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昭和前期の出版社・玉井清文堂の経営者について

 今年(2021年)のはじめの方にユーモア小説を数多く執筆していた奥野他見男の『学士様なら娘をやろか』という本を読んだが、この本は1929年に玉井清文堂より出版されている。厳密に言うと、この本は東文堂、成光館出版部からも出版されている。以来、この本を出版した玉井清文堂という出版社のことが気になっていたが、Web上ではほとんど情報がなく謎のままであった。

 しかしながら、先日以下の記事でも紹介した『出版社調査事典―昭和戦前期』(金沢文圃閣、2017年)に玉井清文堂の経営者の名前が載っているのを発見した。

この本の「著名書籍業者所得税並営業収益税納税額一覧」に清文堂の玉井清五郎、「著名書籍業者所得税五百円以上額番附一覧」に清文堂の玉井清三郎が掲載されている。奇妙なことに両者の納税金額はともに540円であるため、両者は同一人物ではなかろうか。『現代出版文化人総覧』(協同出版社、1943年)の「図書発行者一覧」では、玉井清文堂の代表者は玉井清五郎になっているので、『出版社調査事典―昭和戦前期』の清三郎は清五郎の誤記ではないだろうか。

 余談だが、『出版社調査事典―昭和戦前期』の小林昌樹さんによる解題によると、この本のもとになった『出版便覧 昭和8年版』(出版新聞社、1933年)の奥付には誤植があるようだ。玉井清三郎の件も誤植ではないだろうか。他にも下出義雄の経営していた書店は下出書店であるが、下村書店となっているなどの誤記を発見した。『出版便覧 昭和8年版』には他にも誤記がありそうだ。


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