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ガザ停戦交渉、最終局面か

ガザ地区最南部のラファへの軍事侵攻の準備を整えてからおよそ2カ月、イスラエルは米国や国際社会からの強い圧力を受けて地上作戦の開始を延期し続けてきた。イスラエル軍によるハマース掃討作戦は継続されているが、その規模は開戦時よりも縮小しており、ガザ地区における戦死者数も減少傾向にある(下グラフ参照)。

出所: ガザ保健省より筆者作成

ハマース殲滅を掲げるイスラエルがラファへの地上侵攻を控えていたのは、ガザ地区内の人道危機が深刻化し、イスラエルへの軍事支援を継続する米国内でもイスラエルへの反発が高まっていたことが大きな要因となっていた。米バイデン政権は、イスラエルにガザの人道状況の改善を再三申し入れており、市民の保護が十分に確保されない限りラファ侵攻には反対であると伝えてきた。

ラファ侵攻への外堀を埋めるイスラエル

イスラエルはラファ侵攻を行うとしつつも、米国からの要請に応えて人道危機の回避に向けた措置を進めてきた。4月23日には、ラファ近郊に多数のテントが設置されたことが確認されている

出所: "Tents appear in Gaza as Israel prepares Rafah offensive", BBC, 25 April 2024

これはラファに避難しているガザ市民を収容するためのキャンプであり、イスラエルが人道危機を最小化した上でラファ侵攻を行ったと正当化するための準備である。イスラエル国防省が10-12人を収容可能なテント40,000張りを調達したことが4月上旬に明らかになっているが、テントが設置されたということはガザ市民をラファから退避させる準備が完了しつつあるということであり、ラファ侵攻が目前に迫っていることの証左と捉えられる。

停戦交渉の進展

ガザ戦争では、エジプト、カタール、そして米国の3カ国が中心となって停戦を実現すべく仲介外交を続けてきた。もっとも、昨年には11月23日から30日の計7日間の停戦が成立したものの、それ以後は具体的な成果はほとんど得られていない。

停戦交渉が難航しているのは、イスラエルが軍事的には圧倒的に優勢な状況であり、人質の解放以外でハマースに妥協する余地がほとんどないことが最たる理由である。ハマースの殲滅と戦後のガザでの治安維持を目標に掲げるイスラエルにとって、恒久的な停戦を呼び掛けるハマースは紛争解決のための交渉相手にならない。イスラエルにとって人質の解放と引き換えに認められるのは一時的な停戦のみであるとの立場を堅持してきた。昨年の停戦合意でイスラエルは人質10人の解放につき1日の停戦を条件として受け入れているが、拉致された人質が250人前後であることを考慮すればイスラエルがいかに短期間の停戦しか想定していないかが分かるだろう。

仲介国3カ国はまずイスラエルが合意可能な停戦案を探るべく、数度のマルチ交渉を重ねてきた。そして1月28日にパリで実施された四者会談において、イスラエルの人質解放を2-3段階に分けて実現すること、その初期段階となる6週間で停戦の実現と35-40人前後の人質の解放を進めていくこと、第2-3段階においてイスラエル兵を含むその他の人質の解放を目指すことが四者の間で合意された。パリでの合意はその後の停戦交渉における素案となっており、2月24日に再度パリで開かれた四者会談において、イスラエルはパレスチナの囚人400人の釈放に加え、ガザ住民の一部がガザ北部へ帰還することが可能となるようガザ内でのイスラエル軍を再配置することについても合意している

もっとも、当事者であるハマースを除いて合意した停戦案は、原則論においても細部の詰めにおいても調整が難航している。2月下旬にはラマダーン開始までに停戦発効を模索すべく、イスラエルも代表団をカタールのドーハに派遣して3日間に及ぶ集中的な協議が行われたが、合意には至らなかった。3月下旬にも再度イスラエルの代表団がドーハ入りし、ハマースとの間接交渉が行われたが、これも決裂した。このときの交渉では、ハマースはイスラエル軍の女性兵士1人の解放につきテロ容疑で終身刑を受けているパレスチナ囚人30人の釈放を要求し、イスラエル側はこれに対し囚人5人の釈放ならば応じると返答したり、住民のガザ北部への帰還要求に対しイスラエルは停戦発効から二週間後に1日2,000人の帰還であれば認めると回答する等、かなり詳細な議論が行われたものの、両者の隔たりは埋まることがなかった。

ラファ侵攻への最後通牒?

停戦交渉に進展が見られず、そしてその裏でラファ侵攻の準備を着々と進めてきたイスラエルは、4月26日に仲介国のエジプトに対して、ハマースとの停戦交渉は「これが最後だ(one last chance)」と伝えた模様である。イスラエルは、これ以上交渉が長引くのであればラファ侵攻を開始すると突き付けることで、交渉フェーズを幕引きにしたい考えだ。

さらにイスラエルは、停戦の第一段階において解放される人質の数につき、これまで40人の解放に拘ってきたものの、33人の解放でも合意可能だと条件を下げてきた。イスラエルは解放される人質が少なくなった分は停戦期間が短くなるとし、33人解放の場合は停戦期間が6週間ではなく40日間になるとしているが、これまでの交渉の「相場」から考えるとイスラエルが譲歩したことは明らかである。これまでハマース側は20人の解放しか認められないと主張してきたが、イスラエルが先に譲歩を示したことは大きな意味を持つだろう。また、詳細な条件は不明なるも、イスラエルは開戦以来初めて停戦合意の中に恒久的な停戦の計画を含めることにも同意しており、これまで以上に合意の実現に前向きな姿勢を示している。

イスラエルが大きな譲歩を示したこの停戦案は4月29日にエジプト経由でハマースに伝えられ、ハマースは48時間以内の5月1日までに回答することになっていた。その後、ハマースは週末までに回答すると期限を延ばしているが、5月3日現在、ハマースからの返答は確認できていない。ハマースはイスラエルの提案を肯定的に受け止めているものの、「恒久的な停戦」案について「停戦(ceasefire)」ではなく「平穏(calm)」という定義が曖昧な語が使われていることや、イスラエルは軍の撤退に同意しているもののガザ市民が南部から北部に帰還できるようネツァリム検問所からも軍が撤退するのかどうか等について、エジプトに説明を求めている模様だ。

ハマースが合意内容の細部の詰めに拘るのはもっともなことだが、こうした対応が時間稼ぎだとイスラエルに見なされる可能性はある。また、国際刑事裁判所(ICC)がイスラエル政府高官への逮捕状発行を準備していると報道される等、立場の弱いイスラエルから更に譲歩が引き出せるとハマースが考えてしまえば、交渉の長期化を望まないイスラエルと完全に決裂する可能性が高くなる。交渉の仲介役となっているエジプトがハマースを説得できるかが焦点となるだろう。

2021年5月30日撮影のエジプトのアッバース・カーミル総合情報庁長官(左)と
イスラエルのネタニヤフ首相(右)。カーミル長官は2023年10月から続くガザ戦
争においてもエジプトの代表としてイスラエルとハマースとの仲介交渉を担う。

出所: イスラエル政府公式HP


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