『アキラ』~人類の文明を発展させ崩壊させるものとは(3)
難解なエンディング
『アキラ』のエンディングは、やや難解です。
ネオ東京の崩壊の後、生き残った金田がその友人に言います。
「(鉄雄は)行っちまった。あの三人も。アキラも」
(鉄雄は死んだのかと聞かれ、)
「どうかなあ。きっと・・・」
瓦礫の中をバイクで走る金田たち。
三人の老少年少女の声が聞こえます。
「でも、いつかは私たちにも」
「もう、始まっているからね。」
その後、画面は真っ白になり、その中心から、黒い小さな点が幾重にも円形に広がり、中心から手前に向かって何本もの線が放射状に飛んできます。その後、画面はヒトの眼の瞳孔のサイケデリックなクローズアップに変わります。そこで、声がします。
「僕は、鉄雄」
すると、瞳孔の中心から稲妻のような線が手前に放射状に広がり、さらにその線と併せて、いくつもの瓦礫のようなものが飛んできます。
そこで画面が黒くなり、エンディング・クレジットが始まります。それにあわせ、飛んで来る瓦礫は徐々にいくつもの銀河系に変わります。あたかも、いくつもの銀河系を超えながら、光速で宇宙空間を飛ぶような映像になり、次第に画面は真っ黒になり、クレジットだけになります。
希望の光
『アキラ』のメッセージが人類の文明の発展のあり方への警鐘だとすれば、ネオ東京崩壊の後の場面はやや蛇足にも思えます。
「アキラ」や鉄雄の破壊力の暴走により、すべてが崩壊して終わる。
それでもよかったと思いますが、その後の場面の存在によって、将来への希望のようなものを感じられるようになりました。それは、ひとつには、ネオ東京の瓦礫の中を走る金田ら若者の姿を見て、世の中の再生への希望の光を感じられるということ。
そしてもう一つは、鉄雄の「その後」についてです。
金田は、鉄雄は「行っちまった」と言いながら、生きているかどうかもわからないと言います。
鉄雄は「あの世」に行ってしまたのか、それともその超人的な能力によって、地球の範囲を超えて、どこか遠くの世界に行ってしまったのか、もしくは目に見えない存在になって、ネオ東京に存在し続けているのか。
はっきりとはわかりませんが、鉄雄の魂のようなものが残っていることは確かなようです。
鉄雄はスターチャイルドになったのか
エンディングのヒトの眼の瞳孔のクローズアップや、向こうから飛んでくるような光は、スタンリー・キューブリックの映画『2001年宇宙の旅』('68)の終盤の場面にかなり似ており、明かに意識したつくりになっています。
『2001年宇宙の旅』では、謎の黒い石板モノリスの力によって、人類はヒトザルからヒトに進化。その文明を発展させた後、新たにモノリスに遭遇します。終盤、木星付近までひとり到達した宇宙飛行士が、モノリスに引っ張られるようにして、光の奔流に引き込まれます。そして、地球に似た空間に到着した後、スターチャイルドとして生まれ変わり、次の進化の段階に進みます(と解釈されています)。
『アキラ』のエンディングは、この宇宙飛行士が光の奔流に引き込まれる場面を簡潔にまとめたもののように見えます。
『2001年宇宙の旅』では人類の文明は暴走してはいません。暴走直前まで行っており、核戦争の脅威が迫っていると解釈する人もいるようですが、少なくとも暴走はせず、なんとかバランスをとっている様子です。そこから一つ上の段階への進化(の始まり)が描かれます。そこにモノリスが介在し、プロセスとして光の奔流があります。
『アキラ』においては、モノリスは存在せず、微生物の段階から現在の人類まで無段階に文明は発展します。つまりモノリス(=進化)さえも人類に内在する潜在力として描かれます。しかし、その抱える潜在力のコントロールが効かなくなり、人類の文明は暴走します。そして、おそらく鉄雄は光の奔流に引き込まれて行ったようです。
このようにして見ると、『アキラ』は『2001年宇宙の旅』に対する、新解釈のようでもあり、アンチテーゼのようでもあります。
鉄雄は、おそらく次の進化の段階に進んだのでしょう。神格化されていた「アキラ」は、すでに先に進化しており、鉄雄を導いたのかもしれません。ネオ東京を崩壊させたようでいて、実はネオ東京を救い、再生の可能性を残したということなのかもしれません。
鉄雄と同様の能力を有する三人の老少年少女の言う「いつかは私たちにも」「もう、始まっているからね。」というのは、自分たちも次の進化の段階に進むことを言っているのだと思います。
ネオ東京、すなわち現段階の人間世界に残っている金田たち(そして私たち観客も)にとって、鉄雄は「あの世」に行ってしまったのか、どこか遠くの宇宙に行ってしまったのか、もしくは見えない存在になってこの場所に居続けているのか、それはわからないのです。
いずれにしろ、「行っちまった」ということなのです。
神とか、何か人知を超えた存在、それと生物の進化、人類の文明の発展。そういったものの関係、不思議さ、潜在性、力。そういったものについて、考えさせられました。