あの人にあれを頼まなければならないけど、こんなこともできないの、と言われないか憂鬱」
「またあそこで諍いや言い争いがおこっている」
など、色々と気になっていては集中できません。
心理的安全性、ということの示す範囲について、やや拡張解釈もあるかもしれませんが、「自分の言動への他者のレスポンスに過度に敏感にならず、自分の仕事に自然体で集中できる」
という環境は、オペレーションの安定運営の観点からも大切なのです。
改善提案
Googleで注目されたように、企画・開発系プロジェクトや部署での、様々な新たな提案やブレスト、アイディア出しにおいて、心理的安全性が重要なのはいうまでもありません。
これは、オペレーション部署でも、処理プロセスの効率化や運営のレベルアップなど、改善に向けた提案をするような場面では全く一緒ですね。
「こんなことを言ったらバカだと思われるのでは?」「いつも何か言うと否定される」などと心配するような状態では、画期的なアイディアが出てくるはずはありませんし、各メンバーの潜在力・ポテンシャルをフルに発揮できません。
そのメンバー・チームにおける、最高のアイディア・提案を引き出していくためには、「Yes, and」で進めていける環境が大事です。
新人の業務習得
各自の素養・理解力などのレベルにもよりますが、新人が新しい仕事を覚える場合、それが比較的定型的なオペレーションであったも、同じことでも一発で完璧に理解することはなかなか難しいですね。
また、一つ一つの独立したタスクは覚えても、その一つ一つのタスクの全体のフローにおける意味合い・位置づけなどまで把握するのも、即時にはいかないことが多いです。
そういうなかで、
「前にもいったでしょ」「まだこんなこともできないの」などと言われたりすることが気になって、よく分かっていないこと、パーフェクトに理解できていないこと、について、率直に周囲に聞けない状態は良くありません。
確実な習得が進まない、習得のスピードが遅くなる、全体像の理解ができない、などのスキル・知識習得へのマイナスに加えて、
いわゆる「だろう処理」(これでいい「だろう」、多分こう「だろう」と不確実な想定で処理を進めること)が発生する温床となり、事務ミスのリスクも増大します。
オペレーション運営を支えるコミュニケーション
詳しくは後述しますが、効率的でリスクの低いオペレーション構築・運営のためには、オペレーションを担う人と人との間の、円滑なコミュニケーションが欠かせません。
処理プロセスの途中での、人と人との間のやりとり(モノの受け渡し、タスクの受け渡し、情報の受け渡し)は、少し長めのプロセスになると必ずと言っていいほど発生しますが、そのときに、タスクに関する情報の追加、注意喚起、気持ち良い受け渡しなどを実現するのがコミュニケーションです。
一言、何か声に出すべきときに、相手からのレスポンスが心配で発言できない、ということでは困りますね。
また、フッと手が空いたときに、たわいない会話でリラックス・リフレッシュできる、ということも案外大切です。
このように、企画・開発系のみならず、オペレーション・実務系の組織でも、心理的安全性は必要です。
ミスの少ない実務運営のためには
オペレーションミス・事務ミスが起こったら
・ミスを憎んで人を憎まず
・リスクはプロセス・仕組みで削減する(根性ではなく)
・ミスした人に、言い訳してもらおう
が心理的安全性を維持しつつ、運営のレベルをあげるポイントです。
人間は、機械のようには働けません。
誰しもうっかりすることはありますし、体調や気分が良くない、また何か他のことに注意がいっている状態では益々手元が狂う、見間違える(そもそも、ちゃんと注意力を以って見ていない)、書き間違える、ということが起こりやすくなります。
こういうときに、「もっと注意しましょう」「よく見ることを徹底しましょう」「次からは気をつけます」などと言っても、実はあまり効果がありません。(ちょっと書き過ぎ感あるかもしれませんね、後述するように、それも大事なのですが、それだけで飛躍的に良くなることは少ないです。)
もちろん、「もっと注意していたら起こらなかった」「あの人は仕事ができない」「注意力のない人だから」「だめな担当者!」などと、注意力のせいにしたり、その人を属人的に攻撃しても、百害あって一利なし、です。
仕組み・プロセスは少しも改善せず、ミスを起こした人は委縮してしまい、人間関係が悪くなり、心理的安全性が低下して、下手するとその担当者は辞めてしまい、新人を一から教育することになり(新人の採用・教育は必要で大切ですが、やはりエネルギーがかかるし、一時的な戦力ダウンではあります。)・・・、ということになりかねません。
では、どのように品質の高い実務運営を実現するか。
基本的には、以下の4つをしっかり機能するようにすることがキーポイントです。で、このうちの幾つかで「心理的安全性」が大きな役割を果たします。
①プロセス・仕組み・ツールの構築
②スキル・知識の習得
③ちゃんとやるマインド・心持ち
④人を仕事をつなぐコミュニケーション
だれしもうっかりするタイミングはあるので、極力「うっかりしない」プロセス・仕組み、なるべく「楽・簡単」なチェックの仕組みをつくる、ことがベースになります。
マニュアルもプロセスの標準化のために必要ですね。ちゃんと覚えたら毎回は見ないにしても、新人のスキル習得や、新人以外でも稀にしか発生しないタスクを遂行するときに参照するなど、結構役に立ちます。マニュアル作成を通じて、非効率やリスクに気がつくこともあります。
次にそれを、しっかり習得し、スキル・知識として定着すること。
そのためには、マニュアルや分かりやすいシステム・画面に加えて、いつでも気にせず質問したり確認したりできる雰囲気が大切です。
そして、それをちゃんと遂行する、遵守するマインドを持つこと。
PCでエラーメッセージ出てるのに、無視して「OK」で進めたら、さすがにどんなに仕組みをつくってもダメですね。
この点では、気持ち、も大事です。
最後に、人と人の間、作業と作業の間をつなぐコミュニケーション。
「これが分からないんだけど、どうだったっけ?」
「ちょっと、大量作業が降ってきたんだけど、手伝ってくれない?」
「すごく仕事が溜まってるみたいだけど大丈夫?」
「急ぎの案件、ここに置きますのでよろしくお願いします。」
「さっき受け取ったこれだけど、こういう意味でいいかな?」
「ここまでやってありますので、ここからお願いします。」
などなど、一言あるかないかで、実は運営の効率性・リスクは大違いです。
また、お互いに必要なときに依存すること、声を掛け合うことでチーム内の心理的結びつきが強化されて、さらに強いチームになりますね。
そして、お気づきのとおり、これらが躊躇なく、衒いなく、いつでも言えるためには「心理的安全性」が欠かせません。
こんなこと頼んだらバカと思われないか、仕事が遅い人と思われないか、うるさい人と思われないか、などと気にしていたら、言えないのです。
「穴」をふさいでいくこと
どんな事務プロセスにも、間違いやすい部分、弱い部分、いわゆる「穴」があります。プロセス構築するときに、なるべく穴のないようにつくっていきますが、完璧するのはなかなか難しいですね。
で、穴を発見できるのは、その穴におちたとき、すなわち事務ミスが発生した時です。
なので、ミスが起こったら、その人にできるだけ言い訳してもらいましょう。
「こんな風にマニュアルに書いてあるから読み間違えた」
「目立つところに書いてあればわかったのに、目立たないから気がつかなかった」
「入力ミスしてもエラーにもならず、ウォーニングもでなかった」
「紙に書いてある順番と、入力する順番が違う」
などなど、多少我がままに聞こえても、できる限り言い訳してもらうことで、間違いやすいポイントが発見できます。
もしかしたら、その人は少し注意力が低めなのかもしれませんが、なおさらチャンスです。
これから新人を雇うときに、少し注意力が低めの人でも大丈夫なプロセス・仕組みになる、また普段はバリバリの人でも体調の悪い時もありますから、そういうときでも大丈夫なプロセス・仕組みになる、ということだからです。
ミスをした人は、一般には本人もへこんでいるし、また怒られるんじゃないかと思っているし、言い訳なんかしたら怒鳴られないか、などと気にしがちです。
したがって、ここで、心理的安全性ですね。
普段から、率直に、バカだ・駄目だと言われることを気にせずに発言できる雰囲気・関係をつくっておくことで、このような場面でもうまくいくのです。
最後にもう一つ、一番大事なこと
ここまで、事務現場における心理的安全性の重要性について、主に「仕事をしっかりやる」「ミスを減らす」という観点、すなわち実利的、違う言い方をするとマネジメント側からみたメリットを中心に書いてきました。
しかし、周囲の反応を過度に気にせず、自然体で自分を発揮できる、すなわち人間関係で過度なストレスの掛からない職場で働けること、は、メンバーの幸せな生活の場という観点からも、とても大事です。
一日のうちで8時間とかの長時間を過ごす場所・環境ですから、そのストレスが低い、ということは、クオリティ・オブ・ライフ(Quality Of Life、QOL)の観点から大きな意味があります。
QOLでは、快適な環境、自分の心身の健康に加え、人間関係の良好さ、仕事を遂行するにあたっての自己肯定感なども重要な要素であり、心理的安全性の高さは、まさにQOLの高い職場を実現することにつながるのです。
QOLが高く、メンタル的に健康で、結果として各自が高いパフォーマンスを発揮できて、ハッピーな生活・人生を送ること、これは、ある意味で業務改善やミス削減よりもずっと価値のあることであり、逆に、メンバーがこうなることが会社やマネジメントの成功そのものとも言えると思います。
そういう職場をつくりたいものですね。
心理的安全性は、自然とできるのではなく、みんなで努力しながら作り上げるものです。マネジメントやリーダーは特に意識していきたいですね。
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