関係がうまれる瞬間の手ざわりを拾いあつめること(松家仁之『光の犬』/第6回河合隼雄物語賞)
「神が『光あれ』と言ったのはなぜかしら」
「……どうしたの急に?」
「地は形がなく、ガランとしていた―というのも、宇宙の誕生の話みたいに聞こえる。いきなりそこから始まるのはなぜなの」(一八六頁)
この小説で問われるのは、因果性への懐疑よりも根本的な、あらゆる物の相互関係である。自然と文化、モノと人間が分かたれる前の情景であり、カントの「コペルニクス的転回」よりも前に遡る試みが、高解像度の手ざわりある描写の併置を通じて行われている。それぞれの物が存在し、相互に働きかけ、そこに因果性や法則性が見出されるとはいかなることであるか、哲学史としては近代以前あるいは近代初頭の問題系へと立ち返る試みがなされている。
人間たちの人生の瞬間を描くこの小説から因果性の懐疑およびそれ以前への遡行をするための跳躍は、血縁による影響に対する懐疑的視点からの検討を足場とする。
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