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【英文法 重箱の隅】自動詞+X〈後編〉
実用から離れて、英文法そのものに対し関心を寄せている読者向けの内容となっています。一匹の猫の個人的な興味探求の記録としてお読みいただければ幸いです。
今回扱うのは、Xに形容詞がくる[自動詞+形容詞]のパターン。文の要素としては[述語動詞+補語]という構造になる。補語については前にも確認したように、その働きは端的に言えば、主語について説明することである。
実は、学習書などによっては、補語についてさらに説明を加えることがある。それは「補語を取り去ると文が成立しなくなる(=文の意味が不完全になる)」というもの。これは、修飾語と区別するための説明と思われる。あるいは「述語動詞の意味を完全にするために必要な語句」と説明されることもある。
She wants to be a doctor when she leaves school.
この例文で補語とみなされるのはもちろん be動詞に続く 'a doctor' だが、確かに、文中から 'a doctor' を省いてしまうと、文の意味が不完全になってしまう。
念のため、文中における 'a doctor' の働きを確認すると、主語である彼女の、職業という属性について説明していること、したがって、ここで be動詞は主語の she と補語の 'a doctor' をつなぐ「連結動詞」として用いられていることがわかる。
ちなみに、be動詞が補語も何も伴わないで用いられることがまったくないわけでもない。
Such terrible suffering should never be.
この例文は、be動詞が単独で使われていても、文として成立している(=意味が完結している)。「このようなひどい苦しみは決してあってはならない」つまり、ここでの be動詞は(「連結動詞」ではなく) to exist の意味だ。しかし、これは日常的な場面で使われる文ではない。本題に戻ろう。
He returned to Vienna a broken and dispirited man, according to Williams.
この例文の ‘a broken and dispirited man’ という名詞句はどんな働きをしているのだろう?その前の “He returned to Vienna” は、これだけで文として成立している。その上で、’a broken and dispirited man’ が加わっているが、意味内容を考えると、この名詞句は、ウィーンに戻ってきたときの彼の状態を表しているとみなすことができる。「彼は意気消沈してウィーンに戻った」
このように、一応意味が完全であると思われる文に、主語を説明する語句が付加されることがある。こういった語句をいわゆる補語と区別するために「準/疑似補語」と呼ぶこともあるようだ。純粋な補語とは言えないということだろうか。当記事では、補語だけでなく「準補語」が述語動詞に続くパターンも取り上げていく。
遥か昔、学生時代に受けた受験指導で、次のようなことを言われたことがある―この[自動詞+形容詞]のパターンをとる動詞で試験に出るものはごく少数だから、それを一つ一つあらかじめ記憶しておくべし、と。
その後、いわゆる生の英語に触れる機会が飛躍的に増えてくると、実はこのパターンをとる動詞が思いの外、多種多様であること、それに伴い、このパターンそのものも豊かな世界をつくっていることが見えてきた。そこで、この[自動詞+形容詞]のパターンの多彩な世界にどっぷり浸かってみようというのがこの記事の目的である。今回も、動詞のグループごとに用例を観察していく。
主語の性質や状態を表す動詞
主語になる人や物事の性質や状態について述べる(=特徴づけ)ために用いる動詞のグループで、すべて連結動詞として使われる。このグループの代表は be動詞だが、ここに keep, remain, stay などの状態の継続を表す動詞や prove などを加えてもいいかもしれない。いずれも、一般的な学習書でよく取り上げられる動詞だ。ここでは、その他の動詞の例を見てみよう。
1-a. In spite of the relief effort, thousands of people continue to go hungry.
1-b. The baby went naked on the beach.
https://www.collinsdictionary.com/
go が[自動詞+形容詞]のパターンをとる場合、次のグループの「状態の変化を表す動詞」として用いられることが多いが、be(や stay )の意味で用いられることもある。
(1-a) の 'go hungry' は単なる空腹ではなく、食べるものが十分になくて日々苦しむこと、すなわち飢餓をいう。「救援活動にもかかわらず、飢えに苦しんでいる」
(1-b) の 'go barefoot/naked' は、文脈によっては移動の際の状態を表すこともあるが、一般的には「裸足/裸でいる」ことを表す。「裸で過ごした」
また、この意味の go は、多くの un- で始まる形容詞と結合してフレーズを形成する。un- は「否定」を意味する接頭辞なので、〈go + un-...〉は、un- の後の -ed形によって表されることが起こらない/行われない状態を表すことになる。具体的に見てみよう。
2-a. She couldn’t let a statement like that go unchallenged.
ポイントになる形容詞 unchallenged は challenge が行われない状態を指す。ここでの challenge という動詞は「挑戦する」ではなくて「異議を唱える/疑問を呈する」という意味なので、'go unchallenged' で「何の疑いもなく受け入れられ(てい)る」ことを表す。「そのような発言はすんなり受け入れられなかった」
2-b. In such cases, the illness can go undetected only to emerge months, even years, later.
2-c. We complained but as usual our voices went unheard.
2-d. Hard work and talent so often go unrecognised and unrewarded.
2-e. I have been amazed at times that cruelty can go unpunished.
https://www.collinsdictionary.com/
(2-b) undetected: detect されない状態「発見されない/気付かれない」
「発見されずに数か月、あるいは数年後に発症する」
(2-c) unheard: hear されない状態「人に聞こえない/聞いてもらえない」
「苦情は聞き入れられなかった」
(2-d) unrecognized: recognize されない状態「正当な評価を受けていない/価値を認められていない」unrewarded: reward されない状態「報われない」
「努力と才能は認められず報われない」
(2-e) unpunished: punish されない状態「罰せられない/罰を免れている」
「残虐行為が罰を受けないことに愕然とする」
3. The cocktails were so sweet that the strength of them might pass unnoticed.
unnoticed という形容詞は、go の他に pass とも結びついてフレーズをつくる。unnoticed: noticeされない状態「気付かれない/注目されない」
「カクテルの度数の高さが見過ごされる」
hold は「保持」を表すことから、「状態を保つ」という意味が派生し、keep, remain, stay などと同じように、状態の継続を表すことがある。
4-a. Since then, the pound has held steady against the dollar.
4-b. Their arguments were valid a hundred years ago and they still hold true today.
https://dictionary.cambridge.org/
例文にあるように、水準や相場などがある状態に保たれて変わらないことや、主張や理論などが変わらずに真実/妥当であることを表す。
(4-a)「ポンドはドルに対して安定している」
(4-b)「彼らの主張は依然として有効だ/当てはまる」
5-a. At the height of her career she ranked second in the world.
5-b. It would certainly rank high on any list of favourite children's books.
ここでの rank は動詞で、何らかの尺度においてどこに位置するかを表す。序数詞を用いた (5-a) では順位を表している。位置づけを表すので当然、(5-b) のように high/low といった形容詞が続くこともある。
(5-a)「キャリア絶頂期には世界ランキングが2位だった」
(5-b)「お気に入り児童書リストの上位にランクされるのは確実だ」
6-a. He urged the whole community to stand united and to reject terrorism.
6-b. The house stood empty for years.
6-c. The alliance stands ready to do what is necessary.
https://dictionary.cambridge.org/
https://www.collinsdictionary.com/
立っている状態を表す stand も後に形容詞を伴って、be動詞のように主語の状態を表すのに用いることがある。いずれの例文の stand にも、もともとの意味が感じられる。
(6-a) 'stand united' は「団結」、反対に「分裂」は 'stand divided' で表す。「地域社会全体が団結してテロを拒絶するよう促した」
(6-b) 'stand empty' は建物や土地などの状態を表すのに用いるが、empty の他に vacant, derelict, idle など。いずれも "not being used" の意味。「何年も空き家のままだった」
(6-c) 'stand ready' では、ready の代わりに prepared も用いる。「同盟は必要な行動をとる準備ができている」
主語の状態や性質の変化を表す動詞
主語になる人や物事が、ある性質を持つようになったり、ある状態になったりすることを表す動詞のグループで、これもすべて連結動詞として用いられる。この動詞のグループの代表は become だが、日常英語では get がよく使われる。ここでも、その他の動詞を見ていくことにする。
まずは、come と go という対になる語から。よく指摘されるように、大雑把に言えば、come にはプラスイメージの形容詞、go にはマイナスイメージの形容詞が続く、つまり、come は好ましい状態への変化、go は好ましくない状態への変化を表す。もちろん、例外もある。
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