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『その着せ替え人形』も『おむすび』も

毎日放送のドラマ『その着せ替え人形(ビスクドール)は恋をする』が、ちょっと気に入っています。テレビドラマは最後まで観ないと、良いとも悪いとも言えないとは思いますが、基本的な立ち位置に好感がもてると思って観ています。(見出し画像は公式HPより引用)

ストーリー

主人公は、雛人形の顔をつくる「頭師」を目指す男子高校生五条新菜(わかな)と、彼にコスチュームをつくってもらうコスプレ好きの同級生女子喜多川海夢(まりん)。

新菜は、雛人形師の祖父と二人暮らしで、自身も小さいころから雛人形にほれ込んでいる。しかし、その趣味は周囲に理解されず、友達もいない。海夢は、アニメ、ゲーム、マンガが大好きなギャルで、登場人物のコスプレをしたいが、不器用で衣装の自作がうまくいかない。

ある時、新菜が裁縫室で雛人形の衣装をつくっているのを見かけた海夢は、新菜にコスプレ衣装をつくってくれるよう頼む。新菜も、最初は戸惑っていたが、コスプレ衣装やその背景にあるアニメ、ゲームのことを勉強するうちに、その世界にはまっていく・・・。

素晴らしいコスプレ

この作品は、原作の漫画があり、アニメ化もされているらしいですが、私は今回の実写ドラマで初めて触れることになりました。ですので、比較のようなことはできないのですが、何といってもコスプレのコスチューム、メイクの素晴らしさには驚きます。

毎回のように、コスプレの完成形が披露され、その美しさ、可愛さに引き込まれてしまいます。アニメやゲームのキャラクターは、ある程度誇張というかデフォルメのようなことがあると思うのですが、普通の人間がその世界に入っていく(入っている)ことが、すごいと感じます。

当然ながら、それぞれのキャラクターと生身の人間とでは、体形や骨格が違うわけです。それをうまく調和させるため、衣装やメイクを工夫する苦労は並大抵のことではないわけで、ドラマではそこも描かれています。

大河ドラマ『光る君へ』では、平安貴族の素晴らしく雅な衣装が紹介されており、そちらにも感嘆していますが、こちらのコスプレも負けてないと思います。(言ってみれば、『光る君へ』もコスプレなんですけどね。)

伝統も現代も対等

そして、このドラマでは、雛人形のような伝統的な美の世界も、コスプレのような現代的な美の世界も、対等に扱われており、そのことにとても好感が持てます。

新菜の人形師としての師匠でもある祖父五条薫の姿勢も感動的です。彼は、おそらくはその道数十年、人生のほとんどを伝統的な雛人形に捧げてきたのだと思います。彼はやはり、自分の孫が人形師としての仕事を継いでくれることを秘かに期待しています。

しかし、それまで雛人形一辺倒だった孫が、コスプレの世界にはまっていくのを目にします。彼はそれ見ても、決して否定することなく、むしろ応援してくれるわけです。

雛人形づくりもコスプレのコスメも、美しい「作品」を仕上げる楽しさと苦労はどちらも同じ。古くからあるものがよいとか、古いからつまらないとか、そういうことではない。どちらも素晴らしい、どっちが好きかだけの問題ということ。そのスタンスがよいです。

ジェンダーも超える

ドラマでは、「男なのに」「女なのに」というような偏見も超えます。

新菜が昔から雛人形が好きで、それが原因で女の子から気持ち悪がられたこと。先輩男子のコスプレイヤーが、女装のコスプレが好きだということに、その彼女が嫌悪感を覚えるという場面が出てきます。

しかし主人公たちは、自分たちの好きなことを大切にし、またほかの人が好きなことも同時に大切にします。男で雛人形が好きだってよい。男が女装のコスプレをすることが好きだってよい。

皆が好きなことを隠さなくてもよい社会。そういったものを志向する姿勢に共感します。

『おむすび』も

奇しくも、朝ドラ『おむすび』にも同様のスタンスを感じます。

『おむすび』では、主人公の高校生米田結が一時期書道に打ち込みますが、ひょんなことから、それまで毛嫌いしていたギャルに仲間入りすることになります。次第にギャルの素晴らしさにのめり込み、今度は自分がギャルとしてお堅い栄養士学校に乗り込み・・・

というふうにまとめると、ちょっとバイアスがかかっていますが、要は好きなことを大切にするということ。偏見のまなざしで見られるギャルも、きちんと礼儀正しく行動している人もいるし、いろいろだということ。

結にとって、伝統文化である書道も好きだし、栄養士の勉強もしたい、ギャルとしてのおしゃれもしたい、恋もしたい(している)。それらはみんな対等というか、どっちがどうということはない。その時に好きなことに打ち込むということ。そういうことなのだと思います。

インクルーシブな世界

やや大げさな話をすると、人間社会の歴史は、人々の自由と権利を獲得する歴史であったと言われます。まだまだ、それを実現する途上にある国も少なくありませんが、ほぼ実現できている国においても、その自由と権利をいろいろな立場・状況におかれた人に等しく広げていく途上にあると思います。

男女平等の実現が典型的ですが、家柄だとか宗教だとか、そういうことに関わりなく平等に自由を享受する、そういう社会。さらに、いままで社会の一部として必ずしも受け入れられて来なかった人たち、例えば性的マイノリティの人を社会に包摂していこうという動きが活発になっています。(こうして見ると、前回の朝ドラ『虎に翼』にも通じるところがあります。)

ブレイクダンスやスケートボードがオリンピック競技になりました(それはそれで、体制に取り込まれるようで抵抗感もあるのかもしれませんが)。暗いイメージの「オタク」という言葉が、より広い範囲の集合として「推し」という言葉に変化し、前向きに受け入れられてきているようです(「オタク」という言葉は、「鉄オタ」のように特権階級に昇華しているように思います)。

『その着せ替え人形は恋をする』も『おむすび』も、いろいろな趣味・嗜好をもった人を軽蔑したり、差別したりせずに、その考えや好みを尊重していく姿勢という意味で通底していると思います。あらゆる人を対等に受け入れ、尊重するインクルーシブな社会。それを目指すということだと思います。

今後の展開に期待しています。



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