1号で終わった雑誌『遠野』について
先日、某所で鈴木重男という人物が発行していた雑誌『遠野』を目にする機会があった。この雑誌のことは以下の記事でも紹介した佐藤健二『柳田国男の歴史社会学 続・読書空間の近代』(せりか書房、2015年)に収録されている民俗学の雑誌リストで知った。(注1)
この雑誌は『日本民俗学大系』第11巻(地方別調査研究)(平凡社、1958年)の森口多里「岩手県」でも紹介されている。以下に引用する。
この雑誌は以下の記事で紹介したい橘正一の『民間信仰』(『化け物研究』)と同様に第1号で終わってしまったようである。(注2)
森口の文章では、鈴木重男のことが述べられていないが、鈴木は『大衆人事録 関東・奥羽・北海道編』(帝国秘密探偵社、1940年)で以下のように紹介されている。(注3)
鈴木は教育に携わりながら遠野の民俗学、郷土研究を行っており、岩手県の教育界でも重要な地位にいた人物であるようだ。鈴木は没年も分かっており、遠野郷土研究会編『遠野町誌』(遠野町、1953年)で以下のように紹介されている。
鈴木の簡単な経歴が分かったところで、以下に『遠野』の書誌情報を紹介したい。
書名:遠野 第一号
大きさ:約20.1cm×約13.2cm、活版印刷
印刷:大正十三年九月二十一日
発行:大正十三年九月二十七日
編集兼発行人:鈴木重男 岩手県上閉伊郡遠野町第十三地割三十一番地
印刷者:河原木市吉 岩手県上閉伊郡遠野町四六二番戸
印刷所:秀盛舎印刷株式社 岩手県上閉伊郡遠野町第十四地割三十五番地
発行所:遠野郷土館 ※鈴木の住所と同様
頁数:37頁
遠野から宮古島まで 本山桂川
赤巾の鉦の緒に就いて 佐々木喜善
旗屋の鵺の話 鈴木重男
白髭の洪水 鈴木重男
奴ふり 鈴木重男
地震の揺らないといふ所 佐々木喜善
大萩 鈴木重男
芭蕉塚の碑 子貞(鈴木吉十郎)遺稿
明治維新史料(一) 鈴木重男
雑録
遠野郷土館況
郷土研究会況
岩手山いろは歌
大手橋
おしら様
石器時代遺物発見追加
日本土俗研究所
尾崎の青出
編輯を了へて
上記に引用した『遠野町誌』によれば、子貞は重男の父である鈴木吉十郎である。興味深いのは、遠野出身ではない本山桂川(注4)が投稿している点である。以下の記事で紹介されているように、本山は佐々木喜善と深い交流があり、遠野を訪問している。この際に本山は鈴木にも会ったのだろうか。このような縁があったので、本山は『遠野』に投稿したのだろう。
他には気になるのは「遠野郷土館」である。前述の『遠野町誌』では、この施設について以下のように紹介されている。
遠野郷土館は、遠野における民俗学、郷土研究の中心であったが、昭和2年に貴重な資料と共に焼失してしまったという。どのような活動をしていたかが気になる。
(注1)佐藤健二「近代日本民俗学史の構築について/覚書 (日本における民俗研究の形成と発展に関する基礎研究)」『国立歴史民俗博物館研究報告告』165、2011年にもこのリストは収録されており、この論文はWebでも閲覧できる。
(注2)詳細は、Takashi Kamikawa「方言・民俗研究者・橘正一の発行していた『化け物研究』あらため『民間信仰』について」『草の根研究会会誌』第1号、2023年を参照。
(注3)鈴木はWeb NDL Authoritiesに収録されていない。同姓同名の人物が収録されているが、別人である。
(注4)本山については、以下の論文が参考になる。
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