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7-1.あえて「美しくない」ものを撮る

『動画で考える』7.ありふれたものを撮る

「美しい」と思うものを撮影して、なぜそれを美しいと思ったのかを考えてみよう。

動画を撮ろうと思って一歩外に出かけると、たくさんの「美しい」ものたちが、自分を撮ってくれと言わんばかりに、あちこちで待ち構え自己主張をしている。

例えばそれは「美しい」花だったり景色だったり、店頭にディスプレイされた最新のファッションだったり、友人と入ったカフェで出されたスイーツだったり、どこか気にかかってつい視線を送ってしまう男の子だったり女の子だったり、そのようなものたちで、無目的に動画を撮り始めると、ついついカメラを向けてしまうようなものだ。

観光地に行けばみんな手に手にカメラを持って「美しい」ものを探し回っているように思えるし、花火大会では、目の前にある花火を鑑賞するというよりも、いかにそれを「美しく」記録するかに必死に取り組んでいるように思える。

しかし、「美しい」ものを撮る、という行動には、いくつものワナがある。

「美しい」ものがあるだろうと予想して出かける目的地、それはカフェであったりデパートであったり、公園であったり観光地であったりするだろう。ネットやテレビで調べて、そこで写真や動画を見たり誰かがおすすめしているのを目にして、そこには自分が期待する「美しい」ものがあるだろうと予想する。

そしてその場所に出かけて、自分が事前調査してきた”その”「美しい」ものを探す。自分が探し求めるもの以外は目に入らない。そして苦労して(あるときは何時間も列に並んで)”その”「美しい」ものに出会ったときの感動といったら!飛びつくようにそれを動画で撮影したくなるのもわからないこともない。

こうして自分が探し求めていた「美しい」ものを目の前にして、いよいよ撮影開始するというときに、出来ればネットの動画で見たのと同じように自分でも撮影したいと思うかも知れない。だってそれが一番「美しく」撮れていたように思えるから。だからこそ、観光地で写真や動画を撮ろうとする人びとの間では、一番「美しく」撮影するためのベストポジションというものが存在する。そしていつもその場所には、順番待ちの行列が出来ている。

ネットで見たアイドルのように、自分もファッションやメイクをまねして、そしてポーズをとったり歩いてみたりするかも知れない。だって、それが「美しい」ということなんだから。だけど、「美しい」ものを撮影しようと思い立ったその時から、実際に撮影するまで、あなたはひたすら、誰かが教えてくれた「美しい」ものをひたすら探し求めて、それを捕まえようとして、それを再現して満足しただけだ。

「美しい」ものを撮影することはつまらない。

あなたが「美しい」という言葉を思い浮かべたその時に、あなたが撮影する動画がどんなものか、全ては決まっている。「美しい」桜の花を動画で撮影したいと思った時には、あなたの撮影する動画がどんなものになるのかは、もう決まっている。あるいは、有名観光地へ行って動画撮影する「美しい」景色は、誰が撮影するのかにかかわらず、その画面は最初から決まっている。観光地で売っている絵はがきが、自分で写真を撮影しなくても済むように、観光客が欲しい写真をあらかじめ用意してくれているのと同じ事だ。

だからこそ、「美しい」ものを撮影することはつまらない。

もっと正確に言えば、「美しい」ものを撮影しようと考える発想がつまらない。「美しい」ものを撮影しようと考えた時点で、すべては決定してしまい、それは誰が撮っても同じ動画になるからだ。これから動画を撮影しようというあなたの前には、あちこちに落とし穴が待ち構えていて、ありふれた「美しい」もののパターンにすっぽりはまって、そこから先には進めなくなってしまう。「美しい」という言葉を思い浮かべた瞬間に、頭は考えることをやめ、目は見ることを諦めてしまう。

あなたがビデオカメラを手にして、外へと出かけたときには、いつも、何からも自由に見たり考えたり出来るはずだ。しかし「美しい」もののワナはその自由を奪って、本当に見えているものも見えなくしてしまう。

「美しい」ものを回避しながら動画を撮影してみよう。

そこで、あえて「美しくない」ものを撮ってみよう。テレビも雑誌もネットも、だれも「美しくない」ものを紹介してくれはしない。誰も「美しくない」ものを求めて列を作ったりクチコミで広めようとしたりしないから、自分のカンと目と思考で探すしかない。だからそれは、人それぞれの「美しくない」ものになるはずだ。

ただし気を付けて欲しいのは、「美しくない」ものは「汚いもの」ではない、ということだ。「美しくない」を探すあなたを待ち構えているのは、「汚いもの」「醜いもの」「かわいそうなもの」「さみしいもの」といった別の落とし穴だ。そこにはまた、別の人びとが群がって、あらかじ用意された動画を追い求めている。「美しい」ものほどメジャーではないそれらの穴は、自分だけが発見した「美しくない」ものだと思わせるマイナーさがあって、そこで安心してとどまってしまいがちだ。

だからあなたは常に、「美しくない」ものを探し続けなければならない。そして動画を撮影しながら、自分が何かの穴にはまり込んでいないか、冷静に、自分が撮った動画を検証し続けなければならないのだ。

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