心を動かすボードゲームデザイン論|コンポーネント編
※このnoteでは、ユーザーをゲームの世界観に没頭させるための、ボードゲームのコンポーネント(内容物)デザインについてお話します。
前回のパッケージ編に続いて、今回はコンポーネントのデザインについて紹介します。
・パッケージ編
・コンポーネント編(本note)
・ルール編
コンポーネントの目的は、世界観の構築
ボードゲームの王様、『カタン』を例に見てみましょう。カタンは「無人島を舞台に、資材を集めて村や都市を作り、島を開拓していく」ゲームです。
カタンのコンポーネントは、牧草地や森林を模した六角形のタイルや、街道や開拓地、盗賊といったコマ、木や鉱石などの資源カードなどから成り立っています。
なぜ、アイテムなどのコンポーネントを木や鉱石にする必要があったのでしょう。極論、資材の名前を「ポイントA」「ポイントB」としてもゲームシステムは成り立ちます。けど、そんなゲーム、面白くなさそうですよね。それは世界観が失われているからです。
ほとんどのボードゲームのシステムは、紙とペンがあれば再現可能です。カタンのシステムも、その気になれば紙だけで再現できるし、チェスや将棋といった昔ながらのゲームも同様です。
それでもボードゲームとして買われる理由は、コンポーネントから生まれる世界観を、五感を通じて味わい、没頭するためです。
もし、カタンの素材が木材でなく繊維補強コンクリートだったり、盗賊コマがテロリストグループコマだったら、世界観とコンポーネントがちぐはぐで、ユーザーをゲームの世界に没頭させることはできなかったでしょう。
コンポーネントをデザインする上で、自身の作りたい世界観をはっきりさせることが大切です。
ではその世界観に没頭させるために必要な視点を考えていきましょう。
コンポーネントをシンプルにし、ユーザーを没頭させる
ボードゲームをプレイしようとしたとき、ルールを覚えながら、コンポーネントに触れる中で、ユーザーは様々な負荷を感じます。精神的負荷と身体的な負荷です。これら二つを総称して「インタラクションコスト」と言います。
このインタラクションコストが高いと、快適なゲーム体験を提供できず、ユーザーをゲームの世界観に没頭させることができなくなります。
特にボードゲームは、ユーザーに精神的な負荷を強いる遊びです。この負荷を下げ、できるだけ楽に、簡単にわかりやすくプレイしてもらえるコンポーネントのデザインに必要なものは何でしょう。ポイントは以下の3点です。
1.一貫性を持たせる
コンポーネント全体に共通の意味を持たせます。具体例を挙げると。「青色のカードはプラスの効果が書かれている」「丸型のチップは資材で、四角型のチップは勝利点」などです。
一貫性を持たせることで、ユーザーはルールや説明文を読まなくても、そのコンポーネントの持つ意味を予測できます。結果、学習コストが下がり、精神的な負荷を抑制できます。
2.コンポーネントの持つ意味を明快にする
「コンポーネントの数は少ない方がいい」というクリエイターが多くいます。
これは半分正解で、半分不正解です。
より芯を食った言い方をすれば、「コンポーネントの持つ意味を明快にする」です。いたずらにコンポーネントの数を減らしてしまい、ユーザーのインタラクションコストを上げるようであれば本末転倒です。
インターネット上では、製造コストを下げるテクニックとして、カードの表と裏それぞれに異なる情報を記載するなど、一つのコンポーネントに二つの意味を持たせる手法が紹介されています。しかし、それを導入する前に、それがユーザーのインタラクションコストに与える影響をよく考えるべきです。
「これ以上削るところがない、しかし削りすぎていない」を目指しましょう。
3.ユーザーの当たり前を大切にする
このアイコンは何に見えますか?
これは世界共通で「出口」という意味を持つアイコンです。これが迷路の入り口に書いてあったら、ユーザーは混乱します。
人間は多くの「当たり前」の中に生きています。
裏向きに置かれたカードは自由にめくってはいけない。人型の置物はプレイヤーの意味。サイコロは振るもの。赤色は警告。ドクロマークは危険。。。
これらの「当たり前」に反したデザインは、ユーザーを混乱させる要因となるため、避けた方が無難です。
私がデザインしたゲーム、『シトラスポット』のコンポーネントにも、この考えが活かされています。
『シトラスポット』では、フルーツを袋に入れて裏返すコンポーネントデザインになっています。これは「空の袋には何かを入れる」「裏返したものは見てはいけない」という当たり前を利用した結果です。
ユーザーが理解しているものを理解し、それから逸脱しない。これがコンポーネントデザインの大原則です。
コンポーネントには、驚きのデザインを取り入れる
先ほど「ユーザーの当たり前を大切に」と書きましたが、その当たり前をわざと裏切ることもあります。それは、ユーザーを感動させるためです。
僕はよく手品を観にいきます。
何も持っていないはずの手から鳩が出てきたり、コインが瓶底を貫通したり、マジシャンは私たちの「当たり前」をことごとく裏切ります。
私たちは当たり前を裏切られたとき、驚き、感動を覚えるのです。
雅ゲームスの名作ゲーム『Ostle(オストル)』は、互いにコマを動かして落として取る、非常にシンプルなゲームです。
このゲームには、統一されたデザインの中に、一コマだけ色も形も異質なコマがあります。真っ黒な丸いコマ。これが「穴」という、ゲームの鍵を握るコマなのです。
ルールを知る前でも、ユーザーはこのたった一つのコマが気になって仕方ありません。そしてルールを理解し、ゲームをプレイすると、その見事なデザインに思わず感動するでしょう。
シトラスポットでは、パッケージを開けて、中身を取り出していくと、美味しそうなフルーツの中から、真っ黒なオレンジが出てきます。
日常や常識の中に、真っ黒なオレンジは存在しません。この強烈な違和感により、ユーザーが一瞬で「これは良くないものだ」と理解できるようにしました。
開発当初は、傷んだオレンジの色を紫や緑にする案もありましたが、これらはぶどうやライムなど、他の果物にも存在する色であったため、フルーツの常識にない黒色に決定しました。
当たり前を大切にしつつ、ユーザーに驚きを与えるコンポーネントを用意する。ユーザーを感動させるには、この二律背反を成立させる必要があります。
まとめ
コンポーネントをデザインする上で、ユーザーをゲームの世界観に没頭させるために必要なポイントは以下の通りです。
・作りたい世界観に合わせてデザインする
・コンポーネントを以下の観点でデザインし、明快にする
1.一貫性を持たせる
2.コンポーネントの持つ意味を明快にする
3.ユーザーの当たり前を大切にする
・感動させるために、驚きのデザインを取り入れる
元任天堂の玉樹真一郎さんは、「なぜゲームを遊ぶのか」という問いに、著書の中で「ゲーム自体がおもしろいからではなく、プレイヤー自身が直感する体験そのものがおもしろいから、遊ぶ」と答えています。
ボードゲームデザイナーも、ユーザーの体験そのものをデザインしていきましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。本noteが皆様のボードゲームデザインの参考になれば幸いです。
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シトラスポットは、まるで本物のようなオレンジとレモンの輪切りを瓶詰めにした、二人専用のボードゲームです。5つの袋の中身を互いにチェックしていき、相手が仕掛けた傷んだオレンジを先に当てたら負け!チェックの順番をずらせるレモンの使い方が勝負のカギになります。可愛いけど奥深い、究極の心理戦をお楽しみください。
どうぞよろしく!