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赤松啓介の郷土研究誌の評価

 別のことを調べている際に国会図書館デジコレで閲覧できる雑誌『学芸』第71号(1938年)に赤松啓介「郷土研究雑誌最新の動向」という文章が掲載されているのを見つけた。この中で赤松は当時地域で発行されていた雑誌の評価を行っているが、その評価が興味深いので以下に紹介したい。なお、赤松の評価は引用でなく私が要約したものである。

うとう 青森県 東北地方の雑誌にはろくなものがないが、この雑誌だけは光っている。最近の民藝特集がとてもよかった。

上毛文化 群馬県 民俗学的研究にも積極的関心を寄せている。全体としては文献的な趣味研究が多いが、最近では若い研究者が続々と進出している。

上毛及上毛人 群馬県 史談会的趣味のもので、その傾向もよくなく問題にするほどの価値はない。

越中郷土研究 富山県 研究水準に於いて極めて高い水準にある。

金沢民俗談話会々報 石川県 柳田国男が指導している典型的な雑誌。柳田風のために孤立的傾向がある。柳田風な中央研究者のために資料を蒐集しているような態度では地域の人びとの支持を得ることは困難なので従来の態度を反省すべき。

南越民俗 福井県 柳田指導下の民俗学雑誌。自分たちの力量以上に大きなことをやろうとしている。地域の研究を深化することは重要であるので着実な進路を見出して欲しい。

ひだびと 岐阜県 地方雑誌中のナンバーワン。雑誌の発行が継続できる経済的な基礎、雑誌に投稿する研究者とその研究があるのは羨ましい。民俗学及び考古学的な研究・報告・随筆がメインで町人的趣味にも堕ちていない。

上方 大阪府 町人的趣味が横溢した雑誌でこの種の雑誌のナンバーワン。「上方正月行事」、「河内」などの実のある特集号が出るが、通常は玩具を取り上げることが欠点。

紀州文化研究 和歌山県 例外はあるが、精神文化を強調しており、科学的ではない。

兵庫県郷土研究 兵庫県 考古・民俗学研究が中心で文献の研究も進んでいる。可能な限り計画と組織ある調査研究につとめており、単なる雑誌の配布にとどまることなく常に実際の研究との結合につとめている。

郷土文化 兵庫県 第8輯で休刊されることになったのが惜しい。

 ここでの赤松の評価基準は考古学・民俗学の研究を重視しているか、科学的な手法(赤松はマルクス主義運動に関わっていたのでここでの「科学」はマルクス主義に合致するという意味合いであったかもしれない)を採用しているか、地域を多角的な視点で研究しているかである。特に最後については以下のように述べている。

(前述)後者(Kamikawa注:或る特定の部門の全国的な研究の一部として地域的に深化させること)をとる人々に注告したいのは、現在ではそれが中央への隷属を強化し、地方自身への寄与することが少ないということである。南越民俗が明らかにする如く一部門だけでは地方的維持さえかえって限られるので、それかといって他の地方からの維持などというようなことは現在では不可能に等しいのだ。それがために払われる地方の大きな犠牲は、単に中央の研究者を利するにとどまらざるを得ないのが現在の機構である。だから地方の研究機関乃至研究者は、むしろ創意性の発揮が可能である前者(Kamikawa注:郷土として限られた地域の研究を総合的に深化させること)を基底とすべきで、そこからそれぞれの全国的な結合も見出されるべきであって(後略)

 ここで赤松は中央(ここでは柳田の周辺を想定していると思われる)の研究者のために地域を研究するのではなく、自分たちのために地域の研究を深化させることの重要性を強調している。後に繰り返し議論される中央(研究者)/地域(採集者)の収奪構造というテーマがこの時期に登場しているのが興味深い。また、地域的な研究を深化させるということは赤松が民俗学や考古学という当時の新興学問に期待していたことであったことがわかる。

 余談だが、『兵庫県郷土研究』は赤松も関わっていた雑誌であるので評価には彼のひいきも入っているかもしれないことをここに補足しておきたい。

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