科学的根拠をもって毅然とした行動を
電車では、周囲を見渡せばけっこうな確率で多くの人がスマホを見ています。通勤時間での混雑はかつてほどではないにしろ、今もわりとスペースがない。そうなると余計に人は携帯電話に没頭するようです。行動制約理論では次のように報告しています。
人間は自分だけの物理的空間を侵略する人たちが増えるほど、それに順応して内向きになり、周囲の社会的・物理的な状況から提供されるものを排除する。
スマホは個人的な空間に逃げ込むには最適のツール。周囲との接触避けて、心地よいと感じる場所に逃げて、普段より集中してスマホを閲覧する。実は「混雑すればクーポンへの反応率が高まる」ということをご存知でしょうか?当事者にとって不快でしかない混雑。売り手にとっては絶好の販売チャンスであり、その理由は行動制約理論で示されています。
リアルな買い物においては、狭い空間に閉じ込められて自由が奪われそうに感じると、自由をとり戻そうとして逃避するということは長年の研究で明らかになっていました。大好きなブランドへの信頼がいっそう高まって、ショップ店員との雑談、情報収集が手短になります。
混んでいる電車の通勤客は、すいている電車よりも、クーポンへの反応率が2倍になることが研究によって示唆されています。その率3.22パーセント。一般的なモバイルクーポン反応率は0.6パーセント、位置情報連動型の効果的なプロモーションでもせいぜい1.65パーセントといわれているのでかなりの高反応率です。
過去50年におよぶ研究では、混雑と精神的な疾患や少年犯罪に結びつけた報告もあります。混雑はストレス、不満、敵意を増大させるとして、社会的な交流の減少、反社会的な行動を助長。周囲との交流から逃れた先にスマホというコンフォートゾーンがありました。
ところでなぜ、スマホユーザーが混雑した車両に乗車していることがわかるのでしょうか?昨日も少し触れましたが、スマホのGPS機能を効果的に活用した広告が販売されていて、巨額の広告費が生まれています。日本ではひょっとしたら法規制などで流通していないかもしれませんが、諸外国ではすでに一般化されています。
「スマート国家」では、国中に多数のセンサーとカメラを張りめぐらし、公共空間の清潔度から混雑度、登録されたすべての車両の正確な動きまで、あらゆることを政府が監視しています。テキストメッセージ、メール、通話、履歴などの個人情報も、政府の一存で自由に入手できる法律が定められています。
近年、急激な経済発展を遂げるシンガポールでは、セキュリティの向上と引き換え手にプライバシーが制限されることを国民が受け入れている(もしくは強制的に受け入れさせられている)ので、国民の行動はお見通し。同時に経済発展を実現して豊かな国家運営が展開されています。
ブルジョワ資本主義が失敗して、生産手段を労働者の手に委ねればうまくいくとしたマルクス社会主義も失敗。残された道はファシズム全体主義でしたが第二次世界大戦を契機に衰退しました。3つのイズムが、万能薬を提示して失敗し、そのイズムに変わるものとしてマネジメントが提唱されました。言うまでもなく提唱者はドラッカー氏。
人が必要とする財とサービスを提供し、かつ人との絆を必要とする社会的存在としての人間の幸せのために開発されたのがマネジメントです。民主主義では国民の権利が約束されており、プライバシーもそのひとつ。国民が間接的に、国家運営のディスカッションに参加して最適解を模索しながらのマネジメントです。
そして社会主義国では、強力な権威と権力をにぎる国家リーダーが、国民の幸せや国家の繁栄をビジョンにかかげて独断で意思決定がなされるマネジメントです。コロナ以前から顕著だった東欧諸国による民主主義の放棄。シンガポールや中国など、優秀な元首によるリーダーシップは、強引で国民の権利に不寛容ですが、結果的にもたらされる「成功」を求めて、多くの国が追随しているということでしょうか。
中国ではコロナが収束傾向。経済も大幅に改善して成長率もコロナ前に回復しました。国家主導のロックダウンなど、優秀な人たちによる独裁的なさまざまな意思決定によって一定の成果が認められつつあります。
反して日本はどうか?もうすこし時間がかかるのか?リーダーシップの欠如?それとも単なる無策なのか?はたまた、国民の意見を尊重しすぎた結果なのか?数値的な裏づけや科学的根拠を基に、毅然とした態度で国家の舵取りが行われるべきだと最近強く感じるようになりました。
久保大輔