HSPだなんて知らなかった。
ある時HSPの存在を知った。
「内向的な僕よりも、もっと内向的な人が世の中にはいるのか」と他人事のように思っていた。
でも、実は他人事じゃなかった。どうやら僕はHSPの気質があるらしい。
HSPの存在を知った僕は、興味本位で『鈍感な世界に生きる敏感な人たち』という本を買った。
そして本の中のHSP自己診断テストが自分自身の認識を大きく変えた。
僕がこの世界で日々感じている生き辛さの全ての答えがそこにあったように思えた。
HSPという気質は、脳に搭載されている”扁桃体”というセンサーの感度が人よりも高い事が原因らしい。
だから、目や耳など五感で感じる取る情報に誰よりも過敏になってしまう。そして、脳は大量の情報を自動的に処理してしまうから、他人よりも外部からの様々な刺激に影響を受けてしまう。
僕が人見知りなのも、人前で震え上がるのも、沢山の人と長時間一緒に過ごせないのも、香水店の前を通れないのも、濃い味付けが苦手でケチャップやマヨネーズが口にできなかったのも多分きっと全部”扁桃体”のせいだったんだと思う。
「人見知りも、人前も、団体行動も大人になればできるようになる」と思ってた。
「持ち前の要領の良さで切り抜けていけばどうにかなる」そう思ってた。
実際は期待通りの結果ではないが、どうにかこうにかやっている。
アラサー手前になっても人と関わる社会は息苦しい。
「いつまでも社会に馴染めないのは、僕自身にその気がないんだろう」そんなふうに決めつけていた。
けれど、蓋を開けてみれば簡単な話だった。
僕は、僕がHSPだったなんて知らなかった。それだけだった。
HSPは扁桃体の感度の問題。そしてその感度は一生変わらない。
つまり、HSPという気質は矯正できない。
しかし、子供から大人へと成長する過程で、僕らの脳の”自分自身を律する”箇所である”前頭葉”が発達する。
そのおかげで、どんなに扁桃体がサイレンを鳴らしていても、前頭葉が僕らをその場に適した行動を取らせてくれる。
ところが、困った事に自分自身をコントロールすることはたくさんのエネルギーを消費してしまう。
だから、HSP気質の人はそうでない人よりも静かに、しかし大量にエネルギーを消耗している。
僕らはまるで、水面下で忙しなく水かきをしながら、水面を静かに泳ぐアヒルさながら、誰の目にも見えないところでエネルギーを使っている。
昔から団体行動が苦手だったけど、場を乱すような問題児ではなかった。
グループの一員としてそれなりの行動を常にしていた。
大人になった今でも会社という組織に属している。
今もそれなりの行動をしている。
けれど、団体行動が終われば僕は静かにその場を離れ独りになろうとしていた。
学生時代も授業が終われば独り帰路についていた。たまたま友人らに出会ってしまったら、適当な理由をつけて一駅手前で降りたり、改札出口を変えたりして独りになろうとしていた。
今も変わらず仕事が終われば誰とも帰宅がかぶらないように真っ先にタイムカードを切って逃げるように会社を出る。
何時間もの間、たくさんの人と同じ空間にいる事が僕の体力を枯渇させていた。
だから、独り帰路について好きな音楽で耳を塞ぎ、電車に揺られながら本を読む時間がとても心地よかった。
昔も今もこの話をしてもきっと誰も理解してくれないだろう。そう思っていた。
だって、僕でさえ何でみんなと一緒に帰れないのか不思議で仕方がなかったから。
だけど、今ならわかる。”僕はただHSPの気質を持っていただけ”だった。
僕は、この生まれ持った気質と一生生きていかなければならない。
僕にとって、この鈍感で生き辛い世界で。
でも、悲観はしていない。むしろ好機だと思っている。
HSPにはHSPなりの生き方がある。それを知る事ができた。
僕は、僕がHSPだなんて知らなかった。けれども今は知っている。
だから、昔の僕よりも今の僕の方がもう少し上手に生きれる。
そんな気がしている。