中東情勢ウォッチ

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最近の記事

第二次トランプ政権の中東政策の展望

2024年11月5日に実施された米大統領選挙は、共和党候補のドナルド・トランプ前大統領が民主党候補のカマラ・ハリス副大統領を制し、トランプが2025年1月20日に大統領に返り咲く見通しとなった。 2017-2021年の第1次トランプ政権下では、前のオバマ政権が合意したイラン核合意からの離脱を決定したり、イスラエルとアラブ諸国との国交正常化を実現するアブラハム合意を推進したりと、米国の中東政策にも大きな変化が見られた。バイデン政権はトランプ前大統領の中東政策を批判し、イラン核

    • イスラエルによるイランへの報復攻撃

      10月26日未明、イスラエルはイラン国内の軍事施設20カ所を空爆した。イスラエルは4月の対イラン攻撃と異なり今回は攻撃の事実を認めている。イスラエル側の発表によると、同攻撃は10月1日にイランがイスラエルを弾道ミサイル200発で攻撃したことへの報復であり、テヘラン近郊やイラン南西部のエネルギー施設周辺のS-300防空システムを始めとする防空施設や、ドローン・ミサイル製造工場をピンポイントで標的にし、これを破壊することに成功した(下図参照)。 衛星画像を確認した限りでは、軍事

      • イランによるイスラエルへの弾道ミサイル攻撃

        攻撃の概要 10月1日夜19-20時頃、イランの革命防衛隊はイスラエル本土に向けて180-220発の弾道ミサイルによる攻撃を実施した。イスラエル軍は多数のミサイルを迎撃することに成功した、イスラエル国内での死傷者は確認できていないと発表している(10月2日朝時点)。他方、パレスチナのヨルダン川西岸において迎撃されたミサイルの破片によりパレスチナ人1人が死亡したことが確認されている他、同じく破片によりイスラエル人2人の軽傷者が出たことが報告されている。 革命防衛隊は「真実の

        • 【執筆情報】大規模空爆は「対ヒズブッラー」転進へのターニングポイントか:ガザと逆相関で増すイスラエル「第三次レバノン侵攻」の現実性

          国際情報サイトForesightに「大規模空爆は「対ヒズブッラー」転進へのターニングポイントか:ガザと逆相関で増すイスラエル「第三次レバノン侵攻」の現実性」を寄稿しました。Foresightの有料会員限定記事になりますが、ご関心のある方は以下のリンクからご確認ください。

          戦線の拡大が懸念されるガザ情勢④ - イスラエルによるヒズブッラーへの大規模工作の背景

          ヒズブッラーは、ハマースによるイスラエルへの奇襲攻撃の翌日となる昨年10月8日からイスラエルへの攻撃を開始しており、今日まで1年近く戦闘が続けられてきた。もっとも、ガザ方面では4万人を超える死者が発生しているのに対し、レバノン方面ではレバノン側に1000人前後、イスラエル側に50人前後の死者と、ガザと比較すると被害は限定的な規模に抑えられている。これはイスラエルもヒズブッラーも全面的な戦争に発展することを避けようとし、攻撃対象も軍事施設や軍人・戦闘員を優先的な標的にしてきたこ

          戦線の拡大が懸念されるガザ情勢④ - イスラエルによるヒズブッラーへの大規模工作の背景

          ハマースの新指導者にヤヒヤー・シンワールが選出

          ハマースの指導者であるイスマーイール・ハニーヤ政治局長が7月31日にイランで暗殺されたことを受け、8月6日にハマースはガザ地区の指導者であったヤヒヤー・シンワールを新たな政治局長に選出したと発表した。 1962年にガザ地区のハーン・ユーニスの難民キャンプで生まれたシンワールは、若い頃からイスラエルへの抵抗運動に身を投じ、ハマースの軍事部門の創設に関与、合計20年以上イスラエルに投獄された経験を持つ。2017年に当時ガザ地区の指導者だったハニーヤが政治局長に選出されると、ハニ

          ハマースの新指導者にヤヒヤー・シンワールが選出

          【執筆情報】ハマース指導者暗殺、ガザ戦争と「イスラエル・イラン関係」への影響で理解すべき重要ファクト

          国際情報サイトForesightに「ハマース指導者暗殺、ガザ戦争と「イスラエル・イラン関係」への影響で理解すべき重要ファクト」を寄稿しました。Foresightの有料会員限定記事になりますが、ご関心のある方は以下のリンクからご確認ください。

          【執筆情報】ハマース指導者暗殺、ガザ戦争と「イスラエル・イラン関係」への影響で理解すべき重要ファクト

          中国主導のパレスチナ「和解」?

          7月21日から23日、中国の北京においてパレスチナの14各派を集めた対話が開催され、各派の分裂を解消してパレスチナの団結を強化することを謳った「北京宣言」への署名がなされた。同対話にはヨルダン川西岸においてパレスチナ政府を主導するファタハのマフムード・アルール中央委員会副議長と、ガザ地区を実効支配するハマースのムーサー・アブー・マルズーク政治局次長が代表としてそれぞれ参加しており、ヨルダン川西岸とガザ地区の分裂状態を解消することが期待されていた。北京宣言では、パレスチナ解放機

          中国主導のパレスチナ「和解」?

          オマーンで「イスラーム国」によるものと見られるテロ事案が発生

          7月15日夜、オマーンの首都マスカットの郊外に位置するワディ・カビール地区にあるモスクにおいて襲撃事件が発生した。実行犯は自動小銃を用いてモスクに集まっていた人々を銃撃、現場に到着した治安部隊と銃撃戦となり、実行犯3人を含めて9人が死亡、30人超が負傷した。 同事案についてイスラーム過激派組織の「イスラーム国」の広報機関であるアアマーク通信が翌16日に以下の犯行声明を発出している。 上記の犯行声明では、「「イスラーム国」の戦闘員により、シーア派とオマーン軍に35人以上の死

          オマーンで「イスラーム国」によるものと見られるテロ事案が発生

          イラン大統領選の決選投票で改革派が勝利

          第14期イラン大統領選挙の決戦投票が7月5日に実施され、改革派のマスウード・ペゼシュキヤーン候補が保守強硬派のサイード・ジャリーリー候補を破り、当選した。同選挙は6月28日の第一回投票にて過半数の票を獲得した候補がいなかったため、第一回投票での得票数上位2名による決選投票となっていた。 選挙結果は以下の通り。 事前の予測では、有力な保守穏健派・改革派の候補が資格審査で排除され、残された唯一の改革派候補であるペゼシュキヤーンは知名度が低いのに対し、競合する保守強硬派候補は政

          イラン大統領選の決選投票で改革派が勝利

          第14期イラン大統領選挙の結果

          選挙の概要 6月28日、第14期イラン大統領を選出するための選挙が実施された。同選挙は5月19日にヘリコプター墜落事故で現職のエブラーヒーム・ライーシー大統領が死亡したことによる選挙である。 監督者評議会による事前資格審査により80人の立候補者は6人にまで絞られ、保守強硬派のアフマディーネジャード元大統領やアリー・ラーリージャーニー前国会議長、保守穏健派のロウハーニー政権期のジャハーンギーリー前第一副大統領等の有力者は事前に排除された。残された6人の候補者は、改革派のハー

          第14期イラン大統領選挙の結果

          激化するガザ情勢⑤

          1月から続いてきた停戦交渉が決裂し、5月6日にイスラエルはガザ最南端の街であるラファへの侵攻作戦を開始した。イスラエルは当初、これが米国がレッドラインだと警告する「全面的な(full/major/all-out)」軍事作戦ではなく、「部分的な(partial/limited)」作戦だと表明していたものの、侵攻開始から1カ月、ラファ全域が戦場となっている。イスラエル軍は作戦開始直後にラファ検問所を制圧すると、ラファ中心部に入る前にエジプトとガザの国境地帯フィラデルフィア回廊を支

          激化するガザ情勢⑤

          第10回中国・アラブ諸国協力フォーラム閣僚級会合が北京で開催

          5月30日、北京にて第10回中国・アラブ諸国協力フォーラムの閣僚級会合が開催された。2004年にエジプトのカイロで初めて開かれた中国・アラブ諸国協力フォーラムの閣僚級会合は、その後2年置きに中国といずれかのアラブ諸国において交互に定期開催されてきた。前回の第9回会合は2020年7月に開かれており、今回と4年の月日が空いてしまっているが、2022年12月にはサウジアラビアのリヤードで初となる中国・アラブ首脳会合が開催されているため、今年の北京開催は定例通りの開催である。 今回

          第10回中国・アラブ諸国協力フォーラム閣僚級会合が北京で開催

          クウェート:サバーハ・ハーリド元首相が皇太子に指名

          6月1日、クウェートのミシュアル首長は勅令を発出し、サバーハ・ハーリド元首相を皇太子に指名した。昨年12月16日にミシュアル首長が就任して以降、クウェートでは皇太子の座が空位のままになっていた。通例では首長就任から数日で皇太子の指名が行われるものの、憲法上は首長就任から1年間の猶予がある。これまでの首長交代と異なり、今回は皇太子候補となる有力者が複数いたことから、新皇太子の指名をめぐって国内の議論は紛糾していた。クウェートは現在、議会が停止しており、憲法の一部条項が凍結されて

          クウェート:サバーハ・ハーリド元首相が皇太子に指名

          イランのライーシー大統領が事故で死亡

          イランのエブラーヒーム・ライーシー大統領が搭乗したヘリコプターが5月19日に墜落、20日に大統領含めた搭乗者9人全員の死亡が確認された。同乗者にはアブドゥルラヒヤーン外相、ラフマティー東アゼルバイジャン州知事、アリー=ハーシェム東アゼルバイジャン州最高指導者代理等がいた。墜落の原因やライーシー大統領等の直接の死因は不明であるが、事故当時に現場付近では濃霧が発生しており、墜落した機体は大破していることから、事故による死亡の可能性が高いと見られている。一部メディアでは暗殺の可能性

          イランのライーシー大統領が事故で死亡

          クウェート議会の解散、憲法の一部条項の凍結

          5月10日夜、クウェートのミシュアル首長は、議会の解散と4年を超えない期間において憲法の一部条項を凍結させる首長令を発布した。議会の権限は首長と政府が引き継ぎ、この期間において憲法の改正について進めることになる。1962年に成立したクウェートの憲法が停止されるのは、1976-81年の5年間、1986-92年の6年間に続き3度目となる。 首長令の発布にあわせてミシュアル首長は国民向けの演説を実施し、国家が大きな困難に直面しているために今回の厳しい決断をせざるを得なかったと説明

          クウェート議会の解散、憲法の一部条項の凍結