『抓娃娃(じゅあわわ)』を観ました!
観に行ってよかったです
中華映画特集上映「電影祭」で限定上映されていた『抓娃娃(じゅあわわ) -後継者養成計画-』を、中国語話者の母と観に行きました。
とてもよかったです。
あまりによかったので、映画と自分の間のバランスをとるため、直後に書いた感想を、読みやすいように整理しました。映画を観終わった後は最高な気持ちでした。10月25日から全国で順次公開されるそうなので、どのような他人の感想などをこれから読めるか、楽しみです。
映画情報
感想
映画の冒頭は特にずっと、《Successor》という英題がピッタリだということと、教育とは何かということを考えていました。
これから書かれるだろう他人の文章が気になっている理由は、この二つが、ざっくりとしたポイントです。
勝手な予想ですが、映画を観た人が思い浮かべた別作品で一番多いのは、『トゥルーマン・ショー』ではないかと思います(中国語のサイトの例)。その次に多いのが、ゲームの『メタルギアソリッド2 サンズ・オブ・リバティ』です。そしてメタルギアソリッドのほうが映画の内容に似ています。他の方の感想で早速目にした「SF社会派エンタメ」というジャンルの呼び方ですが、言い得て妙だと思います。この映画を単に「コメディ」と呼ぶことには違和感があります。他人の文章が気になる理由の三つめのポイントです。
父親である馬成鋼(マー・チェンガン)は、かつて自分が貧乏で苦労したことにより、精神力のような、お金では得がたいものを手に入れられたため、億万長者になれたという考えから、事業を継がせるべく、当時は牛牛(ナイナイ)と呼ばれ、実の祖母たちに甘やかされていた幼い次男、馬継業(マー・ジーイェ)を、自分と同じ環境で育てることにしました。
(……祖母たちは、赤貧生活を息子に強いる父親に非協力的でしたが、祖母たちが過剰に甘やかしていなかったら、成鋼も決意せず、継業も違う運命をたどることができたのでは? そう思います。子ども時代に登場した後、二度と登場しませんが、会えずじまいで亡くなったのでしょうか? それは悲しいことですか、自業自得で可笑しいことですか?)
成鋼(チェンガン)と春蘭(チュンラン)を、純粋に「クソ親」であると、なじるになじれないのは、彼ら自身が苦労し、継業(ジーイェ)に愛を注いでいるからです。終盤に成鋼が絶叫しましたが、まさに”Great Love”です。
「狂っててワロタ」なシーンで笑うのはともかく、彼らは狂気に陥っていると簡単に言うべきではないと思います。全部、愛だからです。継業(ジーイェ)を大切に思っているからこその行動です。《Successor》、後継者になるべき息子を中心に物語は動いています。
私の理解が間違っていなければ、当初、父親と母親は、二人だけで次男を育てようとしていました。しかし、疲れ切ったある晩のこと、李先生のことを発見し、それからはチームを組織して継業を教育します。専門家たちのチームって、それは、かなりメタルギアというかSFですね。
(……春蘭がキス顔をしていましたが、あれは笑いどころだと思います。その他、エルメスのバッグを投げ捨てて首に架かるシーン、および、それまで何事もなかったかのようにバッグの持ち方を尋ねるシーンなど、笑いどころはたくさんあると思います。これらは、私以外にとっても笑いどころでしょうか? 映画館には数人いましたが、母以外の誰かが笑うのを聞きませんでした。私と母でも笑ったタイミングは異なりますが、中国人と日本人の笑いどころが違うことを感じる映画体験をしました。「コメディ」映画だと紹介しても効果的なのか戸惑いを覚えます。継業はがっつり、いじめられたりからかわれたりしています。また、長男が登場するシーンはどれも笑えるのではないかと思いますが、ひどい目に遭っていることが多かった気がします。刺激的な映画ですが、全国で公開された未来では、どう受け止められていますか?)
「SF社会派エンタメ」映画として、批評家や中国・教育の専門家だけでなく、世間一般の親や教育者、子どもに鑑賞されないかなと考えています。そのためには「夏休み映画」という触れ込みはよさそうです。
じっくり幼少期が描かれていました。だからこそ青年期の継業(ジーイェ)が賢いいい子に育ったことが際立ちました。青年期に突入してからの勢いはすごかったです。
ちゃんと成鋼(チェンガン)の教育が成功しているのがいいんです。継業(ジーイェ)は、立ち止まって観察することなどの、父親の教えを活かし、監視を逃れる日が試験の日しかないことも理解して、陽動作戦を実行しました。日記にも工作し、真相に気付いたことを気付かれませんでした。賢い子なんです。観察する、とは簡単にいいますが、この観察力も高いんです。苦しい生活の中で鍛えられたのだと思います。幼少期から、剝がれかけの靴底などを見ていましたが、家族は嘘をつく際に、髪を触る癖があることを見抜いていました。賢すぎる。
(……記憶が正しければ、スタッフの一人も、髪を触る癖がついていたと思います。長い時間を共有し、皆は家族になったんですね。李先生もすっかり祖母のつもりでいました。「私が亡くなったとき坊っちゃんはあそこまで悲しんでくれないだろう」と泣く、また別のスタッフの言葉には、重いものがあります。隠れて支える、あれもこれも、愛。)
ついに継業(ジーイェ)が真実を暴いたシーンは、本当にすごかったです。めまいカットがあって、壁に表彰された優秀スタッフ全員が喋りだして。李先生の「誠実でなければ交われない」「信頼は贈り物」といった言葉がフラッシュバックして。あそこで李先生が真っ先に登場したのは、かつてタブレットを購入したときと同じく、継業の本意を見抜いていたからでしょうか。
(……鞄を投げ入れるフォームが砲丸投げのフォームで、よかったですね。陸上選手の才能を感じました。また、継業のことなので、飛飛:フェイフェイが舞踏学院に行く理由がわかったときスッキリしただろうと思います。私は継業に好感を持っています。飛飛といえば、男女の仲にならなかったのもよかったですね。恋愛要素までどうにかしようとすると映画の尺やテーマ的に苦戦するだろうと思いますが、いいコンビ・いい友達というのがとにかくよかった。男女だからといって好き同士でなくてもいい。継業が携帯電話を持っていないので、近くの席のクラスメイトに飛飛が電話をかけて、継業が堂々と授業中に話すの、面白かったです。飛飛との出会いはランニングのコーチと同様、偶然だったでしょうが、物語が終わった後も二人はいい友達同士でしょうか。)
継業(ジーイェ)が真実を知ったとき、「感情を抑制できる子」としてだいたい黙り、キャラクター個人の主張をしなかったのが、子どもも観る映画として、内心を想像させ、感情移入させ、万人のためにとってよかったと感じます。
成鋼(チェンガン)も、億万長者として成功しただけあって、優秀で機転が利くところが好きです。だからこそ幸福な結末にたどり着けました。
無料の軽食を大食いさせないように肝に銘じさせたことは女性陣のアイデアでしょうが、何度もタブレットを返品させないように壊したのはきっと父親のアイデアでしょう。貧困の中で育てるプロジェクトの失敗として、陥りがちな「抜け道」をちゃんと潰していると感じました。痛い目を見せて、二度と過ちを犯さないように。一方でペットボトルを賭け試合で大量に投げさせるアイデアは実行しました。
(……「コネがないとボトルも拾えない」というクズ拾いのセリフあたりには、なにか社会全体の絶望が反映されているのだろうかと思いました。)
極め付きは最後の、ジョークとしての、セリフです。
「否が応でも受け取らざるを得ない(、埋め合わせの)プレゼント」として「弟か妹をつくる」というヤツです。最高だと思います。「イヤな人」という妻・母親の返しも含めてです。どんな頭の回転だ。実際には映画をつくった人たちが考えたのだと思いますが。抜群のセンスです。
一年の浪人ののち、継業(ジーイェ)は体育大学に合格しましたが、きっと応援してもらえた/あげたのだと考えています。
長男である馬大俊(マー・ダージュン)も、遂には自分の人生を手に入れることができて、本当に幸せな気持ちになれました。ピーターとともに登頂成功、おめでとうございます。「お前はいい息子だ」というのを聞いて自分はそれにはなれないと決意したんですね。無理もしたんですね。一瞬あるいは二瞬、継業の誘拐を疑われていたのはもう過去のこと。終わった。よくやった。成し遂げた。継業もランナーとして笑顔で走って、大団円。素晴らしいエンドロールへ。『我想當風』という曲も合っていて最高! 「凧ではなく風になりたい」!
本当によかったです。ボトル拾いをしてしまうのがやめられないというのもひっくるめて。全員笑顔だから。
先の道を自分で行くことを決め、ガレージを開けたときからあたたかい光景が続きます。子どもたちが自由に遊ぶ、可能性に満ちた光景。そこに足を踏み入れる継業。水で濡れる靴。走る。石の上も跳ぶ。青空を背景に。顔を下から映して。
「晩飯までには帰るのか!?」と叫んだ父親のくしゃくしゃ顔も忘れられません。最高でした。嬉しいんだと思います。父親があんなのだったら幸せかもしれません。それこそバーチャル育成プログラムとかないですか。同じ幸せな家庭環境で子どもを大人まで育てるような。脱出が近付くにつれ、周囲を疑う目が強くなってしまうけれど、生きる力は身につけさせてくれる箱庭。それができたら世話はないですか。それが今のところ学校教育ですか。現状最善の敷かれたレール。そこに本人のための狂気じみた愛はあるんですか。
人の子にも人の親にも観てもらいたいです。受け取り方は人それぞれ、国それぞれでしょうが。中国における富裕層の教育の実態とか、その他、想像できる範囲外の詳しい文化とか、私もわかりませんが。
おもしろかったので。
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