「問題」入門以前
はじめに
ビジネスの現場においては、大小様々な「問題解決」を迫られることに直面します。日々の生活においても全人類にとって避けては通れないスキルです。それにもかかわらず「ぜんぜんわからない、俺たちは雰囲気で"問題解決"をやっている」気がすることはありませんか?
今回の記事では、参考文献から問題解決への道筋を学んでいきます。
また、最後に参考文献をリストしています。未読であればぜひ読んでみてください。
1. 問題の定義とは?
問題とは、現状と理想との間のギャップと表現されます(*1)。この説明からは「ギャップ」が判明すれば問題が明らかになるように聞こえますが、実際には一筋縄ではいきません。なぜなら上記引用にもあるように、物事の認識は、各々の視点や置かれた状況、知識や経験によって異なるからです。つまり「理想」と「現状」の認識は個々人の異なるフィルターを通して認識されつつ問題が定義されます。
たとえば、SaaSスタートアップの状況に当てはめてみます。カスタマーサクセスのAさんは、直面している顧客の苦情やチャーンリスクを危惧しており、一方でエンジニアのBさんは、限られた開発リソースや要求の妥当性(真に必要とされてるのか?)、あるいは経験則から特定カスタマイズにおける将来的な技術的影響を危惧しているかもしれません。
認識・視点のギャップが原因で議論の進行を阻害し、建設的なアウトプットに繋がりにくい状況が生まれがちです。
お互いの立場や前提共有、問題の定義について議論を提案するのは時にハードルが高いですが、いまいち議論が嚙み合わないまま会議やプロジェクトを進めた後でそもそも論に立ち戻るよりも、一度「そういえば問題は何でしたっけ?」と質問することはとても重要です。
2. 問題は何なのか?
「なかなか来ないエレベーターの問題」は問題を捉え直すことが、解決策にどのように影響を与えるかを示唆しています。
🦥なかなか来ないエレベーターの問題
エピソードの要点をざっくり記載すると以下になります。
ビルの各テナントはエレベーターが遅いことに不満を持ち、一部はビルからの退去を考えている。
そのため「エレベーターの速度を上げるための技術的な改善」という直接問題に働きかける対応を検討したいが、当然高いコスト(金 / 時間)が発生する
問題を捉えなおして「エレベーターが遅い」という問題を「待ち時間の体験が悪い」という問題に変えることで、新たな選択の余地が生まれる
このエピソードでは、エレベーターの横に「鏡を取り付ける」というアイデアが用いられていました。
エピソードを例に、「問題は何か?」という問いかけが「待ち時間の体験の悪さ」という新たな視点への気づきを促し、「エレベーターの速度が遅いことは実際にはどれほど問題なのか?」という問題の捉え直しを可能にします。これにより、解決策が「エレベーター自体の改良」に限定されず、より多様な選択肢へと広がっていきます。
もちろん、エレベーターそのものを改良することは間違いなく一定の効果は望めそうです。しかし、工期や多額な費用も発生するためビルのオーナーは慎重にならざるを得ません。最悪の場合「速くなったが苦情がなくならない」懸念も残されています。
このように「●●が遅い」にまつわる問題を、自社のサービスや問題に置き換えて見るもの面白いかもしれません。
3. 問いを変える
もう少し架空のエピソードから留意点について深堀りしていきます。
とある企業で、問い合わせの応答が遅いことが顧客満足度の低下の主な原因と見なされていたとします。
まず、思いつく仮説を元に原因を究明することが多いと思います。そして、このまま改善の余地が見つかり問題は解決するかもしれません。
プロセスの詳細を洗い出してボトルネックを特定する
スキル習熟における研修品質やフォーカスすべき内容の見直し
これらの取り組みを通じて、一定の効果は出たものの、依然として問題が発生する状況があるとしたら、どうしていくべきでしょうか。
🔍なぜ顧客は問い合わせをするのか?
問題に立ち返り、問いを変えてみることで別の視点が見つかるかもしれません。
上記のようにサービス性にも注目することで、「応答が遅い」という問題は、「顧客も適切に質問することが難しい」「スタッフも顧客の状況を適切に理解するのに苦労している」「スタッフは顧客への適切な説明の言語化に苦労している」などの背景が見えてくるかもしれません。このことは、問題解決に取り組むための新たな視点を与えてくれます。
そのことを踏まえた上で、今度はどこに問題があり、どこは問題ないのか?を洗い出してくことで改善すべき箇所を特定できるかもしれません。
🔍それはどれくらい問題なのか?
上記の「応答が遅い」ことについて、問題箇所の仮説を同僚に壁打ちしたところ「どんな顧客層が問い合わせているのか?」と指摘を受けたとします。
そこから、問い合わせのデータを集計分類して顧客層を調べたところ、9割の問い合わせが特定の顧客層であり、事業計画上、次の半年間で重点をおいている顧客層からの問い合わせは、ほぼ発生していないことが判明しました。
何かしらで対策は必要ではあるものの、解決のための優先度判断などに考慮が必要だと分かります。
まとめ
問題とは現状と理想のギャップであるが、個々人で「現状」や「理想」の認識が異なることに注意が必要。それは置かれた立場や知識、経験に依存する。
認識にギャップがあることが建設的な議論を妨げかねない。「問題は何か?」と問い直すことが大切。
問題は異なる視点から捉え直すことで、新たな選択の余地が生まれる。問いを変えて原因を掘り下げることが重要。
最後に
少し強引ですが、この引用にはとにかく触れておきたいと思っていました。
上記の引用文が示唆するのは「問題は決して無くならない」ということにつきます。何かが解決策されることは、別の何かに不具合が起きることに他なりません。問題が連鎖していく性質を示唆しています。
「問題なくならないなぁ~」と感じたなら、この項を思い出し、問題は無くなるものではなく、常に供にありつつ「解決され続けるもの」だと捉えなおすと気が楽になるかもしれません。
この記事が問題に向き合うきっかけとなれば幸いです!
📙参考文献
どれも良書です。ただし「ライト、ついてますか?」は癖のある文章で少し読みづらかったので注意が必要です。
📝追記
弊社情報です。業務企画担当や不正検知 / AMLなど興味がある方はぜひ!
📝補足
(*1)WikipediaのEnglish版はシンプルで分かりやすい表現だなと感じました。
(*2) 少し一般的な内容で記載しましたが、FinTechや特定業界などは制約が厳しく、どうしても削ぎ落とせない画面や記載事項があることもしばしば。この辺は悩ましいところです。