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柳田国男『明治大正史 世相篇』についてのメモ②―資料の匿名性について

 以下の記事で角川ソフィア文庫版の柳田国男『明治大正史 世相篇』を紹介したが、この本を読み進めている中で柳田国男の資料の匿名性についての考え方について考察したことがある。

柳田の匿名性に関しては、資料を提供した人物の名前を出さずに自分が蒐集した資料であるかのように引用することが批判されることがある。そして、柳田とセットで南方熊楠は資料を採集した人物や引用元を明記したことを評価する場合もある。この柳田の「資料の引用元の匿名性」とも言える考え方は何か理由があると以前から考えていたが、柳田は『明治大正史 世相篇』のような匿名の人びとの共同の経験(常民共同の経験)を中心に歴史を記述しようとしていたので、この共同の経験には資料の引用元、その資料の採集者はあまり関係ないと考えていたのではないだろうか。『明治大正史 世相篇』は特定の人名や書名、資料の引用元がほとんど登場しないことが印象的であるが、これは柳田の資料の扱いに対する考え方も反映していると思われる。

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