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停滞するガザ停戦交渉

これまで断続的に行われてきたイスラエルとハマースとの停戦交渉は、8月以降大きな停滞局面に入っている。

イスラエルが7月31日にハマースの指導者であるイスマーイール・ハニーヤ政治局長をイランで暗殺し、その後任に強硬派のヤヒヤー・シンワールが新たな政治局長に就いたことで、停戦交渉継続の機運は大きく損なわれた。8月25日にカイロで交渉が実施されたのを最後に、およそ2カ月間に渡り交渉は凍結されていた。

その後、10月16日にシンワールがイスラエル軍との戦闘により死亡したことで、仲介者である米国は停戦交渉の再開に動き出す。そして10月27日にはカタールで2カ月ぶりに交渉が実施されたものの、ほとんど成果なく終わってしまった。これまでの停戦交渉では、解放・釈放する人質・囚人の数や停戦期間の長さ等の細かい条件についてもメディアで報じられていたが、10月27日の交渉では内容がほとんど伝えられていない。報道が出ていないだけで秘密裏に交渉が進んでいる可能性は完全には否定できないが、交渉が細部に入るはるか手前の段階で決裂しているためにリークできる交渉内容自体がないと見るのが妥当であろう。仲介国であるエジプトは、事態を少しでも前進させるために、2日間の停戦、イスラエルの人質4人の解放とパレスチナ囚人数人の釈放、ガザ地区への人道支援物資の搬入を条件とする停戦案を提案したことを明らかにしているが、これは受け入れられなかった模様である。

状況が停滞していることを受けて、仲介国であるカタールは双方が交渉に前向きになるまで仲介努力を停止すると通告したことを11月10日に発表した。カタール外務省の発表によると、通告は10日前に双方に伝達されたとしており、10月27日に2カ月ぶりの交渉が再開してからわずか3日で仲介を停止する意思が表明されたことになる。このことから考えても、10月27日の交渉がいかに成果が無いものであったかが窺えるだろう。

イスラエルとハマースとの仲介を停止することを発表するカタール外務省のアンサーリー報道官
出所: カタール外務省

停戦交渉をめぐっては、5月31日に米国のバイデン大統領が「包括的な新提案」を発表したことが大きな注目を集めたが双方の立場の溝は開戦当初からほとんど変わっていない。イスラエルはガザ地区における将来的な脅威を排除するため、ハマースを殲滅するまで停戦はあくまで一時的なものであり、戦後も治安維持のための軍の駐留ないし介入を求めている。一方、ハマースはイスラエル軍のガザ地区からの全面撤退と恒久的な停戦を前提条件にするよう要求している。

これに加えて、イスラエル政府は7月以降エジプト・ガザ国境のフィラデルフィア回廊でのイスラエル軍の駐留継続を主張するようになっている。8月30日には同回廊での駐留継続について安全保障閣議で決定を下しており、閣内で唯一反対していたガラント国防相は11月5日に解任されていることから、戦後のイスラエル軍のガザ地区内での駐留継続はイスラエルの統一された意思となっている。イスラエルの新たな要求が、イスラエル軍の段階的な撤退を盛り込んでいた過去の停戦案と矛盾していることは明らかであり、カタールを始めとする仲介国の面子が潰されたことは疑いない。

さらに米民主党政権の交代が確定した今、イスラエル政府はバイデン政権からの停戦圧力を受けることはない。親イスラエル姿勢の強いトランプが新たな大統領に就任すれば、イスラエルは停戦案にこれまで以上に強気の主張を盛り込んでくることも予想される。一方、トランプは自身が大統領に就任するまでに戦争を終結させるようネタニヤフに要請しており、自らの政治生命の延長のために紛争を長期化させようとするネタニヤフとトランプの利害は一致していない可能性もある。

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