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オマーンで「イスラーム国」によるものと見られるテロ事案が発生

7月15日夜、オマーンの首都マスカットの郊外に位置するワディ・カビール地区にあるモスクにおいて襲撃事件が発生した。実行犯は自動小銃を用いてモスクに集まっていた人々を銃撃、現場に到着した治安部隊と銃撃戦となり、実行犯3人を含めて9人が死亡、30人超が負傷した。

同事案についてイスラーム過激派組織の「イスラーム国」の広報機関であるアアマーク通信が翌16日に以下の犯行声明を発出している。

「イスラーム国」の広報機関アアマーク通信による犯行声明

上記の犯行声明では、「「イスラーム国」の戦闘員により、シーア派とオマーン軍に35人以上の死傷者が出た」としており、「3人の「イスラーム国」の戦闘員(انغماسي)は、毎年行われる儀式をしていたシーア派の集会を襲撃した」とあり、シーア派を標的にしていたことが読み取れる。もっとも、実行犯と「イスラーム国」の関係の度合いは不明であり、今回の事案が指示に基づく作戦であったかは言及されていない。

オマーンは中東諸国の中でも治安が良いことが知られており、テロ事案も他の中東諸国に比べて極端に少なかった。オーストラリアの平和経済研究所が毎年発表する国別のテロ活動の活発度を指標化したGlobal Terrorism Index 2024(PDFリンク)においても、隣国のサウジアラビアのスコアが1.366で第60位、UAEが0.233で第79位なのに対し、オマーンのスコアは0で同率最下位の第89位に位置している(日本のスコアは1.189で第64位。1位はブルキナファソで8.571、2位はイスラエルで8.143)。

オマーンでテロ活動がほとんど見られないのは、オマーンが立地的に中東の紛争の中心地から距離が遠く、オマーンの中庸的な外交方針は地域内において「悪目立ち」していないことから、テロ組織の優先的な攻撃対象にならなかったことが影響している可能性がある。さらに、オマーン国民の宗派分布は約6割がイバード派、約3割がスンナ派、約1割がシーア派と言われており、アル=カーイダや「イスラーム国」のようなスンナ派のイスラーム過激派との思想的距離が遠い国民が多いため、潜在的なシンパが少ないことも指摘されていた。オマーン社会においても宗派的な分断が存在することは否定できないが、他の中東諸国に比べると宗派対立と呼べる程の政治的な分断は起きておらず、概ね融和的な社会が形成されていたと言える。

今回のテロ攻撃では、首都マスカットの中でも旧市街の郊外に位置するシーア派モスクが標的にされ、しかもシーア派の重要な宗教行事であるアーシューラーを標的にしたことから、シーア派を異端者として攻撃することに拘る「イスラーム国」の思想様式には一致している。もっとも、なぜパキスタン人やインド人といった外国人労働者が利用する旧市街の郊外のモスクが狙われたかは不明である。マスカットには新市街の中心により大きなシーア派モスクもあれば、旧市街でもスーク(市場)の真横に位置する歴史の古い伝統的なシーア派モスクもある。実行犯の情報は明らかになっていないが、もしオマーン人による犯行であるとすれば、シーア派に加えて外国人への差別感情が行動に影響を与えた可能性も否定できない。

こうした単発のテロ事案がオマーンの治安や地域の不安定化につながる可能性はほとんど無いが、フランスのテロリズム分析センターのケビン・ジャクソン研究員によると、「イスラーム国」のイエメン支部が湾岸諸国への浸透を図っていることが2017年に確認されており、活動の広がりには注視を要する。

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