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ガザ停戦合意の成立

1月15日、イスラエルとハマースは、米国、カタール、エジプトの仲介を受けて1月19日から停戦に入ることで合意した。停戦の履行は3段階に分かれており、恒久的な停戦に至ることが目指されている。

停戦合意の主な内容は以下の通り。

<第1段階(42日間)>
・双方が戦闘を停止
・ハマースは拘束している人質 33人を解放、イスラエルは1000人以上のパレスチナ人囚人を釈放する。
・イスラエル軍はガザ地区内の人口密集地から国境付近まで撤退する。また、イスラエル軍はエジプト・ガザ国境のフィラデルフィア回廊から段階的に部隊を縮小させ、最後の人質・囚人交換が実施される42日目の後に部隊の完全撤退を開始、50日目までに撤退を完了させる。
・傷病者のガザ地区外への移動、避難民のガザ北部への帰還について条件付きで認める。
・第2段階の履行の詳細について協議を実施する。協議が継続している間は第1段階の措置は継続する。

<第2段階(42日間)>
・ハマースは拘束している残りの人質全員の解放、イスラエルは更なるパレスチナ人囚人の釈放を実施する。
・イスラエル軍はガザ地区から完全に撤退する

<第3段階(3-5年)>
・双方の遺体の引き渡し
・ガザ復興計画の実施
・イスラエルによるガザ封鎖の解除

上述の停戦案は、2024年1月のパリ協議で合意された案を踏襲しており、この1年間で土台とされてきた停戦案から大きな変化は見られないものの、細部ではイスラエルが譲歩した内容となっている。例えば、イスラエルは5月の交渉では解放される人質が33人の場合は停戦期間は42日間ではなく40日間にすべきと主張していたが、今回の合意では42日間の停戦を受け入れている。また、フィラデルフィア回廊については7月以降イスラエル軍の駐留継続を主張し、8月には閣議で駐留継続を決定して、これに反対したガラント国防相を11月に解任するまでに至ったが、今回の合意では第1段階において軍の撤退を開始することを認めている。また、イスラエルは停戦合意案に「恒久的」という表現を入れることを避け、「持続可能な平穏(sustainable calm)」と表現することを要求していたが、今回の合意の附属文において「恒久的な停戦を実現する持続可能な平穏に戻す(return to a sustainable calm which would achieve a permanent ceasefire)」との文言が入れられており、この点においてもイスラエルは譲歩を示したと言える。

昨年10月末に交渉が頓挫して以来、ほとんど動きのなかったガザの停戦交渉が急速にまとめられたのは、トランプ次期米国大統領が1月20日の政権発足前までに停戦を実現することを強く望んだことが背景にあると指摘されている。トランプ政権で中東担当特使に就任する予定のスティーブ・ウィットコフは、バイデン政権と協調して停戦交渉に深く関与しており、イスラエルを訪問してネタニヤフ首相と会談し、トランプの意向を伝えたという。ネタニヤフ首相はイスラエルによるパレスチナへの入植計画には寛容なトランプとの将来的な関係を損ねないためにも、ガザでの停戦で譲歩を示すことで大統領就任直前の「手土産」にした可能性が高い。

ハマースは今回の停戦合意を「勝利」と喧伝しており、停戦の成立を前向きに受け止めている。停戦が発効した後も様々な合意違反が発生することが予想されるが、大規模な攻撃は停止されるようになり、人質・囚人の解放も進んでいくだろう。一方、ハマースの軍事力がどれだけ損耗したかは不明であり、イスラエルがハマースの脅威が十分に排除されていないと判断すれば、イスラエル軍のガザ地区内からの撤退は見直される恐れがある。また、第2段階への移行は42日間の猶予しかなく、この期間内に交渉がまとまることは極めて困難と見られる。合意の履行期間が過ぎたとしても停戦状態が継続することは十分に有り得るが、イスラエル軍が空爆や掃討作戦を散発的に実施する可能性は低くないだろう。ガザの復興においても現地で受け入れ側の主体となる組織について、イスラエルはハマースやUNRWAが役割を担うことを否定しており、全面的な和平の達成までに解決すべき問題は山積している。

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